最終回では、上原投手を作り上げたトレーニングの重要性とメンタリティに迫ります。そこには上原投手の考えが詰まっていました。
基本的なトレーニングを継続することが大切
今年で40歳を迎える上原投手。トレーニングは1年間無事にプレー出来ることを考えて行っている。上原投手がトレーニングの重要性を実感したのは大学時代だった。
高校時代は全く無名選手だった上原投手。「這い上がりたい」。その一心で始めたのがウエイトトレーニング。ウエイトトレーニングによって、球速も格段に伸び、全国の舞台で活躍。一躍、ドラフト候補として注目を浴びる。プロ入り後も、巨人のエースとして君臨。そこでトレーニングを継続することの大切さを実感する。
「トレーニングをしない奴は、間違いなく伸びることはないですし、落ちていくだけです。体を作るのはプロに入ってから、というのは遅いと思います」
アマチュア時代からしっかりとトレーニングをすることの大切さを訴える。だがウエイトトレーニングを行う以前に大事にしている考えは、走れる身体であるかどうか。
「走れなくなったら僕は現役をやめます。それくらい走ることは大事だと思っています。MLBでも走る選手はしっかりと走っていますよ」と走る重要性も語っていた。
走ること、トレーニングを継続することの大切さを語った上原投手が、もう一つ大切だと語ったのが「体幹」だ。
「体幹は人間が生きていく中で一番大事なところですし、野球に限ったことでは無いですよね」
最近はトレーニングに対する知識も増えてきているが、上原投手は中学生を見ていて、基本を飛ばしているように感じているようだ。
「知識や良い食べ物だとかを取り入れているので、体つきは素晴らしいものになっています。ただ基本がおざなりになっていて、一段飛ばししている感じがあります。新しい知識を取り入れるのはダメなことでは無いですけど、基本あっての知識だと思うし、基本あっての技術練習であるし。
根本的な土台練習っていうのは、おろそかにしてほしくないです。だから、根本的なものをわかっていないな、というのを感じます。やっぱり、キャッチボールが一番大事なんですよね。ピッチングにおいてもそう。そのキャッチボールをおろそかにしているなと感じます」
技術練習の前にやるべきことがある。上原投手はその考えを大事にしているからこそ、40歳になる今でもプレーができているのだ。上原投手にとってオフシーズンはトレーニングの期間だと考えている。
「シーズン中にできない事、あとはシーズン中に出てきた課題を克服する時期だと思っています。技術的にはすぐに克服はできないですけど、体力を付けることはできます。今年に限って言えば、シーズンの終盤にちょっとバテましたから、それをバテないようにしていくためのトレーニングだと考えています」
だが、オフシーズンのトレーニングは、繰り返しの練習になるので、どうしてもモチベーションが下がってしまうことが多い。上原投手はどうやってモチベーションを上げているのか。
「現役でいるうちが華だと思っています。現役でいるから、いろいろな我儘も言えるし、野球教室も現役中しかやらないですし。子供達も現役だから喜んでくれる、引退している選手には、そこまで目を輝かせてくるという印象は僕の中ではないので」
プロだからこそ憧れてくれる、目を輝かせてくれる。そこにはプロとしての誇りが感じられた。


[page_break:トレーニングはとにかく楽しむこと]
トレーニングはとにかく楽しむこと
一流選手として、けが予防で気を付けていることについて聞いてみた。
「危ないな、と思ったらすぐやめることですね。高校生はなかなかそういう事は難しいかもしれないけど。そこで無理して2ヵ月3ヶ月ダメになるんだったら、すぐそこで判断して1週間休んで、残りの期間を練習した方がいいと思いますし、休む勇気は必要だと思いますね。自己管理は難しいと思うので、高校生、大学生は指導者がきちんとその部分に目を配ってほしいなというのはあります」
大学時代、上原投手は1人で体の管理をしなければならなかった。だからこそ、周りに知識を求めたり、共有したりもした。
