Column

松田 宣浩選手(中京-福岡ソフトバンクホークス)「あいつにはすべてを託したいと思わせる魅力がある」

2017.03.10

 中京商(現:中京/岐阜)、亜細亜大を経て、05年秋に大学生・社会人ドラフトの希望枠で福岡ソフトバンクホークスに入団した松田 宣浩選手。11年と13年から16年までの5度、サードでゴールデングラブ賞を受賞。また、13年に続き、今年も2大会連続でワールドベースボールクラシックの代表として侍ジャパンのメンバーに名を連ねるなど、NPB屈指の強打の三塁手として活躍中だ。そんな松田選手を亜細亜大の監督、総監督として指導していたのが現在、拓殖大学で監督を務めている内田 俊雄氏だ。

松田ほど扱いやすい選手はいなかった

松田 宣浩選手(中京-福岡ソフトバンクホークス)「あいつにはすべてを託したいと思わせる魅力がある」 | 高校野球ドットコム

内田 俊雄監督(拓殖大)

 内田氏は、亜細亜大で指揮を執った26年の間にリーグ優勝13回。さらに全日本大学選手権を3回、明治神宮大会を2回制覇し、これまでには高津 臣吾投手(元シカゴ・ホワイトソックスなど)、井端 弘和選手(元中日など)、赤星 憲広選手(元阪神)など、数多くのプロ野球選手を育ててきた。そんな内田氏をもってして、「あんなにマジメな選手はいなかった」と言わしめる松田選手。
「本当に練習をよくする選手で、全体練習が終わった後も地道に自主練習に取り組んでいました。放っておいても努力してくれる。練習に付き合えば期待に応えてくれる。監督としては、松田ほど扱いやすい選手はいませんでしたね」

 亜細亜大といえば練習が厳しいと噂されるチームだが、「泣き言を聞いたことはありませんし、『逃げたい』というような顔をしたこともまったくありませんでした。そういった部分では、なかなか見ることのない珍しい選手だったので、とても記憶に残っていますね」

 また、松田選手は泥臭く、努力をコツコツと積み重ねられる選手でもあった。
亜細亜大で野球をしている選手は、エリートとして高校時代を過ごしたケースが多くプライドが高かったりするのですが、松田はミスをしてもカッコつけることなく、へこたれもせず。グラウンドでは、いつもハツラツとプレーをしていました。下級生の頃から声もよく出ていましたし、周囲から認められる存在でしたね」

 そんな松田選手と内田氏が最初に出会ったのは高校時代にまでさかのぼる。「当時、中京商で監督をやっていたのが亜細亜大の元教え子という縁で、1年生か2年生の頃に練習を見に行ったことがあるのですが、その頃から馬力はすごかったですね。ただ、バッティングにしろ、守備にしろ、しなやかさが足らずに硬いところがあったので、一緒にやっていた双子の兄の教明(元トヨタ自動車)の方が、むしろ評判は良かったんですよ」

[page_break:1年生の時から好投手を攻略 持っていると感じた]

1年生の時から好投手を攻略 持っていると感じた

 とはいえ、高校通算60本塁打を放ったスラッガーの松田選手。名門・亜細亜大に進学してからも、すぐにレギュラーポジションを獲得することとなった。

「バットを持たせたら格が違いましたから、1年春からリーグ戦で使っていました。また、力はあるが柔らかさがないのが弱点と言いましたが、まだまだ発展途上で完成した選手ではありませんでしたし、そのウィークポイントを本人に伝えたところですぐに直せるものでもありません。だから、東都のレベルの高い選手を間近で見たり、たくさん失敗をして学んでもらったりするため、試合にたくさん出すことで、いろんな経験を積ませることが一番だと考えて使い続けていました」

 そして、同時に守備位置も変更された。
「高校時代はショートを守っていたのですが、2年夏の甲子園では彼の悪送球で決勝点を与えて初戦負けしているんですよ。そもそも細かなフットワークで美しい守備をするというよりは体力に任せたプレーが目立っていたので、守備で神経をすり減らすことなく負担が少ないサードを守った方が良いだろうと考えてコンバートしました。松田も結果を恐れることなく、思い切りよくプレーしてくれたと思います」

