試合レポート

鹿児島実vs城南

2011.03.30

城南、「エンタメベースボール」で得た収穫と課題

13時36分、試合終了のサイレンが鳴り響く甲子園のスコアボードに描かれたスコアは「城南2対7鹿児島実」であった。
神宮大会でも四国王者の明徳義塾を4対1で危なげなく下した秋の九州王者相手にこの点差で踏ん張れただけでも健闘の域に入る城南
しかも、35,000人の観衆とTV・ラジオでこの試合を見聴きする人々を十二分に楽しませるその「エンターテーメント」なベースボールは、ともすれば簡単に過ぎ去ってしまう1時間59分を実に濃密な時間へと変えてくれたのである。

たとえば5点を先行された6回表の1死1・3塁から奪った追撃の1点は「1点取れれば流れが変わると思って、それにはスクイズがいいかなと思った。
それが空振りになって、キャッチャーが前にはじいて結果的にそうなった」(森恭仁監督)とはいえ、甲子園では極めて珍しいダブルスチールによるもの。
続く1対7とさらに突き放された7回も相手先発・野田昇吾(3年)の暴投で1点を返すと、なお2死満塁と攻め立てて報徳学園戦で3ランを放った4番・竹内勇太(3年)にまで回す粘りを披露する。

竹内はバットから火を吹くようなライナー性のピッチャーゴロに終わったが、今大会7打数4安打の7番・柳川慶太(3年)も「後ろにつなげるためには初球から振ることが大切であることがわかった」と話した積極性の実践は、「1・2・3回はよかったが、回を増す毎にリズムが狂ってきた」野田をリードした黒木兼太朗をも悩ますほど。
2試合でスタメン全9選手が出塁。そのうち8選手が安打を記録した強打は見事の一言である。


また、大会前は大きな懸念材料だった守備もいざ蓋を開けてみれば2試合で2個ずつ。
「基本を忠実にやっている」とネット裏の記者陣からも賛辞を得るなど、高校野球が日本人に愛される最大の理由である「内面的な成長を感じる」(森監督)プレーの数々は、報徳学園戦に続き一杯に埋まった一塁側アルプススタンドのみならず、内野席やネット裏からもたびたび感情が移入された拍手が起こるほどであった。

ただし、その一方でこの鹿児島実業戦は城南の抱える課題も浮き彫りにした。
1つ例をあげれば、0対2で迎えた5回表、2死2塁でバッターは1番・多田康貴(3年)という場面。アウトコースへのスライダー攻めで揺さぶられ「外角が頭にあった」多田は、一転して逆球で内角に入った野田のストレートに反応できず三振。
指揮官いわく「ほとんど甘い球がなかった」中において、この試合に老いて野田が唯一犯した失当を逃したことは、直後の3失点へと坂を転がり落ちるようにつながっていったのである。

そしてやはり「エンタメベースボール」の主役・竹内についても触れなければいけないだろう。
本人は試合後、「思いっきり投げたボールを思いっきり打たれたので、悔しいけれど悔いはない」と胸を張って語ったが、鹿児島実・宮下正一監督が「投手はいいから対策はとっていた」と当初から網を張る中、「コントロールがよくても失投があれだけあっては」と森監督も話すように、2回、5回、7回と全て2死から簡単に連打を浴びては勝利など望むべくもない。
さらにその直後にあっての発言は、もちろん本人に他意はないことは承知しているが、チームの命運を握るエースとしては誤解を招きかねない、やや軽率なものである。


たださえエースで4番を張り、甲子園で本塁打を放ったことで、彼に集まる注目はこれまでとは比較にならないほど高くなるはず。
「覚悟を決めて、そこで何をするか見てみたい」と竹内への期待について語った森監督の顔は、「本当に幸せだった」としみじみと甲子園での思い出を語った顔とは一転、実に厳しいものであったこともここでは付け加えておきたい。

最後にこの日、1勝したことにより、報徳学園戦での記録員・湯浅麻美さん(3年)と交代して、ベンチ入りの機会を与えられた片山智恵さん(3年)の話を紹介しておこう。

「報徳学園戦ではスタンドで応援していましたが、アルプススタンドは人が多すぎて試合は歓声の後に気付く感じなんです。それと比べて甲子園のベンチは広いし、きれいだし、鮮明に試合も見れました。最高の場所でした」。

これから徳島に帰った城南を待ち受けているもの。
それは賞賛や感謝ばかりではなく、ときには羨みや妬みもあることだろう。
また名門校と異なり、自らと身近な存在である彼らが活躍したことで、春の練習試合で城南を撃破した徳島商を始めとする徳島県勢全野球部の「夏・甲子園」への想いもより強くなったはずだ。

その中にあっても彼らは「最高の場所」へ戻る覚悟を持ち続けることができるのか?
それが森監督、城南高校関係者、そして「エンタメベースボール」を堪能した全ての観客が望む「続けて徳島で勝てるチーム=春夏連続出場」を掴み取るかぎとなるはずだ。

 

(文=寺下友徳)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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