今度は自分が憧れの存在に 意識改革でプロの道を切り開いた古谷拓郎(習志野)【後編】
10月25日のドラフト会議にて、千葉ロッテマリーンズからドラフト6位指名を受け、見事にプロの扉を切り開いた古谷拓郎(習志野)。184センチ77キロの長身から最速146キロのストレート、曲がりが鋭いカーブを武器にする右の本格派である。
前編は投手を始めたきっかけなどこれまでの歩みを振り返ってもらったが、今回はドラフトにかかるために、古谷選手が駆け抜けた高校野球最後の1年。そして今後のビジョンについて語ってもらった。
「綺麗さ」と「力強さ」を兼ね備えた投手へ!古谷拓郎(習志野)の優先課題は「体づくり」【前編】
自分のパフォーマンスを表現できるようになった3年春

3年春県大会準々決勝の八千代松陰戦
意識が変わると、パフォーマンスも変わっていく。古谷は春の県大会から好投。ストレートは最速143キロまで伸び、一番得意とするカーブにも磨きがかかり、制球力もアップした。それにしても古谷のピッチングを見ていると非常に駆け引きが上手い。いつでも140キロを連発するわけではなく、要所で140キロ台のストレートで相手をねじ伏せたかと思えば、カーブで相手の裏をかいて打ち取る投球を見せる。小林監督は「その点については教えていないですね。もともと彼が持っていたものだと思います」と評価する。ではどう意識して投げ分けを行っているのだろうか。
「公式戦はどれだけ走者をためても点を取られなければいいと思っています。練習試合は全部抑えるつもりで投げていますけど。試合中はどうしてもうまくいかないときは、走者を出しても粘り強く投げられるように意識しています」
「関東が掛かった試合なので、気合を入れて投げた」と振り返る、県大会・準々決勝の八千代松陰戦では8回1失点の好投を見せ、関東大会出場に貢献。関東大会では日大三戦でも、140キロ超の速球を投げ込み、力投。敗れはしたが、「強いチームには外だけでは勝てないのでインコースのストレートは課題の一つでした。それがうまく投げられたと思います」と手ごたえを感じていた。
最高の調子で臨んだ中央学院戦は一球の怖さを思い知らされた

3年春、中央学院戦で自己最速を記録
そして夏の大会へ向けて古谷は体づくりに取り組み、体重を落とさないよう腐心した。また、組み合わせが決まり、準決勝で秋に敗れた中央学院と対戦することを想定して、ピークを準決勝に持っていく調整を行った。その調整は順調に進み、中央学院戦では最高の調子で臨むことができた。
8回途中からリリーフで登場した古谷は自慢のストレートをどんどん投げ込む。ストレートは自己最速の146キロを計測した。これには古谷自身、手ごたえを感じていた。
「[stadium]マリンフィールド[/stadium]のスピードガンで球速が上がっていることがわかって、今までやってきたことは間違っていないと実感しました。手ごたえも今までとは違ったので走っている感覚はありましたが、146キロまで出るとは自分でも思わなかったです。あの試合は、取られたら負けだったので全開でいきました」
しかし古谷は10回裏、青木優吾(1年)にサヨナラ本塁打を浴びてしまい、最後の夏は終えた。
「インコースのストレートを投げようと思っていました。インコースストレートは決まれば効果的ですけど少し間違えれば長打になるというリスクはわかって投げていました。裏目に出てしまって、一球で終わってしまったのは悔しいですけど、あの一球を忘れずに上でやっていきたいです」
[page_break:プロ1年目の目標は一軍で1勝]プロ1年目の目標は一軍で1勝

入団記者会見での様子
そして10月25日、ドラフト会議。古谷は千葉ロッテマリーンズから指名を受け、念願のプロ野球選手の夢をかなえた。小学校時代、ライトスタンドで応援していた古谷にとっては意中の球団でもあった。
「ドラフト当日はほっとしたのですが、まだプロに入る実感は無かったです。周りから祝福されても本当にプロなのかなと思っていました。しかし指名挨拶、仮契約などを行ってきて、実感がわいてきています。外野で応援していたロッテから指名され、プロのユニフォームでマウンドに立つ自分の姿はまだ想像できないです」
プロで良いスタートを切るために、担当スカウトの榎 康弘氏からは合同自主トレまでこうアドバイスを受けている。
「今が大事だといわれています。大学、社会人の方は高校よりシーズンが長いので、ここで取り組まないと差がつくと言われたので頑張りたいと思います。今はランニング、ウエイトトレーニングなど、1週間に何回ブルペンに入ればいいのか、アドバイスをいただいたのでそれに取り組んでいます」
実際に取材日はブルペン入りし、回転の良い速球とキレのある変化球をコントロール良く投げ込んでいた。また原嵩(専大松戸)、島孝明(東海大市原望洋)など同県の先輩投手がいるが、「先輩でもありますけどライバルでもあると思うので、引け目を感じずに這い上がりたいと思います」とライバル視している。
まず1年目の目標は一軍のマウンドで1勝を挙げること。そのためには技術、身体、メンタルを成長させて勝負したいと考えている。そしてプロで活躍するために小林監督は引き続き「力強さ」を求めた。
「僕は投手が壊れるのが嫌いですので、そこを注意して投げさせていました。彼はフィジカルを作ってから負荷をかけさせ始めたので、まだまだこれからだと思いますよ。今でも力強さや上手さを乗っけていかなければいけないですね。体づくりという点ではほかのピッチャーより進度が遅いのが彼の特徴なので。しかし、柔軟さなどは長所なのでそこを生かしつつ、力強さを上乗せできればいいと思います」
憧れとする投手は斉藤和巳(元福岡ソフトバンク)。目標とする投手が大きいほど、小林監督の指摘は的を射ている。
古谷が小さい頃マリンに応援にいって、プロ野球選手に憧れを抱いたように、今度は自分が憧れの対象となり、千葉ロッテファンの心を揺さぶる投手になっていく。
文=河嶋宗一