この1年の悔しさ、この一戦にぶつける・鹿児島実
健闘を称え合う両校ナイン(奄美新聞提供)
<第104回全国高校野球選手権鹿児島大会:鹿児島実2-1神村学園(延長11回)>◇8日◇1回戦◇平和リース
鹿児島実と神村学園。昨夏は準決勝で対戦した強豪同士が今夏は初戦で激突した。今大会の初戦ナンバーワンの注目カードを一目見ようと、平日の昼間の試合にも関わらず、週末のような人出でスタンドはにぎわった。まるで準々決勝以上の上位の対戦を見ているような雰囲気の中、その雰囲気にふさわしい引き締まった好勝負を両チームが繰り広げた。
先制したのは鹿児島実。2回表、1死から連打で一、二塁として、相手のエラーで二走・駒壽太陽主将(3年)が生還した。
前半は鹿児島実が押し気味に試合を進める中、4回表に2死から四球、ヒットで一、二塁としたところで神村学園はエースの右腕・朝吹 拓海(3年)から左腕・内堀 遼汰(3年)にスイッチする。四球で満塁とした内堀だったが、4番・永井 琳(3年)を気迫の投球で見逃し三振に仕留め、ピンチを脱した。
ピンチの後にチャンスあり。神村学園はその裏、四球で出塁した3番・福田 将大(3年)が2つの暴投で三塁まで進み、5番・富﨑 大都(3年)の一ゴロで福田が判断良く生還し、無安打で同点とした。
5回以降は鹿児島実・赤嵜 智哉(3年)、神村学園・内堀、大会屈指の両左腕が目の覚める好投を繰り広げ、両者得点が奪えず、延長戦へ。
11回表、鹿児島実は2死から2つの安打と四球で満塁とすると、5番・濵﨑綜馬(3年)が値千金の右前適時打を放って勝ち越す。
その裏は赤嵜が三者凡退で切り抜け、シード神村学園から勝利をもぎ取った。
試合終了後、喜びを爆発させる鹿児島実・赤嵜 智哉(奄美新聞提供)
最後の打者を137キロ、渾身の直球で空振り三振に仕留めると、赤嵜は勢い余って1回転し、まるで甲子園を決めたかのような雄叫びを上げ、バッテリーを組む濵﨑と抱き合って勝利の喜びをかみしめた。
「ようやくフルメンバーがそろって勝てた」ことが何よりうれしかった。
この1年間、苦しい思いをし続けた。昨夏は決勝で先発を任されるも、ライバル樟南に完敗で甲子園に行けなかった。エースとして期待されながらそれ以降は、左ひじの疲労骨折でマウンドに立てない日々が続く。チームも昨秋は2回戦で鹿屋中央に完敗。今春は準々決勝で神村学園にコールド負け。ようやくマウンドに立てるようになったNHK旗は鹿児島玉龍に初戦敗退だった。
エースの責務を全うできない悔しさをかみしめつつ、最後の夏一本だけに全てをかけるつもりで調整を続けた。打者として能力も高い赤嵜なら外野を守らせて打撃で貢献する道がありながらも、宮下正一監督は「外野の返球もさせたくなかった」と心を鬼にして赤嵜が完全回復するまで我慢した。
組み合わせ抽選会で初戦が神村学園と決まって「今だから言えますけど、胃が出そうなほど緊張しました」と宮下監督。ノーシードになった宿命とはいえ、あまりの巡りあわせに弱気になりかけたが「倒すとしたら初戦しかない」とも思えた。打線のエンジンが温まった大会終盤での対戦なら勝機は見出せそうになかったが、初戦なら戦えるかもしれない。「相手が神村学園と決まってから練習の雰囲気も明るかったです」と赤嵜は言う。
立ち上がりから赤嵜も、宮下監督も「ボールがきていない」と感じた。「すぐに打たれるかもしれない」不安が指揮官にはよぎったが、「球速が出ていない分、コースを丁寧に突く」ことを赤嵜は意識した。スライダー、そしてここ最近でブレーキのかかりだしたチェンジアップが効果的に決まり、強打の神村学園を11回までわずか6安打、1本の長打も許さなかった。
自分がマウンドにいて、この1年間できなかったベストメンバーで神村学園に挑み「熱い戦いができた」自信をこれからの戦いにも生かす。
(取材=政 純一郎)