この連載では、日本の球児たちがアメリカの大学でプレーするという選択肢を持つきっかけとなることを目指し、現地の様々な情報をお届けする。
また、日本以外の学生野球はどのように行われているものなのかを知ることで、将来におけるキャリアの視野を広げていただけるようなコンテンツを、今後毎月定期配信予定!
「米国大学野球(マーセッドカレッジ野球部)の特徴」
リーグ戦中、円陣の様子。監督(中央)の話を食い入るように聞く(撮影=Scott Winton)
第1回目となる今回は、アメリカ カリフォルニア州にあるマーセッドカレッジ(2年制)の例を参考にアメリカ大学野球の特徴を紹介していく。(以下の情報はあくまでマーセッドカレッジ野球部の情報であり、アメリカ全てに適用されるわけではないのでご参考までに)
①アメリカでは学業がとても重要!目指せ文武両道
アメリカの大学では授業の予習復習は必須。練習前後は図書館で数時間勉強する留学生が多い(撮影=Pat Kelly)
まずはアメリカの大学野球において、いかに学業が重要視されるかを見ていこう。アメリカの大学における学業成績はGPA(Grade Point Average)と呼ばれ、基本的に4.0が最も高い数字となる。学生アスリートの場合はGPA 2.0以上を維持することが必要とされ、これを下回るとどんなに優秀な選手でもプレーすること自体ができなくなってしまう。
また、マーセッドカレッジのような2年制大学から4年制大学へ編入する場合、優秀な選手であれば奨学金をもらえる可能性がある。ここで大事なことは、選手としての能力だけではなく、学業成績も奨学金の額を決める上で重要な要素となるということ。選手として同じような能力でも、自身のGPAの数字によってもらえる奨学金の額が変わってくるのだ。編入先の大学の判断で、「選手として獲得はしたいがGPAが十分でない為に獲得を断念する」というケースもある。それほどアメリカでは学業成績が重要視される。
アメリカではショーケースといって、2年制大学の有望選手を対象とした合同練習会が毎年実施される。ここにはメジャーリーグのスカウトや有名4年制大学のスカウトが球場に足を運び、選手を視察する。その際スカウトに参加選手の情報が書かれたプログラムが配布されるが、ここにも選手個々のGPAが記載されている。スカウトはプレーだけを見ているのではない。その学生がきちんと勉強も頑張っているかどうかもチェックしている。
ここまで紹介してきて、イメージが少しずつ湧いてきただろうか。
アメリカの大学で野球をしてみたいと考えている球児には、アメリカでは「文武両道」がとても大事なんだ、ということを覚えておいてほしい。とはいえ、英語で授業を受けながら常に基準以上の成績を残していくことに対して、難しいなあと感じる球児も多いと思う。
これまでのなかで、日本の高校を卒業した後にマーセッドカレッジに進み、GPA3.5~4.0を保ちながら野球部に所属する学生は現に存在する。そういった生徒の全員が、日本にいたころから勉強が得意だったわけではないそうだ。アメリカで予習復習の重要さを学び、わからないところは教授や友人に積極的に質問をしながら言語の壁を乗り越えてきたのだという。
「勉強があまり得意ではない」「現段階で自信がない」と思う球児がいたとしても、諦めるのはまだ早い。アメリカで成功したいという強い志があれば、十分に適応できるということも忘れないでほしい。そしてもうひとつ。異国の環境で野球だけでなく勉強生活を通して学んだことや、あらゆる人々との出逢いは、球児の人生の中で大きな財産になることは間違いない。
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②長いリーグ戦。体調管理に注意!
