国士舘に1点差に善戦を繰り広げた磐城。大会前から大きなストーリー性があったチームだが、こうして全国レベルの強豪校に渡り合えたのはエース・沖政宗の投球に他ならない。
左足を高く上げて勢いよく蹴りだしながら重心移動。力みを感じさせない前に大きく右腕の振っていく躍動感と脱力を兼ね備えたフォームから繰り出す角度のあるボールは甲子園で確かなインパクトを与えた。
持ち味を最大限発揮するために
好投を見せた沖正宗(写真は2019年秋季大会より)
試合前は不安だった。
コンディションが不調。それでも初めての甲子園が気持ちを高ぶらせた。
ストレートは130キロ台を記録。100キロ台のカーブや110キロ台のスライダーにチェンジアップ。さらに120キロ台のフォークなど多彩な球種を存分に使った的を絞らせない投球で、打たせて取るピッチングを見せた。
またクイックで投げるなど、チームの勝利のためにあらゆる手段で打者との駆け引きをする沖の持ち味が存分に発揮された。そこには磐城のエースとしての強い責任感があった。
「伝統ある磐城のエースである限り、ロースコアの試合に持ち込まないといけないと思っていました。これまで積み上げてきたプレースタイルを貫こうとロースコアの試合展開は考えていました」
磐城らしい接戦を全国の舞台でも貫くことを考えてマウンドに上がっていた沖。その覚悟は今大会だけではなく、入学時からずっと意識してきたことだった。
「磐城で文武両道をしながら甲子園を目指そうと決めた時から、投手として試合を作って甲子園に連れていこうと考えながら練習をしてきました。磐城のエースとなって責任も重く、毎日助けてもらってばかりでしたが、仲間と会えたから甲子園に来れたと思います」
昨秋は21失策と守備に多くのミスがあった。打たせて取るピッチングが信条の沖のピッチングにとって、そして磐城らしいロースコアの展開に持ち込むためには守備力強化は必須条件だった。そこで冬場は「取れるアウトは確実にアウトにする」ことを大事にしてきたと2年生の首藤 瑛太は振り返るが、同時に攻める姿勢も意識してきたと語る。
「昨秋の東北大会はエラーが多く、沖さんの失点は自分や地のエラーでした。ですので当たり前に獲れるアウトを取れるように、ノックの数だけではなくて意識の持ち方も大事にしました、堅実にやりながらも前へチャージする時やギリギリのプレーでも思い切って送球するなど、攻めてのミスはOKだという方針をもって練習をして行きました」
試合中でも選手間で声を掛け合いながら鍛え上げてきた守備を存分に発揮した。そんな野手の支えがあったからこそ、沖の中では悔しさが残った。
「野手が返してくれた点数を守り切れませんでした。僕が取られて負けてしまったのは事実ですので責任はありますが、支えてもらった皆に感謝したいです」
また沖の中ではこんなことも考えながら戦っていた。
「この大会を開催してくれた人や応援してくれた人たち。そして福島県の独自大会で優勝した聖光学院さんをはじめとしたチームに納得してもらえるような試合をしたかったです」
あくまで強豪相手に力勝負ではなく、試合で勝つためのピッチングを考えて投げてきた沖。この1年で多くの強豪とぶつかり、様々な経験を積んで学び成長してきた。「これからに繋げていきたいです」と次のステージでのさらなる飛躍を誓った。新たなステージでの沖の活躍を楽しみにしたい。
(取材=田中 裕毅)
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