今年の高校生遊撃手のトップクラスの技量を誇る東京学館の粟飯原。多くの球団からの調査書が届いており、高く評価をされている。そんな粟飯原の最後の夏、現在の取り組みについて迫った。
木製バットでも非凡な打撃センスを発揮
粟飯原 龍之介(東京学館)
最後の夏に突入し、初戦の志学館戦では11球団のスカウトが集結した。4打数1安打2四球、3回戦の千葉経大附戦では、4打数1安打。合計で8打数2安打と満足いく結果は残せなかった。
「悔しい内容でしたね。ずっと際どいコースを攻められましたので、全然打てなかったですし、チームとしても3回戦で負けてしまいましたし、悔しい気持ちしか残ってないです」
夏が終わって、後輩たちの新チームがスタートした後からほぼ毎日に練習に参加。後輩たちが公式戦でも、学校のグラウンドが使用できたため、3年生を呼んで練習を行い。同級生のキャプテンが打撃投手を務め、木製バットの対応を進めてきた。
「木製バットを握った初日はなかなか飛ばなかったのですが、2日目以降からは徐々に合ってきました。金属の時からスイング軌道はあまり変わらず、インサイドアウトのスイングで飛ばすことを心がけています」
その非凡さを伺えたのがロングティーだ。取材日では粟飯原がライトのライン際に立ち、後輩の外野手たちが左中間のフェンス近くで構える。粟飯原は次々と鋭い打球を飛ばし、後輩たちはその打球に必死に食らいつき、捕球をしていた。市川監督は「現役の選手たちからすればこれ以上ない練習」と語るように、千葉の秋季地区予選を見ているからこそ分かるが、粟飯原ぐらい鋭いライナー性のフライを飛ばす選手は見たことがないので、本当に良い練習だった。
この練習を見て分かるのは、粟飯原は、力任せで振っておらず、最短距離かつ強いスイングで、飛ばしているのだ。
「ロングティーは力を抜いてインパクトの時に、思い切り力を入れてフォロースルーに入るイメージなので強く振って遠くへ飛ばすことを意識しています。強く振りながらも力みすぎない。振り回さない。そこは意識しています」
木製バットでは金属の時と比べると若干、ボールの下を捉えてスイングをしている。打撃練習や、ロングティーを見た限りでは、木製バットを使いこなしており、あとは実戦でどれだけアピールできるかにかかっているだろう。
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意識が変われば結果も身体も変わる
粟飯原 龍之介(東京学館)
また身体も大きくなっている。粟飯原は週3回ペースでウエイトトレーニングを行い、ベンチプレスはマックスで110キロを持ち上げるようになり、その他の筋力的な数値も上昇した。
粟飯原は「筋力もそうなんですけど、自分は体のバランスの良さこそ自信を持っています。冬場から行ってきた器械体操トレーニングがうまくいきています」と筋力とバランスの良さを兼ね備えた強靭な肉体が完成。夏では180センチ82キロだったが、現在は180センチ86キロまで増量。後輩選手と一緒に立つと、体格の差が一目瞭然だ。この体格でもスピードが落ちずにパフォーマンスができている。
9月8日、日本高野連にてプロ志望届の公示がされた。プロ志望届を書く際、かなり緊張したという。
「まさか自分がプロ志望届を書くことは考えられなかったので、すごく緊張しました」
こう振り返るのは、成田シニア時代は9番打者で、ベンチに控えることも多く、プロ入りを想像できなかったのは当然だ。
そういった背景を踏まえると、今年、ドラフト候補に挙がる野手の中で、成長度では1、2を争う選手だろう。だからこそ粟飯原は語る。
「意識して取り組めば、変わることができると思います。自分は技術も身体も変わりました」
ストイックな姿勢で取り組む粟飯原について東京学館の市川監督は野球部にこれ以上ないものを残したと評価する。
「昨秋は県大会準優勝をさせていただきましたが、進学にも力を入れている学校ですので、レギュラーでも特進クラスの選手が多く、今年の3年生で野球を続けるのは粟飯原を含めて2人しかいないんです。
続けない選手の中には、成績が優秀で、将来の目標も見えていて立派です。
ただ野球部が今後も安定して成績を残すには、1人でも大学で野球を続けたい、プロになりたいなど野球で勝負したいと志す選手が多いほうが良いです。粟飯原の場合、ずっと志が違っていて、取り組みも違いました。そういった姿勢を見て、我々はとやかく言うことなく、彼に任せていました。だからこそスケール大きく育ってくれたと思っています」
粟飯原は「自分の思い通りに取り組むことが出来て、本当にやりやすい環境でした」と市川監督に感謝の思いを述べた。最後にプロ野球選手の夢を叶えた時の意気込みを語っていただいた。
「打撃だったら柳田選手のように、思い切りよい打撃、守備であったら確実にアウトにできる選手になりたいです」
中学時代は9番打者。今では超高校級のスケール抜群のショートストップへ成長した。これからどんなサクセスストーリーを見せてくれるのか。とても楽しみでならない。
(記事=河嶋 宗一)