2010年07月23日 クリネックススタジアム宮城
仙台育英vs東北学院
2010年夏の大会 第92回宮城大会 準々決勝


1点以上の差
仙台育英
これは勝てないな。
たった1点の差。
だが、そう思わずにはいられなかった。
東北学院
が
仙台育英には勝てないと思った大きな理由は2つある。
ひとつめは、完全に見下ろされていること。
試合前、4回戦の
白石
戦で5安打11奪三振完封の仙台育英・木村謙吾と顔を合わせた。リラックスした表情で向こうから「こんにちは」と声をかけてくれたが、「調子いいみたいだね」と言うと、「県内相手ですから。当然です」と当たり前といった表情だった。
その木村の表情は試合中も変わらない。前回の1点に続き、この日も打線の援護は2点だけ。しかも味方の失策が絡んでの失点だったが、マウンドでは終始笑顔。余裕しゃくしゃくだった。
試合後、「見下ろして投げている?」と訊くと、「はい。ダメですか?」。「絶対負けることはないと思っている?」と訊くと「はい、ダメですか?」。相手をなめるのではなく、いい意味で打たれるはずがないと思っている。だから、どんどんストライクを投げるし、ボール球が先行しても慌てない。
マウンドでの姿からは、「オレは仙台育英で1年から甲子園で投げている木村だ。お前らとは格が違うんだ」といった貫禄すら感じさせた。この日も、3安打12奪三振。つけ入るスキを与えなかった。
ふたつめは、少なくとも目に見える限りでは、仙台育英を上回る点がないこと。
伝統、実績などから仙台育英には好素材が集まる。人気や知名度も考えると、これから先、
東北学院
が素材で仙台育英を上回ることは難しい。だが、素材で下回っているチームでも上回れる部分を
東北学院
はやっていなかった。全力疾走しかり、カバーリングしかり。
仙台育英は決してその部分に力を入れているチームではない。この試合でも、木村がセカンドゴロで一塁まで6秒29というタイムを計測している。
東北学院
には、そこまで遅い選手はいなかったが、普通。仙台育英を上回っていると思わせるような走りではなかった。カバーリングも同様。仙台育英は一塁けん制の際に、セカンドが動かないが、
東北学院
も同じ。送りバントのケースでのライトの一塁後方へのカバーなど、ほぼ行っていないような状況だった。素材、選手層などで下回っているチームが、格上のチームに同じことをやっていては勝てるはずがない。もし勝てるとしたら、エースが最高の投球をするか、相手の投手が大乱調のときぐらいだろう。そんな試合は、ほとんど期待できない。
第3試合に登場した
東北
は復帰した五十嵐征彦監督が
花巻東
に勉強に行くなど、カバーリングの意識が出てきた。
まだ本家には及ばないが、以前の
東北
と比べれば、かなり徹底している。格上のチームでもそういう部分に目を向けている以上、格下のチームは、より徹底しなければいけない。
この日は、
泉館山
、
仙台一
、
気仙沼向洋
の3チームで内野ゴロで一塁ベースまで走らない“不走”が見られた。35度を超える猛暑、人工芝のクリネックススタジアムだけに仕方がない部分もある。
だが、弱者だからこそ、そういう部分をしっかりやってほしい。負けたチームの監督のコメントは、一様に「投手力が……」「打力が足りませんでしたね」「あと一本が出なかった」というものばかり。投げる力、打つ力に差があるのは当たり前。もちろん、それがあるにこしたことはないが、そこの差ばかりを求めてもしかたがない。
「誰でもできることをパーフェクトにやる」。
格下チームの意識がそう変わらない限り、仙台育英、
東北
の2強時代が終わることはない。
(文=田尻 賢誉)
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