2010年08月07日 阪神甲子園球場 

成田(千葉)vs智弁和歌山(和歌山)

2010年夏の大会 第92回全国高校野球選手権大会 1回戦


14奪三振中川(成田)

中川を攻略できなかった理由

 打てない投手ではない――。
これが、智辯和歌山の選手たちの成田・中川諒への見解だった。
ストレートはほとんどが130キロ台中盤。ボールが先行して、カウントを取りにくる球がほぼストレートだったことも大きかった。気をつけるとすれば、シュート気味に食い込んでくる内角の球。この球は力強く、詰まらされるために打っても安打になりにくい。内角を捨て、外角の甘い球をしっかり打ち返すことができるか。これがポイントになりそうだった。

 一方の成田・尾島治信監督は中川の球筋に自信を持っていた。
「130キロ中盤ぐらいだけど、中川の球は手元でキュッとシュートするから打ちにくい。アウトコースはボールゾーンからシュートして入ってくるから、それでストライクが取れる。県大会では、キャッチャーに(入ってくるため)アウトコースぎりぎりには構えるなと言いました。もっと外に構えてもストライクになるから、と」

 初回、智辯和歌山の先頭打者・城山晃典は打席のホームベース寄りに立った。シュートしてくる内角球を消し、外角一本に絞るためだ。だが、城山は2ボール1ストライクからの外角ストレートを空振り。最後は外角スライダーを振らされ、三振に終わった。2番の岩佐戸龍、4番の山本定寛もベース寄りに立つが、岩佐戸は外角ストレートを空振り、山本定は外角スライダーを見逃して三振。

2回の瀬戸佑典、3回の小笠原知弘、上野山奨真、城山と序盤7個の三振はすべて外角球が勝負球だった。しかも、配球自体、ほとんどが外角球。逆球はあったが、千葉大会のような狙って内角ストレートというのは見られなかった。なぜ、内角球をほとんど使わなかったのか。成田の捕手・近藤智椰はこう説明する。
「内角は抜けるのがこわかったんです。外に合ってない感じだったし、踏み込んでこなかったので、外で大丈夫だろうと思いました」

 ただ、外一辺倒の代わりに千葉大会より変化球を増やした。2回には104キロのカーブをカウント球に2球。習志野戦などでは、ほとんど使っていない球種だ。勝負球も、習志野戦はほぼストレートだったが、この日は右打者にはスライダー、左打者にはチェンジアップ。4回に西川遥輝を3球三振に取ったときも、初球、3球目はチェンジアップだった。
智辯和歌山はストレートに張ってたんじゃないですかね。(ストレートの)抜けたボールで空振りも取れましたから」(近藤)
 この配球にハマってしまったのが城山。4打数3三振で、最後の球は全てボールになるスライダー。7回1死一、三塁の絶好機も完全なボール球を迎えに行って2度も空振りした。
「『打ちにいったらアカンぞ』と言ってたんやけどねぇ。あれじゃあ、(打とうと思ったときに)ボールがない。見逃せばフォアボールなのに……」
 甲子園最多の通算59勝を誇る高嶋仁監督も嘆くしかなかった。

 変化球が頭にあるためか、ベース寄りに立ち、狙っている外角ストレートが来てもとらえることができない。内角を見せられたわけではないのに、外角の完全なボール球に手を出す。智辯和歌山打線は完全に歯車が狂った。変化球を2安打していた山本定も、8回の4打席目は「4番にまっすぐで押さず、逃げてしまっていた。まっすぐで勝負したかった」と全球直球勝負で来た中川の前に3球ファールの後、空振り三振。この日の最速は142キロで、普段から150キロのマシンを打っている智辯和歌山打線からすると速くは感じなかったはずだが、最後まで外角ストレートをとらえきれなかった。

「とらえたっと思ったんですけど……。こすった感じです。顔が(残らず、前に)いってしまっていた。(ストレートは)思ったより伸びてくるし、スライダーが頭に入っていた分、とらえられませんでした」(山本定)
 智辯和歌山の放った6安打中、ストレートを打ったのは4本あるが、詰まった打球が3本。クリーンヒットは左打者の中村恒星のセンター前1本だけで、右打者がストレートを完璧にとらえた当たりは1本もなかった。
「ボールは島袋さん(洋奨、興南)の方がいいですし、甘い球もある。でも、甘いのに打てないということは、いいピッチャーなんでしょうねぇ……」(5番・道端俊輔)「打てないボールじゃないです。あと1、2打席あれば打てました」(代打で出た藤井健)

智辯和歌山の選手たちは最後まで首をかしげたが、成田の捕手・近藤は満面の笑みでこう言った。
智辯和歌山はストレートも変化球も、両方打てると思ってたんだと思います。それが、思ったよりボールが来てるから(ストレートも)ファールになった。中川のことをそこまでじゃないだろうと思ってたんじゃないですか」

 先輩である唐川侑己をマネてゆっくり足を上げる中川の投球フォームは動作開始から捕手のミットに到達するまで4秒50~4秒88とゆったりしている。足が上がってからでも2秒60~2秒70。普通の投手の平均が3秒台後半、足を上げてから1秒台後半ということを考えると非常に長い。トルネードの島袋にもいえるが、ゆったりしたフォームからのピュッと来るキレのある球は打つことが難しい。球筋といい、フォームといい、中川は見た目以上に打ちづらい投手なのだ。

 打てない投手ではない――。
中川をそう思った時点で、智辯和歌山打線は負けだったのかもしれない。

(文=田尻 賢誉
(撮影 img08~img35:佐藤 純一)

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