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前橋育英、健大高崎、桐生第一の3強撃破に燃える公立の雄・前橋商 88人の大所帯で12年ぶり甲子園へ

2022.07.06
前橋育英、健大高崎、桐生第一の3強撃破に燃える公立の雄・前橋商 88人の大所帯で12年ぶり甲子園へ | 高校野球ドットコム
星野 歩夢主将(前橋商)

前橋育英、健大高崎、桐生第一の3強撃破に燃える公立の雄・前橋商 88人の大所帯で12年ぶり甲子園へ | 高校野球ドットコム

トーナメント表
群馬大会の組み合わせ

 群馬県の「公立の雄」前橋商は、センバツ3回、夏の甲子園5回の計8回の甲子園出場経験を誇る。近年の群馬県の高校野球は前橋育英健大高崎桐生第一の「私学3強」が牽引するが、前橋商も「打倒・私学」を目指す公立勢として常に上位進出を果たしている。

 昨秋は県準決勝で桐生第一に0対7で敗戦、今春は県準々決勝で前橋育英の前に8対15で敗れ、今チームもここまで強豪私学を前に苦戦が続いている。それでも今夏は2010年以来12年ぶりの夏甲子園出場を目指し、ラストスパートを切っている。公立校では部員数の減少が進む逆境の中、前橋商には今年も新入部員は29人が入り、3学年で88人の大所帯で挑んでいる。

公立勢では県内屈指の施設。特別仕様の「野球部専用バス」も自慢

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野球部専用バスにあしらわれたロゴ

 2019年3月に前橋市上佐鳥町(かみさどりまち)に完成した野球部専用グラウンドで練習を行なっている。OB・保護者会の支援もあり、敷地内にはブルペンが5レーン、雨天練習場も備えるなど、公立校の中では充実した施設を誇る。また、公立校では珍しく「野球部専用バス」も保有している。その車体には前橋商OBである漫画家・あだち充さんが特別に書き下ろしたロゴがあしらわれており、野球部の自慢の一つとなっている。

 「OB・保護者会の支援には大変感謝しています」とチームを率いる住吉 信篤監督も語るように、恵まれた環境で日々、甲子園を目指し練習に取り組む前橋商。取材日の練習では大所帯ならではの工夫も見られた。

 シートノック前のボール回しは2球を使い、待ち時間が少なくスピーディーに行われる。途中から塁間にコーンを設置し、動きも加えながら複数のパターンで回していた。そして守備練習でのスピード感の意識はシートノックでも見受けられた。

 シートノックは住吉監督と冨田 裕紀コーチの2人がノッカーを務め、矢継ぎ早に打球が飛んでいく。住吉監督によれば「入部したての1年生は危なくて入れない」というほどのスピード感でノックをこなしていく前橋商ナイン。これは部員数が多いことから、単に待ち時間を少なくするためだけでなく、戦力が揃う強豪私学に勝つためには「実力以上を発揮できる準備」が必要ということで「集中力」や1球1球「勝負」の気持ちを養っていると住吉監督は語る。

[page_break:打撃センスNo.1の4番塚本、中学時代に選抜チーム経験の1番中曽根らが軸]

打撃センスNo.1の4番塚本、中学時代に選抜チーム経験の1番中曽根らが軸

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塚本 啓太朗(前橋商)

 前橋商のメンバーは地元・前橋、高崎地区の選手がほとんどで中学軟式出身の選手も多いのが特徴だ。中でも群馬県中体連軟式野球部に所属する選手たちの選抜チーム「群馬ダイヤモンドペガサスJr」を経験した選手も多く入部している。

 1番・中堅手の中曽根 幸生外野手(3年)は2019年の「群馬ダイヤモンドペガサスJr」のメンバーで下級生の頃からレギュラーとして活躍。低くて強いライナー性の打球を心掛け、チャンスメイクの打撃が持ち味の巧打者だ。

 3番・二塁手で主将を務める星野 歩夢内野手(3年)は「打倒・私学」を掲げて前橋商の門を叩いた選手の一人。中学時代は強豪私学に入ることも志すも、周りに自分よりレベルが高い選手がいる中で「公立で一番強い前橋商に入って、私学を倒して優勝したい」と決意して進路を決めた。秋までは主に2番を務めていたが、勝負強さが買われ、この春から3番を任されている。逆方向にも強い打球を放つことができることが持ち味で、この夏も打線でも中軸を担う。

 そして今チーム1の打撃センスを持つのが、4番・三塁手の塚本 啓太朗内野手(3年)だ。トップを高い位置に作り力強く振り抜いて、強い打球を飛ばしていくスイングが印象的。秋には公式戦で本塁打を記録するなど、パンチ力も抜群だ。勉強の成績もチームNo.1で、進路は野球継続を目指し大学進学を志望している。

 今年の投手陣を牽引するのは秋山 怜麻投手(3年)だ。カーブ、スライダー、チェンジアップなどの変化球を軸にバッターに的を絞らせない投球が持ち味の技巧派左腕。秋は背番号10を付けて挑むも、肩の故障で大会途中でベンチを外れる。しかし春は背番号1をつかみ取り、この夏も秋山を軸に主戦での活躍が期待されている。

 入れ違いだった現巨人(育成)の井上 温大投手は憧れの存在で、中学3年生の夏には井上の力投ぶりを見て前橋商のエースを目指すきっかけにもなった。

 3学年で88人の大所帯で挑んでいる前橋商だが、マネジャーも県内では1番多いという。3年生マネジャーの髙山 舞衣さんは、元々野球が好きで高校野球に携わることがしたいという思いで前橋商野球部のマネジャーになった。常に先に先に動かなければいけないところは「まだまだ」と語るも、気配り、心配りなどマネジャーで培った経験を生かして、将来は歯科衛生士になりたいという夢もある。

 取材日では、夏の大会までの限られた数少ない対外試合を週末に控えていたこともあり、緊張感が漂う、いい雰囲気で練習が行われていた。厳しい戦いを目前に控えた中で、住吉監督は選手たちに何度も語りかける。「夏の大会は準々、準決、決勝の3試合をいかに戦うか」。初戦から気を抜くことができない中でも、甲子園を狙えるチームだからこそ、あえて強調した。強豪私学がひしめく群馬の夏の「最後の3試合」を戦い抜き12年ぶりの悲願へ。この夏の前橋商の戦いぶりに注目したい。

(取材=藤木 拓弥

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