「大学時代、周りのみんなで知識を持ち寄って、プロや社会人のキャンプに参加していました。学生トレーナーも皆、いろいろなところに散らばって知識を吸収して、1週間したら大学に戻ってくる。そして、キャンプで得た知識をみんなで言い合って、いいものだけを取り入れていく。だからこそ、やりがいはありましたよ」
それは今でも生きており、周りはどんなトレーニングをしているのかも観察して、良いものは、自分のモノにしている。
辛いトレーニング、走り込みに打ち込んでいる高校生には、どんなエールを送るのか。
「とにかく楽しいと思ってほしい。野球って楽しいなと思えば自然と体も動くし、上手くなりたいという気持ちも間違いなく芽生えてくると思うんで。怠いな、しんどいな、と思いながら練習するのはやめてほしいなと思います。プロでやりたい人もいるだろうし、大学でやってやろうって人も、高校で終わり、という人もいるかもしれない。
トレーニングをしている間は楽しい、そういう気持ちで。もちろんトレーニングはしんどいですけど、自分のためにと思ってやってほしいですね」
いかに未来の自分を見据えて、前向きにトレーニングに取り組めるか。大学時代から、MLBで投げることを目標にしていた上原投手が語るからこそ説得力がある。

[page_break:みんなの笑顔を見たいから強い気持ちになれる]
みんなの笑顔を見たいから強い気持ちになれる
今回のインタビューで是非訊きたかったことが、上原投手のメンタルについてだ。試合の行方を大きく左右するクローザーを、レッドソックスという名門チームで担う上原投手は、どのような気持ちでマウンドに立っているのだろうか?
「厳しい場面で登板することが多いですからね。正直なところ、なかなか冷静ではいられません(笑)。それでも、ここを抑えれば皆の笑顔が見られる、と思って投げています。クローザーというのは、そういうポジションですし。チームの仲間も、ファンも、みんなが笑顔になってくれればと。
もちろん一番は自分のためですが、周りの人のためという思いが、力になっているのかもしれません。言ってしまえば、僕は野球をしているだけ。それなのに、僕が抑えれば、球場の何万人というファンや、テレビを見ている何十万人という人が喜んでくれる。本当に有り難いことだと思っています」
上原投手といえば、役割を全うした後にチームメイトと交わす「強烈なハイタッチ」も印象的だ。
「ああいうハイタッチをするのは、みんなで喜びを分かち合いたいからです。あれもクローザーの1つの醍醐味ですね」
では、絶体絶命のピンチの時は、どのように気持ちを切り替えているのだろう?
「そういう時は、『やばい』と素直に思っています(笑)。結局、ピンチから逃げられないですからね。受け入れるしかないわけです。『ここを抑えたら目立つな』と思うこともありますよ。打たれても目立ちますけど(笑)。これまで培ってきた経験で、気持ちを整理できているところもあると思います」
取材の最後に、メジャーに行ってわかった日本の野球の良さは何か訊ねてみた。
「環境ですかね。日本の野球の環境は世界一じゃないですかね。何事にもケアが行き届いていて、野球に専念できる環境が整っている。メジャーは意外とほったらかしなんですよ(笑)。二軍の環境も向こうのマイナーと比べると、格段に恵まれていますし。マイナーの選手は食事にありつくのもひと苦労ですからね。ですから、高校・大学から直接メジャーリーグに行こうとすると、 言葉以外にも、想像以上に大変だということを覚えておいた方がいいですね」
筆者は、上原投手にインタビューをするのが今回で3回目。とは言っても前回が7年ほど前なので、ずいぶんと時が流れていました。上原投手は4月で40歳になります。しかし7年前と同じように若々しく、まだまだ“青年”という感じでした。ストレートもフォークもまだまだ伸びしろがあると追求する、前を向く姿勢が、若さの秘訣なのでしょう。上原投手、汗をしたたらせながらトレーニングに励む、貴重な姿も見せていただき、ありがとうございました。
