9回の攻防が勝敗分ける 石見智翠館が18年ぶりベスト8
石見智翠館・今泉秀悟 写真:東京スポーツ/アフロ
◆石見智翠館・山崎がポイント
ベスト8を目指す日大山形と石見智翠館の勝利のカギを握ったのは、石見智翠館の山崎琢磨ではないだろうか。
日大山形は2回戦では強豪・浦和学院と接戦を制してベスト16まで勝ち残った。技巧派・斎藤 堅史、本格派・滝口 琉偉とタイプの違う投手2人を中心とした守備と、3番・佐藤 拓斗を中心とした強力なクリーンナップが特徴的な打線がある。
対する石見智翠館は、弘前学院聖愛との接戦を制してベスト16に勝ち上がったが、原動力は山崎の好投だった。日大山形と比較すると、打線の破壊力は圧倒的なものではなく、点差が広げられると日大山形の投手陣から大量得点するのが難しいことが予想される。特にリリーフの滝口の140キロ台の真っすぐから連打を出すのは難しい。
石見智翠館のベスト8の進出は山崎の好投とリードして終盤に入ることであり、日大山形は山崎を攻略することが近道だと考えられた。
◆息詰まる試合を展開
石見智翠館の先発・山崎は初回、制球が乱れていきなり一死満塁を招く。ここで5番・塩野叶人の犠牲フライで早々に失点してしまう。
しかし4回に山崎が自らのバットからタイムリーを放ち、試合を振りだしに戻すなど5回終わって1対1と投手戦をなり接戦となったが、後半は打って変わった。
6回に石見智翠館が途中出場の山本由吾の一打で勝ち越したものの、直後に日大山形が5番・塩野の一打などで2対4とされた。
ただ石見智翠館も直後に2点を追加して4対4と前半では考えにくい打ち合いになり、勝負は9回へ。
日大山形は先頭の梅津康生に四球を与えるが、バントを失敗させるなど一死一、二塁する。9番・大場陽南斗のレフト前に運ばれたが、ホームを狙った走者をアウトにしてピンチを切り抜けると勢いに乗った。
先頭の伊藤陽春が四球で出ると、7番・山崎がエンドランを決めて無死二、三塁とチャンスを迎えた。ここで1年生・今泉秀悟にもエンドランにもサインを送った。これは失敗したが、その後、センターへサヨナラ打を放ち、5対4で試合を終えた。
◆対照的だった9回の攻防
戦前考えられた通り、石見智翠館が日大山形は食らいついて競った状態で終盤に入り、サヨナラ勝ちで18年ぶりの快挙を達成した。それを決めたのが1年生だったわけだが、そこに至るまでの攻防が鍵になったことは間違いない。
日大山形は9回に先頭の6番・梅津を四球で出したところで、7番・榎本に送りバントをやらせたが、サードフライで失敗して結果として無得点に終わった。
対する石見智翠館は同じく6番・伊藤を四球で出した後、7番・山崎の打席では、バスターを選択して成功させた。無死二、三塁とスクイズも選択肢として考えられる中で、7番・今泉には3球目でエンドランの指示を出した。
結果的にエンドランは失敗に終わり、その後のサヨナラ打で試合が決まったとはいえ、対照的な9回の攻防が大きな分岐点となったことは間違いない。
◆受け身ではなく積極的に
末光監督も9回の守備については、「リズム的にバントを決められると嫌な流れになるところで、失敗で終わってくれたので、キーポイントになったと思います」とやはり分岐点になったことをベンチからも察していたようだ。
だが、攻撃面はそれに影響されたわけではなく、末光監督なりに細かいところまで考えてのものだった。
「9回は打順的に下位に進んでいきましたし、クリーンナップも打てる山崎はチャンス広げる役目が出来るので、『無死もしくは一死で三塁にしたいな』と思って勝負しました」
また、エンドランに関しては「今泉はボールを捉える感覚が良いので、『勝負を決めたいな」と思って出しました。ですので、一死三塁でもまだチャンスがあると感じていました』と今泉のミート力にかけて強気な采配を選択した。
その末光監督の期待に応えた今泉は愛知から石見智翠館の門を叩いた。入学当初はキャッチャーでプレーしていたそうだが、チーム事情からサードへ転向して2桁ながらスタメンの座を掴んだ。
「不格好ですが、粘り強く打球を処理できますし、バッティングも捉える感覚を持っていると思います」というのが末光監督の今泉への評価だ。9回の攻撃でもミート力を信じてエンドランを出していたが、今泉本人はどういった意識でいるのか。
「今日は相手投手が真っすぐが速く、変化球も切れたので迷いが生じて三振もしましたが、ストレートに合わせるようにしています」
最後はスライダーをセンタへはじき返したが、一瞬上手くボールを待てたようにも見える。ストレートに合わせつつも、変化球には下半身を使って対応する。この対応力が今泉のミート力に関係しているのではないだろうか。
同じ1年生の横浜・緒方漣のホームランには、「大舞台に強いんだな」と同じ1年生として刺激を受けたようだ、そんな緒方に負けない活躍を見せた今泉の今後に期待だ。
◆手ごたえのある世代とかけぬけた特別な夏
主導権を握りながらもあと一歩で8強を逃した日大山形。荒木監督は勝ち越しのチャンスがあった9回について、「先頭を四球で出してから送ることが出来なかったですが、良く繋いだと思います」と攻撃陣を評価した。
ただ「先攻でしたので、何が何でも取らないとしんどいかなと思っていて焦りがあったかなと思います」とホームが遠のいた要因を分析した。
今年のチームは荒木監督のなかでも「代表にふさわしいチームでしたので、なんとしも甲子園へと思っていました」と手ごたえがあった世代だった。それだけに「勝たせてやれなかったのが残念です」と悔しさをあらわにした。
◆悔しさをバネに悲願の優勝へ
ただ9回は2年生バッテリーで挑むなど、サヨナラ負けという大きな経験を積んだ。この負けがどんな意味を持つことになるのかは、秋以降の戦いぶりが関わっているだろう。
荒木監督は「3年生が代表になるためにどんな練習をすればいいのか背中で見せました。悔しさをもって下級生がやってくれると思います」と奮起に期待した。
佐藤主将も「ベンチには3人がいましたが、彼らがいなければ出場できませんでした。ここは目指して間違いない場所なので、出場目指して頑張ってほしいです」とメッセージを送った。
2年連続の夏の甲子園、そして東北勢悲願の優勝へ。悔しさを糧に日大山形が成長することを楽しみにしたい。
(記事:田中 裕毅)