秋は県大会ベスト4、そして今春の県大会でもベスト4に進出するなど、県内で上位の結果を残し続けている倉敷工。甲子園にも春夏合わせて19回の出場、通算25勝は県内トップの成績だ。
さらに、昨秋のドラフト会議では中日に福島 章太を輩出しており、県内でも指折りの伝統校としての一面だけではなく、実力校として夏の大会も躍進が期待される。そんな今年の倉敷工は、現在までにどういった歩みを続けてきたのだろうか。
キーワードは「ベルトから下を動かせ」
守備練習をする倉敷工の選手たち
「去年は福島をはじめ、個の能力が高い選手がそろっておりましたが、今年は違います。そういった選手は少ないので、選手たちには『下から向かっていくぞ。攻撃も守備も組織で戦うぞ』と、チャレンジャー精神を1つの合言葉にして、秋の大会に向かっていきました」
現在、チームの指揮を執る髙田監督は、今年のチームの発足時を旧チームと比較しながら振り返った。実際に選手たちに話を聞いても「3年生は個の能力を発揮していましたが、自分たちは組織で力を発揮できるところが強みだった」と多々野 成龍は語る。また主将の城内 葵偉も「同級生はもちろんですが、学年で垣根なくコミュニケーションが取れる繋がり、連携の部分はしっかりしている」と自分たちの強みを語っており、チーム力の高さは選手も指導者も納得の武器だった。
繋がりの強さに関しては髙田監督も「(選手間の)繋がりがしっかりしているのでチーム作りの上では助かりました」と選手同士の仲の良さはチームを仕上げるうえでプラスに働いた。その上で、倉敷工が確立した戦い方は、守備と走力をウリとした野球だった。
「先輩たちは打力が凄かったので、そちらを中心にしていましたが、守備で負けた部分がったので、反省の意味を込めて自分たちは守備力を鍛えていきました」(城内主将)
夏休みはひたすらノックと、新型コロナウイルスの影響で不足した試合感覚を補うべく、実戦形式を中心に練習を重ねた。加えて「チームの仕上がりが早くなりそうだ」と髙田監督が判断して、ポジション別でショートバウンドの捕球など細かなプレーを徹底的に磨き上げた。
この時に、髙田監督が選手たちに向けて発したメッセージが1つだけあった。それが、「ベルトから下を動かせ」という言葉だった。城内主将いわく、「上手い選手ほど、下半身がしっかり使えている」ということから髙田監督から指導を受けたとのことだが、髙田監督本人も、「守備は足運びでやるものだと考えています」と話しており、フットワークの重要性を説いてきた。
そんな倉敷工は、ゴロを捕球する際、投げる時の軸足となる足の前で捕ることを推奨している。これは3月までチームを指導していた辻田コーチの教えのもので、軸足の前で捕球することで、身体が先に行ってしまい、ボールとの距離が開かないようにしている。
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1への執念をもって夏へ
城内 葵偉
こうした工夫もあり、夏休みの終盤には「安定感が増してきました」と髙田監督も目標としてきた守りの野球に近づいてきたことを実感していた。チームの守備の要である岡田 一馬も「(秋季大会を含めて)守備からリズムを作って点数が取れていた」と守備力アップに手ごたえがった。
こうして秋の大会に入った倉敷工は、予選では「投手陣が打ち込まれても、野手陣の守備に助けてもらって。そしたら今度は投手陣が抑えるような試合運びでした」と多田野と振り返ったように、総社南をはじめとした実力校に守り勝って県大会へ出場を決めた。
そして県大会でも水田 碧と、多田野の2投手のリレーを軸とした守備で順調にベスト4まで進出した。いよいよ目指してきた中国大会まであと1勝だったが、準決勝・関西、3位決定戦・岡山学芸館にはあと一歩及ばなかった。
4番に座った村中 大介は「打線のもう一押しが足りなかったこともありますが、投手力、守備力が及ばずに大量失点してしまいました」と持ち前だったはずの守備力から崩れたことを反省する。2枚看板の1人・水田も「打ち込まれたのは投手陣の力不足でした」と振り返る。髙田監督もあげた勝負所での守備を含め、冬場に入ってからはもう一度守備力に磨きをかけてきた。
身体づくりはもちろんだが、あえてコンバートさせることで、本職のポジションについて考えさせる機会も作った。紅白戦なども交えて実戦感覚も養い、迎えた春季大会でもベスト4進出。岡山県内に倉敷工の強さを示す結果となった。
秋とは違い、春は追われる立場になっていた倉敷工。それでも秋と同様の結果を残せた理由を尋ねると、「一番下からチャレンジャー精神で上位を狙うチームなので、1つ1つ勝ちあがるつもりで戦いました」と多田野が話せば、「絶対に受け身になったら弱みを見せることになるので、チャレンジャー精神で下から向かう気持ちで戦いました」と城内主将も語る。
あくまで新チーム発足時と変わらぬ、チャレンジャー精神という言葉の軸をぶらすことなく戦い抜いたことが、春も躍進に繋がった。
集大成の夏はまもなくだ。通算20回目の甲子園出場を目指す倉敷工は、今も挑戦者の気持ちを忘れることなく練習を重ねるが、髙田監督はあえて選手たちにもう1つ大事な言葉を伝えているという。
「自分たちの野球に挑戦することはもちろんですが、1への執念も話しています。
1日1日、1分1秒を大事に。ファーストストライクを大事にと、とにかく1への執念。1にこだわってやっていこうということを選手たちに話してやっています」
そこにはもちろん県1位という結果も含まれる。最終目標である甲子園で校歌を歌うために、岡山1のチームワーク、守備力で倉敷工は1位の称号を手にすることが出来るか注目だ。
(取材=田中 裕毅)