早稲田実業のスラッガー野村大樹を覚醒させた3つの取り組みと配球を読む能力

明治神宮大会4日目、早稲田実業を決勝に導いたのは4番野村大樹だった。中学3年のとき、侍ジャパンU-15代表を経験した野村は早稲田実業入学後、いきなり1年夏から4番に座り、2本塁打を記録。1年秋もブロック予選、都大会を通じて3本塁打。都大会決勝では優勝を決めるサヨナラ本塁打を放ち、その存在感は清宮に劣らない。そして神宮大会準決勝でも福岡大大濠の三浦銀二から本塁打を放つなど3安打4打点とますます凄みが増している野村。ここまで進化したのは確かな取り組みがあった。
夏の大会後に取り組んだ3つの取り組み
春季大会が終わってからの公式戦や招待試合でデビューし、いきなり4番を任された1年生・野村大樹。
あの清宮も「いつも野村につなげることを意識して打席に入っている」と信頼するほどの長打力、勝負強さをこれまでの大会で見せてきた。
秋の東京大会で3本塁打を打てた要因として3つの取り組みがある。まず1つが夏から取り組んできた体幹トレーニングだ。
本塁打を放った秋季一次予選の立志舎戦で野村はこう語った。
「チームとして体幹トレーニングなどを肉体的な強化をしてきたことをやってきたので、以前よりも打球の伸びが違ってきており、自分自身、パワーアップしている実感はあります」と手ごたえを感じていた。
そして2つ目は変化球打ちだ。それは夏の大会で変化球を打てなかったことがきっかけで変化球を打つ練習を繰り返してきた。
「夏に変化球が全く打てなかったこともあり、曲がる系の球であるツーシームやスライダーやカーブなど変化球の対応を練習で積み重ねていました」
そして3つ目。逆方向への打撃も夏から磨いてきた。
「元々、右方向へ打つのは得意なのですが、夏が終わってから素振りの量を300本から500本に変えました。そうするとロングティーで50球打つうちの柵越えが1、2球だったのが、最近では20球近くまで越せるようになり、とにかく振り込むことを練習ではやっています」
その成果が発揮されたのが都大会決勝の日大三戦。相手は抜群の縦スライダーを誇る櫻井周斗。9回裏、一死二塁の場面だった。
櫻井が投じた縦スライダーをもの見事に捉えてライトスタンドへ飛び込むサヨナラ2ラン。バットでチームを優勝に導いた。夏から積み重ねてきた成果が最高の形として現れ、大きな自信をもって明治神宮大会に臨んだ。
[page_break:福岡大大濠の試合はエース三浦よりも捕手・古賀との勝負だった]福岡大大濠の試合はエース三浦よりも捕手・古賀との勝負だった

野村大樹選手(早稲田実業)
そして神宮大会の準決勝は好投手・三浦銀二擁する福岡大大濠。決勝進出へ向けて、その三浦を打ち崩すことがカギとなった。第1打席、打席に立った際の印象を伺うと、「試合前から内、外にキレイに投げ分ける投手という印象を受けました。実際に打席に立つと、外にピタッと投げてきましたし、インコースにも厳しいボールが来ます。めちゃくちゃ良い投手でした」と絶賛する。そんな三浦に対して、第1打席、スライダーを捉えて先制適時打を放つ。
「スライダーが来るなというのが直感で分かっていたので、狙い通りに打つことができました」
野村の読みの鋭さは中学時代まで捕手をやっていた経験が生きている。
「これは僕の癖なんですけど、ベンチから相手捕手の配球を見たり、考えるのが好きで、味方が打席に立っているときに、ああ僕と同じ攻めだな。僕と違う攻めだなとかを感じていますね。試合状況によって、僕だったらこういう球種を投げたいだろうなというのを考えながら試合を見ています」
捕手経験は野村の打撃にとって大きなアドバンテージとなっている。神宮大会準決勝は三浦ではなく、捕手・古賀悠斗との勝負を仕掛けていたのだ。捕手を見るところに、野村の視野の広さを感じる。
そして第2打席。野村はスライダーを打ったのを見て、今度は内角に来るだろうという読みをしていた。その読みがぴたりとはまった。内よりのストレートに詰まりながらも、フェンス直撃の三塁打。ベースランニングも非常に速く、強打で注目されているが走塁も見逃せない。
「自分、足が遅い遅いといわれていますけど、ベースランニングでは1年生では一番ですし、足には自信があります」と語るように50メートルのタイムは6秒3となかなか速いタイムである。
第3打席は空振り三振となったが、次の第4打席。清宮を一塁においてカウントは2ボールだった。
「ストライクを取りに行くと思ったので、インコースにヤマを張っていました」
ドンピシャでインコースのストレートを振りぬいた野村の打球はレフトスタンドへ消える高校通算23号本塁打となった。またも読み勝ち。巧みな投球術で勝負する福岡大大濠バッテリーの狙いを見抜いたのであった。
古賀は「自分自身でも絶対に2ボール0ストライクだったら間違いなく狙っていくカウント。あのコースを投げたことに悔やんでいます」と古賀にとって悔いに残る1球となった。この本塁打が効いて、6対4で勝利。
もし本塁打がなければもっともつれていた試合展開だっただけに大きな一発となった。
固め打ちにこだわる理由
4打数3安打4打点の活躍には「2安打を打つことはあるんですけど、3安打を打つことはなかなかないんです。固め打ちすることにはこだわっていて、それができてよかったです。ただ後二塁打を打てば、サイクル安打だというのを試合後に気づいて、ああやってしまいましたと思いました(笑)」と頭をかいた野村。
野村が固め打ちにこだわるのは、4番として常に打たなければならない責任感がある。「4番打者が打てないのはチームにとって士気が下がるので、固め打ちができることにこだわっています」と4番打者としての心構えも語ってくれた。
そして高校通算23号本塁打は1年の清宮の本塁打数を超えた。これについて清宮は悔しさを感じている様子はない。
「特に気にしていないですね。打ってくれてチームを勝利に導いてもらえれば。どんどん本塁打を打ってほしいです」
なぜ清宮はこれほどまでに野村を信頼しているのか。その理由を聞くと、「やはり勝負強さと粘り強さです。繋げれば必ず返してくれるという安心感があります」と野村の勝負強さを認めているからこそ次につなぐ意識で打席に立つことができているのだろう。
だが野村は「23本打っていますけど、これまで内容は全然ダメで、通算本塁打数に見合った活躍はできていないと思います」とさらなる高みを目指している。
決勝戦の相手は履正社。今まで戦ってきた相手と比べると格段に強い相手であり、苦戦が予想される。
だがこれまでも強敵を破ってきた早稲田実業。また観衆を驚かせる試合を見せるかもしれない。そのキーマンとなるのは1年生4番の野村大樹となるのは間違いない。
(文=河嶋宗一)