 1年の春季リーグからクリーンナップを任されて2本塁打を放つなど、リーグ優勝に貢献した松田選手。大学選手権でも勢いは止まらなかった。

「準決勝で九州共立大と戦ったのですが、その試合で新垣 渚投手(元ソフトバンクなど)から右中間にタイムリースリーベースを打ったんです。決勝の早稲田大戦も、和田 毅投手(ソフトバンク関連記事)とウチの木佐貫 洋(元巨人など)の投げ合いで終盤までもつれたのですが、9回裏に先頭の松田が初球をライト前へ打って出塁すると、最後は犠牲フライでサヨナラのホームを踏んだんです。新垣投手も和田投手も当時の大学球界を代表するピッチャーで、そんな好投手から1年生が打ったわけですから、この選手は持っているなと感じました」

 その後も松田選手のパワーはとどまる事を知らず、2年秋はシーズン6本塁打を記録した
「でも、松田は長距離砲というより中距離打者だったと思います。ホームランの軌道も放物線を描くのではなくて、ライナー性が多かった。ただ、その打球は外野手の定位置あたりでグンともうひと伸びして中段に飛び込むような感じでしたね」

 しかし、その一方で打率は2割台前半のシーズンがほとんどだった。
「当時はがむしゃらに振っていただけで荒っぽかったですね。大学に入った頃からストレートならアウトコースの厳しいボールも打っていましたが、変化球には弱かった。緩急を付けられたり、コーナーワークで揺さぶられたりすると対応できないところがありましたね」

 それでも、内田氏から細かく指導をするようなことはなかったという。
「松田は失敗しても自己弁護することなく、できるようになるまで練習を続けていました。だから、グラウンドにいる時間は他の誰よりも長かったですね。暗くなってボールが見えなくなってもバットを振っていましたし、前だけを向いて努力をしていました。その姿勢は、周囲から『あそこまでできる選手はいない』と思わせるほどでしたから、私も練習に関しては本人に任せて、ただ見ているだけでしたね」

[page_break:現在の華々しい活躍は、学生時代からつながっている]

現在の華々しい活躍は、学生時代からつながっている

松田 宣浩選手(中京-福岡ソフトバンクホークス)「あいつにはすべてを託したいと思わせる魅力がある」 | 高校野球ドットコム

松田 宣浩選手(福岡ソフトバンクホークス)

 3年のシーズンを終えた時点で通算15本塁打を放ち、東都リーグのホームラン記録更新も期待されていた松田選手。最上級生となり、チームの主将も任せられることになったが、まさかの事態が待ち受けていた。部員の不祥事が発覚し、亜細亜大は半年間の対外試合禁止処分を受けたのである。これにより春季リーグを戦うことができなくなった亜細亜大野球部。

 その前年から監督を退き、亜細亜大の総監督になっていた内田氏は、当時、現場とは少し距離を取っていたそうだが、「本当に苦しい期間でしたが、あの時の松田は背中で見せると言うのでしょうか、黙々と自主練習に励んでいました。そんな松田の姿をチームメートは何年間もずっと見てきていましたから、彼が亜細亜大に入ってから積み上げてきた『信頼』が、いつバラバラになってもおかしくないチームをなんとかまとめていたのだと思います。あの時、主将ができたのは松田しかいなかったと思います」

 4年秋のラストシーズンを2部で迎えた松田選手。戦前はブランクの影響を危惧する声もあったが、亜細亜大は開幕から1分けを挟んで破竹の9連勝で優勝を決めると、入れ替え戦も2連勝で中央大を退け、1部昇格を果たした。

「すぐに1部に戻らないと、2部慣れしてしまう可能性もありましたから、このシーズンは一番、大切だと思っていました。リーグ戦は見に行く機会があまりなかったのですが、松田を良いお手本として『とにかくやるんだ』という意識がチーム全体に行き渡っていましたし、戦いぶりが良かったので『何とかなるのではないか』と、感じていました。昇格を決めた時は『また来シーズンから1部で野球ができる。よくやってくれた』と思いましたね」

 亜細亜大の1部昇格を置き土産にプロの門を叩いた松田選手。いまや日本を代表する選手にまで成長したが、内田氏は「松田はプロの世界でもチャンスを与えられているなと感じます。それはひとえに、彼のひたむきさが買われているのでしょう。松田は『あいつに託したい』と、思わせる人間的魅力を持っている選手なんです。彼の長所は何といっても体の強さ。底力があって、足が速くて、地肩が強くて、ケガや病気もない。でも、プロで活躍できた最大の要因は、強い意志をもって真摯に頑張ることができる心を持っていたことです。身体的能力はもちろん大切ですが、やはり心が強くないと素晴らしい選手にはなれません。そういった部分で松田は本当に稀有な選手なのだと思います」

 野球への強い思いを胸に、たいへんな努力を続けてきた松田選手。現在の華々しい活躍は、学生時代からつながっている、その延長線上にあるのだろう。

(取材・構成=大平 明

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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