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聖光学院vs広陵 歳内・有原が演じた極上の投手戦【名勝負列伝その4】

2022.08.19
聖光学院vs広陵 歳内・有原が演じた極上の投手戦【名勝負列伝その4】 | 高校野球ドットコム
高校時代の歳内宏明

聖光学院×広陵

 思わぬ形で点が入ったのは、聖光学院(福島)7回の攻撃だ。

 2010年、第92回全国高校野球選手権大会。屈指の名勝負は、第6日の聖光学院広島広陵(広島)。2回戦だが、どちらもこの大会の初戦。聖光学院歳内宏明広島広陵有原航平の両先発ともに万全なコンディションが、極上の投手戦を演出する。

 6回まで、歳内が4安打2四球で無失点なら、有原は2安打無四球で三塁を踏ませない。センバツでベスト4の原動力となった有原は、まあ実力通りだ。センバツ後にヒジ痛に苦しんだが、広島大会では22回を投げて3失点、28三振。球速は145キロ超えと、これはもう完全復活である。

 驚きなのは聖光学院の2年生、歳内だ。春から登板機会を増やし、夏の大会前にスプリットを習得すると一躍主戦に。福島大会では29.1回を投げて35三振を奪い、わずか1失点だ。

「(スプリットは)高さも調節できますし、カウントを稼ぐのにも投げ分けられる。握りはそのままで、投げ方を少し変えれば、シンカーのような変化もします」

 と本人のいう魔球は、斎藤智也監督によると「握りはほぼフォークですよ。県大会からは、はさむ深さによって微妙に軌道を変えることを覚えたようです」ということになる。

 歳内の最大のピンチは6回。2死一、二塁から同じ2年の好打者・丸子達也に二塁左を破られた場面だ。均衡、破れるか——。

 だがここは、本塁を狙った二塁走者が外野からの好返球に憤死。丸子は、この1安打はあるものの歳内から2三振を喫し、「低めに手を出してゴロを打たされるのを警戒したんですが、球の見極めが甘かった」と、スプリットのキレに脱帽だ。

 そして迎えた、7回。聖光学院は足をからめた2本のヒットで1死一、三塁のチャンスをつくる。後続の一塁ゴロで2死二、三塁の場面。打席の聖光・星祐太郎は有原の147キロ低め直球を空振りする。スリーストライク。だが、地面すれすれのこの球を、広島広陵の捕手・新谷淳が捕り切れない。これが痛恨の暴投となり、なんとなんと振り逃げで聖光学院に虎の子の1点が入った。

「抑えてやろう、という気持ちが強くて、力んでしまったかもしれません。いろいろな人たちに支えてもらったから、夏こそ日本一と思っていたんですが……でも、力は出せた」と有原はいうが、その後も広島広陵打線は歳内を打ちあぐね、試合はそのまま1対0。

 歳内が「100点満点」と自賛する5安打完封には、広島広陵・中井哲之監督も、「先頭打者を出せず、なかなか三塁を踏めず、本当にうまいピッチングをされました」と脱帽だ。

 歳内は、続く履正社(大阪)との一戦では一転、最速142キロの直球を主体に10奪三振で2失点完投(ただし、山田哲人にはソロ本塁打を浴びている)。準々決勝で、春夏連覇する興南(沖縄)に敗れたが、聖光学院にとっては自信となった大会だ。斎藤監督が述懐する。

「野球の神様は、乗り越えられる壁しか用意しないっていいます。ウチが負けるのはなぜか、全国制覇経験のあるチームが多いんですよ。だけどそれは、われわれへの問題提起だととらえています」

 なるほど、たとえば夏はこの年が4年連続出場だった聖光学院だが、敗れた相手を見ると07年が広島広陵、08年横浜(南神奈川)、09年PL学園(大阪)……ついでにいえば08年春は沖縄尚学、この夏は興南と、確かに、優勝経験校がずらりだ。

 この大会も、抽選の結果、初戦の相手が広島広陵となり、内心は「あちゃ〜」だったという。なにしろ広島広陵のエース・有原は、この世代ナンバーワンの呼び声が高かったのだから。それが、かたちはどうあれ1対0の勝利。斎藤監督はいう。

「試合のあと、中井監督が”日本一になってください。それにふさわしいチームです”といってくれたんですよ。それがうれしかったですね」

 その後も聖光学院は、たとえば15年夏には、優勝する東海大相模(神奈川)に初戦で敗れるなど、難敵が立ちふさがり、甲子園では8強の壁が分厚い。ただ逆をいえば……その壁を乗り越えれば、東北勢初の日本一が見えてくるのかもしれない。

(文=楊 順行

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