「徹底する」力、逆転勝利つかむ・鹿屋中央 「大きな収穫」鹿情報
鹿屋中央・山本信也監督は「徹底すること」にこだわる。
5点のビハインドをひっくり返し、逆転勝利をつかんだ源には「徹底」の力があった。
「追い込まれるまでは外角の直球を狙う」
大会屈指の好投手・二木康太(3年)を攻略するポイントはそこにあった。
準決勝・鹿児島大島戦では直球狙いを徹底できず、苦戦した。その反省を前日の練習で修正。空振りをとるためのフォークや低めのボールを見極め、直球狙いの打撃を徹底して決勝に臨んだ。
「低めのボール球をことごとく見極められたので、後半は直球勝負せざるを得なかった。相手打者に直球を投げさせられた」
14安打された二木は悔しがった。
直球狙いの徹底を最も体現したのが4番・木原智史(2年)だ。2、4、6、8回はいずれも先頭打者で「次につなぐ」意識でヒットを放ち、チャンスメークに徹した。同点で迎えた9回無死一塁の場面では「自分で返すつもりで初球」の直球を迷わず振り抜いて、値千金の勝ち越しのレフトオーバー二塁打を放った。「何も考えず来た球を打ち返せるのが持ち味。頼もしい4番に成長してくれました」と山本監督も絶賛する働きだった。
攻守とも両者の力は甲乙つけがたく、投手が打たれ、守備のミスで失点するなど、両者にとって必ずしも思い通りの展開ではなかったが、「秋とは違うチームになったことを示したかった」(エース立和田大典・3年)気持ちで鹿屋中央がわずかに勝った。
昨年の春夏秋の県大会は、いずれも2回戦敗退。「大隅の雄」の地位も尚志館に先を越された。リベンジの照準を「夏」に合わせ、そのためにこの春結果を残すことにこだわって、厳しい冬を過ごした。ミスで崩れて自滅することが多かったチームが、その逆境をはねのける力をつけたことを決勝戦で証明してみせた。「やってきたことが結果として出ることが何より選手の自信になる」と山本監督。大隅からやってきたもう一つの「波」が、春の鹿児島を席巻した。
鹿児島情報にとっては悔やまれるのは8回の守備だ。無死一塁で5番・岩下貴徳(3年)の打球は何でもないショートゴロを下之薗誠也主将が「勝ちを意識して慌ててしまった」とグラブに収まらず、一二塁と傷口を広げた。二木康太が踏ん張って二死をとり、8番・川内大地(2年)の当たりは高々と打ち上げたセンターフライ。左中間寄りにポジショニングしていた四元駿平が、俊足を飛ばして追いついたかに思われたが、風の影響もあったのか落下点を誤り、三塁打となって1点差とされた。県内屈指の投手力、守備力を誇るチームも、怒とうのごとく押し寄せる鹿屋中央の勢いを止められなかった。
昨秋、初めて県大会を制した頃、下之薗主将は緊迫感のある守備の場面を「楽しい」と自信を持っていた。初めて「挑まれる」側に回った時、まだまだ自分たちの「守備からリズムを作る野球」が未熟であると思い知った。「春だからまだ良かった。夏に同じことを繰り返さないようにしないと」(下之薗主将)。
新チームになってからの公式戦で4点以上取られていなかった二木にとっても、被安打14、8失点は屈辱だった。だが、二木、図師賢剛監督とも今後の課題が明確になったことを「収穫」として挙げていた。
「かわす投球では、このクラスの打線を抑えられない。夏は直球をもっと磨かないといけないと打たれてみて分かったと思う。それが大きな収穫ですよ」(図師監督)
(文=政 純一郎)