Match Report

二松学舎大付vs駒込

2011.07.27

駒込学園、健闘のベスト8。負けて悔いなし!

 東東京でベスト8入りしてきた駒込学園。野球では無名ともいえる学校だが、今大会、3回戦で芝浦工大付を、4回戦では日体荏原を、5回戦では駒大高校を、いずれも私立強豪ともいえる学校を立て続けに撃破してきた。あちこちから、「駒込学園ってどうして強いの?」「何がよくて勝ち上がってきたの?」という声が聞こえてきた。
 駒込学園と聞いて、知っている情報といえば、OBに、もと茨城ゴールデンゴールズ監督の萩本欽一氏がいること。野球部の水谷浩延監督は帝京高校野球部出身だということぐらい。
 快進撃のその真相をさぐるべく、いざ、[stadium]神宮第二球場[/stadium]へ……
 

 相手は今大会、優勝候補の一角、二松学舎大付。ここまで快投を続け強豪打線を封じてきたという駒込学園の長身エース、183.5センチの市谷岳はマウンドにはあがらず、3番・レフトで試合出場。先発は背番号10、サイドスローの潤間誉直だった。

 1回裏、潤間は先頭の和泉惇史に四球を与えると、2番・今井健裕がバスターエンドランを決められ1、2塁。3番・石田大介がバントがバントで送った後、4番・今井敬介に1球目を投げる前に、二塁へ投げた牽制球がそれて、三塁走者の和泉が先制のホームイン。これで動揺したか、潤間は4番・今井に甘い球を投げ、レフトへ2ランホームランを打たれる。いきなり厳しいスタートとなった。
 3回には5番・江川吉明にライト前タイムリーを打たれ0対4。4回から、潤間に代えて背番号11の西田優希を投入するが、四球に9番・松尾俊佑の内野安打、守備の乱れもあり1点を失う。

 二松学舎大付のエース・鈴木誠也は1回で降板したが、2回からマウンドにあがった大松由椰を打ち崩せず1点が取れない中、駒込学園は5回裏からいよいよエース市谷を投入。三者凡退で抑えると、流れが一気にやってきた。6回表、1番・小林研人が左中間を破る二塁打で出塁、2番・菊地将太がセンター前ヒット。3番・市谷は三振に倒れたが、4番・大河原弘泰が四球を選び満塁。ここで2回にもヒットを打っている5番・大川孝人が打席に入り、ベンチ上の大応援団の期待に応えセカンドの頭を超えるタイムリーを放ち1点。なおも続いた満塁のチャンスは、6番・岡本康平がセンターフライ、7番・西村信平がいいあたりのレフトフライに打ちとられ、さらなる追い上げはならなかった。


 市谷は、6回裏も得意のフォークを武器に強打の二松学舎大付打線をゼロに抑えたが、8回につかまった。その回先頭の2番・今井健裕に三塁打、3番・石田がセンター前ヒットでまず1点。4番・今井敬介を四球で歩かせ、次打者を三振で1死を取った後、6番・山岸育に死球を与え満塁。ここでピッチャーの大松がレフトへ2点タイムリー二塁打。ここで7点差がつき7回コールド。駒込学園の夏が終わった。

 試合後、駒込学園の選手たちは「やりきった」という清々しい表情をみせていた。水谷監督も、笑顔でベンチ裏に出てきた。そして、こう振り返った。「正直、5試合も戦うことができるなんて、まさかという感じです。初戦からすべて私立高校さんとの対戦で、これを勝ち上がるのは大変だなと思っていました。でも、市谷―大川のバッテリーを中心に、試合をするごとに成長していった。私は特に何もしてあげてはいませんが、彼らがただただ頑張った。褒めてあげたいと思います」

 聞けば、練習環境は、まったくといっていいほど恵まれていない。広いとは言えない校庭を他部と共用で使う。練習時間は授業が終わってからの4時ごろから午後6時か7時までの2~3時間程度。雨が降ったらもう練習をする場所もないから、校舎内でトレーニング。土日は、グランドを求めて水谷監督が運転するバスに乗って遠征に出る。
でも、「みんな野球が好きな子たち。特待も、スポーツ推薦もない学校ですが、野球が好きな子たちが基礎から一生懸命、野球をやっています。各自で工夫したりあれこれ考えたり、本当に頑張ってきたと思います」と水谷監督は目を細めるのだ。

 キャプテンでエースの市谷もこう話す。「僕らと同じような環境で野球をやっている国学院久我山高校が昨秋の東京大会で準優勝して春の選抜甲子園に出たというのは励みになりました。いろいろ工夫してやっているというのを聞いて、僕らも頑張れば勝てるんじゃないかと思ったんです。狭いグランドをいかに効率よく使うかを考え、練習メニューも自分たちで考えた。他の選手がノックを受けているときには、自分がノックを受けているようなイメージで体を動かす。この環境の中で、いかにすれば上達できるかをいつも考えながら練習してきました」

 いかに相手打者を抑えられるかはピッチャーの市谷、キャッチャーの大川、それぞれが考えてきた。市谷は、指が長いことから、少年野球時代の監督でもある父のアドバイスで中学時代にフォークを覚えた。
 「中学時代、軟球だとあんまり落ちなかった」というフォークは、高校に入り、硬球に持ち帰ると面白いように落ちた。市谷の武器になった。さらに、いかに切れのあるストレートを投げられるかも考え、投げ込みを続けてきた。

 でも、調子がいいときばかりではない。そんなときに力を発揮するのがキャッチャーの大川。「大川は、調子の悪いボールを見せ球にして、調子のいい球をよりいいボールに見せるようにリードしてくれるんです。それに、打者観察に長けていて、相手が苦手とするコースや球種を要求してくれるんです。大川のリードには本当に助けられました。ここまでこれたのは大川のおかげです」と市谷。

 こんなふうに、選手一人一人の工夫があって、ベスト8まであがってきた。「もちろん、負けたことは悔しい。でも、5試合もできて楽しかった。とてもいい夏だった」と駒込学園の選手たちは最後まで笑顔だった。


 さて、水谷監督が帝京出身だということは先に少し触れた。今、42歳の水谷監督。2つ上に小林昭則投手(もとロッテ)、1つ上に芝草宇宙投手(もと日ハム他)がいて、当時はファーストやセンターを守っていた。

 「二松学舎大付とは毎回のように当たっていまして、高校2年の秋にはこの[stadium]神宮第二球場[/stadium]で対戦してコールドで勝たせていただいた思い出があります」。

 中京大学を経て、17年前から駒込学園の保健体育の教諭をするとともに野球部の監督を務める水谷監督は、「帝京二松学舎に追いつくなんてとてもとてもですが、こうして大きな舞台で戦わせていただけるだけでも幸せです。帝京の前田監督には『決勝までこいよ』なんて言っていただきましたが、そんな力はないので…。でも、また勝ち上がることで戦わせていただくチャンスも増えると思いますので頑張ります」そう言って笑顔をみせた。

 そういえば、駒込学園の選手をよく見ると、ストッキングは帝京と同じものを着用している。また、エリ付きのユニホームは中京大のユニホームを真似て作られている。今度見るときは、そんなこだわりのユニホームにも注目してみていただきたいと思う。

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 二松学舎大付大松由椰の好投が光ったが、エース鈴木誠也の1回での降板は気になるところ。股関節痛はだいぶよくなっているとのことがだが、この試合の降板理由は、違う箇所の痛み。準決勝、決勝を勝ち抜き甲子園に行くためには、やはり鈴木誠也の存在は不可欠。大事に至らないことを祈るばかりだ。

(文=瀬川ふみ子

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