長いリーグ戦期間中を含む、年間を通して行われるトレーニング。活躍するために体作りは欠かせない(撮影=Pat Kelly)
日本の大学野球は4月から新学期が始まるが、アメリカでは8月から新学期が開始となる。8月~12月までは秋学期、1月から5月までは春学期、6月~7月までが夏学期となる。
マーセッドカレッジでは入部前のトライアウトは実施していないため、入部を希望すれば誰でも野球部に入部できる。だいたい50名ほどの希望者がいるそうだ。初めの2週間で監督から心構えの面で指導が行われ、練習がはじまる。
8月から12月までの秋学期は、主に練習、紅白戦、練習試合の期間となる。春学期のリーグ戦に向けて、秋学期はチーム・個人の能力を把握しながらメンバー選考を進めていく時期となる。個々の実力がわかってくると、チームとしての方向性を定めて春学期に向かう道のりが本格的にスタートする。そして春学期に、いよいよベンチ入りメンバー25名が決定する。このメンバーは2月~5月まで続くリーグ戦メンバーとなり、毎週3~4試合を消化していく。
惜しくもメンバー入りを逃した選手は「レッドシャツ」と呼ばれるグループに所属する。レッドシャツは基本的に週に3日程度の全体練習の他、自主練習が基本となる。選手個々の自主性に任せられたスケジュールが多いため、自己管理をしながらトレーニングや練習を地道に続けて成長した選手は翌年のベンチ入りメンバーに入れるケースも多い。反対に怠けてしまったり、体調管理がうまくできなかった選手はどうしても成長スピードが遅くなってしまう。
チームとしての活動は基本的に秋学期と春学期のみとなり、夏学期は全体練習が無い。夏学期の授業履修自体も選手個人に任されているので、夏学期の過ごし方はまさに人それぞれ。授業を履修し学業に専念する子もいれば、サマーボールといって夏の間だけ結成されるチームに所属し、野球を続ける子もいる。課題を自分で見つけ、それを補うためにどうすればよいか。きちんと体調を整えて、自分の弱点を克服していこう。
[page_break:練習も自主性が大事。自分で考えて行動する癖をつけよう!]
③練習も自主性が大事。自分で考えて行動する癖をつけよう!
長いリーグ戦期間中を含む、年間を通して行われるトレーニング。活躍するために体作りは欠かせない(撮影=Pat Kelly)
秋学期は授業前の朝1時間に行うウエイトトレーニングと、約2時間の全体練習が基本となる。週末は練習試合が入ることもあるが、基本的には日曜日はオフとなることが多い。全体練習は授業として数えられるため、なんと単位になる!この辺りは日本の大学とは違っている。
努力が実を結んでベンチ入りメンバーに選ばれると、2月~5月に50試合ほどを消化する。基本的には月曜、水曜、金曜は練習日となり、火曜、木曜、土曜が試合日となることが多い。試合中心の生活となるため、練習やトレーニングをこなしつつもコンディションを調整しながら過ごす期間となる。課題がある選手は、もちろん練習量を増やしてもよい。
シーズン中はリーグ戦と授業の両立が求められる。シーズン中の体調管理に気を配りながら、授業に出て勉強も頑張る。向上心が高い選手が適応しやすそうだ。「リーグ戦の期間は日本の大学野球リーグと比較して長いんだ」ということを球児は認識しておくとよいだろう。
一方、練習時間は日本の高校や大学と比較して短い。自主練習を強制されることもないので、タイムスケジュールを決めて各自がトレーニングし、自己管理を行うことが成功の道につながる。なので、与えられた環境の中で野球をしたいという学生にとっては厳しい環境となることが予想される。自分で考え、計画し、行動する癖を、今から身に付けていきたい!
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④費用
リーグ戦中の様子、2022年シーズンは地区2位となりプレーオフに進出した(撮影=Pat Kelly)
マーセッドカレッジの場合、秋学期に$100(現在の日本円でだいたい13,000円ほど)ほどの支払いが生じる。この費用はチームTシャツ、帽子、チームバックなど支給される物に充てられる。その他、個人のグラブやスパイクなどを購入する費用も必要となる。チームとして遠征に行く際の移動費、宿泊費は大学が負担するか、寄付金などで賄われる。学校には通えるけど金銭面が原因で野球が続けられない、ということはあまりないそうだ。
まとめ
リーグ戦終了後の一枚。野球を通した人々との出会いも留学の醍醐味の一つ(撮影=Pat Kelly)
以上、簡単なアメリカ大学野球の特徴と流れをご紹介した。言葉の壁もあるので、もちろん楽な道ではない。でも、勉強・野球で自分を磨きたい、自立した人間になりたいという志があるなら、アメリカ留学は人間的に大きく成長できるビッグチャンスであることは間違いない。この記事をきっかけに、視野を広く持っていただけたら嬉しい限りだ。
この企画は今後も定期連載予定!アメリカの大学野球で活躍する選手紹介や実際のアメリカの練習の様子なども配信していきます。次回もお楽しみに!