尾道商、広陵との乱打戦を制して決勝進出!中国地区大会出場決定
三回、尾道商の四番松井が本塁打を放つ
夏の広商桜の広陵、という苔むしたような言葉がある。現在にいたるまで甲子園を沸かせ続けてきた商 さてその後夏の横綱として県内全国問わず有名校として名をはせた広島商業とは違い、広陵は長い間の低迷を経て、現在は堂々の名門校として復権中。紫紺の優勝旗を三度も持って帰った押しも押されぬ伝統校であるが、夏の優勝旗はこれまで三度の挑戦もむなしくまだ手に入っていない。というわけで夏に六度優勝した広島商業は夏の広商、春のセンバツで三度の優勝を果たした広島広陵は桜の広陵といつしか呼ばれるようになり、長く続く間に如水館や崇徳などの個性あふれる高校がそれに挑み、勝ったり負けたりを繰り返していた。
そんな広島広陵が準決勝に登場だ。相方ともいえる広商は二回戦で敗退してしまったが、同じく伝統校としての意地を見せてほしい。相手は尾道商。こちらも戦前からの伝統校で立派な古豪と言える。オールドファンが見ればなにかタイムスリップしたような錯覚に陥るが、二校とも伝統に隠れた柔軟性をもちあわせている証拠だろう。
試合は序盤からなかなかの荒れ模様を見せる。先制したのは尾道商業。広陵の先発は、今夏の大会でも登板経験のある藤井一嘉(2年)。フォークやスライダー、カーブなどの多彩な変化球で攻める技巧派だが、この日は変化球の制球がいまいち決まらない。三回表、まずは先頭打者尾道商のマウンドを預かる卜部雄介(2年)がライト前にポトリと落とすと、この大会絶好調の一番児仁井佑真(2年)がきっちり初球でバントを決める。一死二塁のチャンスで二番の稲原大翔(2年)がこの日二本目の中前打でつなぎ、チャンスを拡大させた。打席に立つのは三番平本啓太(2年)。カウント1-3からの五球目をレフト前に運んで、まずは尾道商が先制する。先制点の余韻冷めやらぬ中、打席には尾道商の四番は巨漢の松井健(2年)。初球、ひざ元にきた抜け球を思い切り掬い上げて左翼スタンドに特大アーチを叩き込む。尾道商はこの回一気に四点を取り、試合の主導権を手繰り寄せる。
このまま黙っているわけにもいかない広陵はすぐさま反撃に出る。尾道商の先発マウンドには右サイドスローの卜部。外角と内角を攻めるスライダーに広陵の右打者こそ苦しんでいたが、リリースポイントの見やすい左打者はむしろお得意様。先発の藤井をあきらめて出した代打の松下水城(2年)が死球で出ると一番の宗山塁(2年)が一二塁間を痛烈にぶち破るヒットで続き、一死一塁三塁。が、のろしを上げたところで二番の岩本翔己(2年)が水を差す二ゴロで併殺。何ともかみ合わない拙攻だが、一応これで松下が生還し、一点を返した。
尾道商は藤井の後に出てきた松田に四回をゼロに抑えられる。広島広陵はそのスキに何とか一点でも詰め寄りたい。四回裏、先頭の岩本が四球、三番に座る甲子園経験者の渡部聖弥(2年)が右前打で続いてまたも一死一塁三塁の形をつくるが、渡部が盗塁を敢行し憤死する。それでも今日四番に座った江村智弥(2年)が中犠飛を放ってどうにかまた一点を返した。拙攻でも一応追いすがるのは試合巧者の広陵らしさが光る。が、直後の五回表、またしても広陵投手陣が大炎上を起こしてしまう。藤井と交代でマウンドに上がった松田波音(1年)に対し尾道商は先頭の村上雅治(2年)が右前打で出塁すると、そこからエラーをはさんで三連打でまず一点。どうにか九番の卜部の犠打で一死を取るものの、一死二、三塁。そこで打席に立った絶好調男児・仁井が左中間への二塁打を放って二打点を挙げる。二番の稲原も今日三本目の中前打で続き、この回一挙五得点、尾道商業は二度目のビッグイニングで広陵を一気に突き放した。
だが、広島広陵も然るもの。五回裏には一点を取り、試合をまだまだ捨ててはいない。
流れがにわかに代わったのは六回裏。五回三失点とここまで無難な投球の卜部がマウンドを古屋諒麿(2年)に譲る。この古屋は卜部とは違い変則とは間違っても呼べない本格派の右腕。広島広陵からすればその上位互換を何度も打ち崩してきたような平凡な投手である。実際、この回先頭の永谷柊馬(2年)、天野幹太郎(2年)が連続出塁して無死一二塁とチャンスメイク。しかしこの試合広陵はなかなか決めきれない流れを引いている。九番に入っていた松下が投ゴロで三塁封殺をされてしまい、走者を前に進めきれない。それでも続く主将の宗山が四球を選び、一死満塁。その後二番の岩本の左前打で二点を返す。
七回裏、今度は尾道商のブルペンがあわただしくエースナンバーを付けた元川惇太(2年)をマウンドに上げる。タイプとしては利き腕もスタイルも古屋と似たり寄ったり。広陵は遠慮なくそれを叩きまたも二点を追加した。一時は七点差あったが、この時点ですでに9-7と二点差。終盤の逆転がよくあるだけに球場のボルテージも上がっていく。
ところが、八回表。広陵は五失点しながらもここまで引っ張ってきた松田を降ろし、大原紳太郎(2年)をマウンドに送るものの、一死を取ったのみで期待に応えられないまま一死一、二塁の危機を迎えてしまう。エースナンバーを背負った山川大輝(2年)を火消しに向かわせるが、まさしく焼け石に水。勢いを止められないまま、二点を献上してしまい、点差が四点に広がってしまう。こうなるとさすがの広陵打線も元気がなくなってしまった。九回にもとどめとばかりに二点の追加点を突きつけられ、万事休す。尾道商はむき出しの殴り合いを13-7で制した。
この試合は打ち合いだったがそれ以上に両チームとも投手陣を整備しきれていない印象がある。尾道商は三人の投手を使い込み、どうにか抑えたが事と次第によっては立場が逆だった。広陵は藤井の不調と尾道商打線の勢いに飲み込まれたようにも見える。しかし点差ほどの力の差はない。中国地区大会に進めるのは三チーム。尾道商はすでに決まった。広陵は三位決定戦を勝ち抜けばまだ目もある。雪辱を果たす機会は残されている。尾道商を祝福するのと同じくらい、広陵に雪辱を果たし、甲子園への桜につなげてほしい。
(取材・写真=編集部)