昨秋、明秀日立(茨城)のエースとして活躍し、関東大会で準優勝。見事、センバツ初出場を決めたチームの原動力となった細川 拓哉選手。本格的に投手へ転向したのは高校に入ってからで、まだまだキャリアが浅いなか、どのようにして実力を上げてきたのだろうか。
兄に憧れ、そして同じ道を歩んできた
細川 拓哉選手(明秀日立)
小学校1年から北茨城リトルで野球を始めた細川選手。この時、2学年上の兄で、現在、DeNAベイスターズに在籍している細川 成也選手と一緒に入団したのだという。「兄がチームに入ることになったので、そのついでじゃないですけれど自分も。中学時代は福島県のいわきシニアでプレーしたのですが、その時も同じチームでした」。
高校も兄の背中を追うように明秀日立へ進むことに。「兄の体が高校に入ってからどんどん大きくなっていったのを間近で見ていましたし、『明秀日立に来れば、強くなれる』とも言われていましたから。兄とはポジションが違いますが、あの長打力はすごいと思ってバッティングフォームをマネした時もあります。それに、毎日、スイング練習を欠かさずに努力していましたし、グローブやスパイクを磨いて道具を大事にしていたので、今も尊敬している存在です」
こうして明秀日立に入った細川選手だが、投手転向は突然の出来事だった。「中学ではずっとサードを守っていたんですけれど、高1の6月頃に金沢(成奉)監督から『ブルペンで投げてみろ』と急に言われて、びっくりしたのを覚えています。
でも、いざ投げてみたら『球が速いからピッチャーの方が向いている』と言われて、それから本格的に投手の練習をすることになりました」。球速は1年秋に138キロを記録。だが、「当時はまだ野手投げというか、リリースの時にボールを押してしまっていて、切るように投げることができませんでした」。
そこで、冬のオフシーズンは「ボールの質を変えること」をテーマに、指のかかり方を意識して投げ込み。同時にトレーニングで体を鍛えていった。「冬のランメニューでは、グラウンド1周か2周を6~8本やるのですが、金沢監督から『ピッチャーなんだから、人一倍、やらなきゃダメだ』と言われたので、ただ設定タイムをクリアするのではなく、毎回、トップでゴールすることにこだわってやってきました。『どこまで追い込めるか』を課題にし、自分自身にプレッシャーをかけて走ることで精神的にも鍛えられたと思います」。
こうして、2年夏には140キロ超えを果たした球速は、現在、MAX144キロまで達した。「目標としては150キロという気持ちがありますが、球速を速くするために特別な練習はしていません。地道に基礎体力を鍛えていけば、スピードは付いてくるものだと思っています」。また、こうした走り込みによって、球速のみならずタフさも身に付いていった。
「昨秋の茨城大会・準決勝で常総学院と対戦したのですが、パスボールで先制されて焦ってしまい、5回までに4失点。でも、打線が逆転してくれてからは6回から9回まで無失点で、とても良いピッチングができました。スタミナには元々、自信があったのですが、やはりトレーニングをしてきたことが試合後半の強さにつながっています」。そして、チームが勝ち上がると共に、当然、連投するケースも目立った。
「連投は苦手だったのですが、8月の暑い時期に練習試合が多く組まれて、そこで連投して投げるスタミナを付けていきました。あの時期は毎試合、心を強く持って集中して取り組めたと思います」
[page_break:投球フォーム変更の狙い]
投球フォーム変更の狙い
インタビューに答えている細川 拓哉選手(明秀日立)
現在はフォームを変えてピッチングをしているという細川選手。「昨秋までは『いち、に、さん』とバッターが打ちやすいリズムで投げていたので、どんなに速いボールでもバットに当てられていました。それで、今は『いち、にぃ~、さん』と『に』の部分を長くして打者のタイミングをずらしながら投げるようにしています」。
そこで動画などを見て参考にしているのが大谷翔平選手(エンゼルス)だ。「テイクバックの時にほんのちょっと『間』を作っているのですが、この間を作ることで力みがなくなり脱力することでボールのキレも良くなったと感じています。あと、以前は左足を真っ直ぐ上げて腕だけで投げていたのですが、今は斜めに上げて体に巻きつけるようなイメージで投げるように心掛けています」。
関東大会を終え、秋の最後の練習試合はこの新フォームで臨んだ。「フォーム変更から1週間ほどしか経っていなかったのでまだ投球は安定していませんでしたが、打者が前へつんのめるような体勢になっていて打ちづらそうでした」と、確かな手応えを感じたようだ。そこで、この冬はシャドウピッチングでフォーム固めに励んでおり、肩力を上げるために少し重たいボールを使って行うキャッチボールでも一球一球、フォームを意識しながら投げているという。
また、こうしたピッチング技術の向上により、「関東大会で健大高崎(群馬)と対戦する時、相手チームの機動力を警戒してクイックや牽制球の練習をしたのですが、試合ではランナーを背負った時にコントロールを乱してしまいました。でも、今は走者を見る余裕が出てきています」と、精神面の安定にも好影響を及ぼしている。
[page_break:理想は周囲から安心して見られるような安定感のある投手に]
理想は周囲から安心して見られるような安定感のある投手に
選抜への意気込みを色紙に書いてくれた細川 拓哉選手(明秀日立)
その一方で、この冬も厳しいトレーニングに励んでいる細川選手。ウエイトトレーニングではスクワットなどで下半身を強化し、太ももは1年時に比べて10cmほど太くなった。「8~12回のフルスクワットで限界が来て潰れてしまうくらいの負荷をかけるため、現在は120kgの重量で3セットやっています。食事も毎晩、1kgのごはんを食べることで体重が80kgまで増えました。今後も筋肉を増やして85kgくらいにしたいです」。
また、変化球はスライダー、カーブ、フォークを投げているが、「ストレートとスライダーには球速差があまりないので、緩急を付けられるカーブを磨いていきたい」と話しており、さらに新たな球種の取得にも取り組んでいる。「自信を持っているのはアウトローのストレートとスライダーで、それだけだと右打者に踏み込まれてしまうので、今、ツーシームが投げられるように練習しています。握りはフォークに近くて少しシュートしながら落ちるボールなのですが、理想はDeNAの山崎 康晃投手のようなツーシームです。この球種も昨秋の最後の練習試合で試してみたところ詰まった当たりの内野ゴロが増えたので、この冬でさらに完成度を上げて、山崎投手のように周囲から安心して見られるような安定感のあるピッチャーになりたいです」
今春のセンバツ大会に向けて、「フォームを変えてから調子が上がってきていますが、昨秋と同じように気持ちのこもったピッチングをしたい。これまでは野手陣に背中を押してもらっていたので、センバツではできるだけ相手打線を0点に抑えてチームに流れを呼び込みたいです」と、抱負を語った細川選手。
「まずは初戦をしっかりと勝ち、その後も一戦必勝の気持ちで戦って優勝を狙います。そして、できれば大阪桐蔭と聖光学院(福島)と対戦したいです。大阪桐蔭にはすごい打者がたくさんいますし、聖光学院にはシニア時代、同じ支部でライバルだった須田 優真がいるので、是非、甲子園でまた戦ってみたいです」。
期待に胸を膨らませ、昨秋から大きく成長した姿で迎える大舞台。はたして、どこまで自身の持つポテンシャルを発揮することができるのか、楽しみな選手だ。
(取材=大平 明)