花咲徳栄vs大曲工
花咲徳栄・高橋昂也を苦しめた大曲工の積極的攻撃

高橋 昂也(花咲徳栄)
優勝候補の一角、花咲徳栄がスコアだけ見ると6対1で楽勝したように見えるが、スポーツ紙が戦力をCと評価した大曲工に大苦戦したゲームだった。苦戦の原因はまず花咲徳栄の先発左腕、高橋昂也(3年)が本調子でなかったことが挙げられる。
1回裏、大曲工の1番高橋航平(2年)に四球を与えるのだが、高橋昂が埼玉大会で与えた四球は6試合(37イニング)で2個。つまり与四死球率は0.49と断然低い。それが2回に8番打者に四球を与え、7回には9番打者の投手、藤井黎來(2年)に死球を与えてしまう。埼玉大会の“精密機械”が2万人以上の観衆の前で機能不全の手前までいってしまった。
ストレートの最速は146キロにとどまり、1、2回はこのストレートを主体にした配球のため奪三振はゼロ。2回以降、キレ味鋭いカーブ、スライダー、フォークボールを交えて11個の三振を奪うが、ストレートが走らない中での2ケタ奪三振は納得がいかないだろう。
大曲工打線は見事だった。まず注目したのはストライクの見逃しが少なかったこと。「全投球に占めるストライクの見逃しの割合」、つまり見逃し率は花咲徳栄の21.1パーセントに対して10.8パーセント。この数値はボールに向かっていく気持の強さを計るバロメータと言ってもいい。
前評判が高いばかりに勝利に腰が引けたように見える花咲徳栄に対して、なりふりかまわず勝ちをもぎ取りにいった大曲工。地力で後れを取るチームが勝利をもぎ取る唯一の方法論として選択したのが“好球必打”だった。4回に佐渡敬斗(3年)が初球を狙い打ちしたソロホームランはその象徴だった。
大曲工は先発の藤井、リリーフの鈴木理公(3年)とも140キロ台前半を計測する本格派で、藤井は落差十分のフォークボールを交えて8回投げて8個の三振を奪う力投で優勝候補をあわてさせた。この両投手を堅い守りも盛り立てた。シートノックの時から素早い動きが目立ち、それを試合でもきちんと実践。15個のゴロアウト(併殺1)は大曲工の勲章と言えるだろう。
それでも地力の差は存在した。長打が佐渡のホームランだけだった大曲工に対して、花咲徳栄は10安打のうち4本が長打で、それがことごとく得点にむすびついた。6番打者以外の8人がヒットを放ったのも地力の充実ぶりを感じさせる。苦戦したが強さは十分に見せた初戦だった。
(文=小関順二)
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