嘉手納vs前橋育英
嘉手納、波状攻撃で今夏目の離せない存在に!

幸地 諒承(嘉手納)
春の関東大会で花咲徳栄、関東一、横浜という強豪を倒して優勝した前橋育英のほうが前評判は高かったが、嘉手納が終盤に見せた怒濤の攻撃のほうが一枚上手だった。
試合は中盤まで前橋育英が優勢に進めた。1点を追う3回には4本のヒットと嘉手納の2つのエラーもあって逆転。5回にはセンター前ヒットを放った9番長谷川 涼太がバントで二塁に進み、3番飯島 大夢(2年)のレフト前ヒットで生還。さらに4番小川 龍成(3年)の左中間を真っぷたつに破る長打で飯島が生還、と思ったが、それよりも早く小川が三塁で憤死して追加点を挙げられなかったことが後々まで響いた。
それにしても、このときの三塁打を狙った小川の走塁は見事だった。一瞬も躊躇する様子を見せずに三塁に滑り込んだときのタイムは私のストップウォッチで10.86秒を計測した。昨年夏のオコエ 瑠偉(関東一→楽天)、佐野日大の韋駄天、五十幡 亮汰が3年前に記録したタイムに次ぐくらいのもので、プロの選手とくらべて上位にくる記録である。
小川はバッティングもいい。イチロー(マーリンズ)同様、前重心に特徴があり、打ちに行きながら重心が前に移るが、このときバットは依然として後ろにある。つまり下半身は打ちに行っているのにバットは後ろで待機しているという状態。ピッチャー寄りでもキャッチャー寄りでもボールをミートできる形で、このときはストレートをピッチャー寄りで捉えて左中間に運んだ。嘉手納の終盤の猛攻がなければこの一打こそ前橋育英の勝因になっただろう。
1対3で迎えた7回表、嘉手納はまず前橋育英の先発・佐藤 優人(3年)に襲いかかった。四球を挟んで4本のヒットをつらねてマウンドから下ろし、無死一、二塁でリリーフしたのは本格派右腕の吉澤 悠(2年)。5番比嘉 花道(2年)が放ったショートライナーで二塁走者が飛び出して併殺になりチャンスは潰えたと思ったが、ここから5本のヒットをつらねてこの回、合計8点を入れて主導権を完全に握った。
嘉手納のバッティングは沖縄球児のバッティングと言っていい。6年前、春夏連覇を果たした興南を思い出してほしい。好球必打とキャッチャー寄りのミートポイントが大きな特徴だったはずだ。内角は引っ張り、外角は逆方向に押し込むというのが基本形。私には1980年代の池田打線と言われたほうがピンとくる。
いずれにしてもこの日の波状攻撃で嘉手納は目の離せない存在になった。
(文=小関順二)
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