Column

県立菰野高等学校(三重)

2011.11.24

県立銚子商業

 オリックスの若き快腕・西勇輝を輩出するなど、ここ近年力をつけてきた三重県立菰野(こもの)高校。その強さの秘訣は身体づくりにあるという話をある人から聞いた。そのことを、就任して25年になる戸田直光監督に伺ってみると「食事はトレーニング」という言葉が返ってきた。この秋も県大会(2011年 秋季三重県大会)準優勝を果たし、東海大会(2011年 秋季東海地区高校野球大会)に出場。辻 東倫浦嶌 颯太といった未来の卵を多く抱える菰野高がどのようにして、選手を育て、強靭な身体を作っているのか。その深層に迫った。


私学強豪との練習試合で気付いた身体の違い

県立菰野高校野球部 戸田直光監督

“県立菰野高校野球部 戸田直光監督”

 近鉄四日市駅で乗り換え、湯の山温泉行の普通電車に乗って15分ほどの菰野駅に、同校はある。取材は16時からだと聞いていたが、駅を降りてみると、さっそく閑静な住宅街にバット音が響いていた。

「今の時間は演習の時間で、2年生がバッティング練習を出来る日なんです。下級生とは交互になります。明日は1年生が演習になります」。

 戸田監督である。就任して25年、甲子園出場を目指し、突っ走ってきた。身体づくりに取り組んだのも、全て指揮官の想いがあってのものだ。戸田監督は力説する。

「県外に出て、私学の強豪校と練習試合をやると、まざまざと見せつけられるのが身体つきの違いなんです。ウチの学校も練習はやっている方だと思うのですが、その割には、身体が大きくなってこないなっていうのに気付いたんです。甲子園常連校や私学の強豪校に近づくには身体を作るのが先決かなというのを、年々、思い始めたんです」

 練習量に見合った身体の充実、芯の太さ。戸田監督は強靭な身体を目指すことで、公立校でありながらも、強豪校と肩を並べようとしたのである。

 とはいえ、菰野は公立校。一言に身体づくりを目指したとしても費用面など、様々な負担を掛けなければいけない。公立校と言うスタンスの中、それを分からせるためには一筋縄ではいかなかった。本格的に取り組むようになったのは4年前からだが、それ以前は、世間一般の学校と同じように、プロテインや練習の合間に食事を取る程度でしか取り組んではいなかったという。

 変わり始めたのは、監督の次男・一秀が選手として入部してきたときからだ。戸田監督は、自身の息子にだけは自らの財布でお金を掛けて、取り組んだ。

「食事をどうしたらいいとか、色んな人に聞いて回りました。例えば、ライフパックを飲ませると、ビタミンやミネラルが取れるから良いとか。体重を増やすプロテインは、寝る前に飲んだらいいとか。自分の息子にはお金を掛けてやっていたんです。他の部員には、お金のかかることなので、経済的な負担を掛けられない。最低限の練習の合間の軽食取らせているだけでした。実際、普段の食事だけでは栄養の部分はたらないんですよ。その部分を、うちの息子は家に帰ってから食事を取って、ライフパックを飲まして、夜寝る前にプロテインを飲まして、朝起きたら、アミノバイタル飲ましてと、やらせたのです。息子の身体は変わりましたね」


菰野が取り入れた「強化食」とは

県立菰野高校野球部コーチ・戸田一秀

“栄養士の指導を受ける部員たち”

 監督の次男・一秀君は、2年の夏、ベンチ入りメンバーとして甲子園に出場したが、レギュラーの多くは同学年が占めている中、彼はそうではなかった。それが年を経ていくうちに身体つきが変わり、チームメイトを置いていったのだ。

 現在、コーチとしてチームに関わる一秀君は、当時のことをこう回想する。

「自分としては、甲子園には行っただけで、レギュラーじゃなかったから悔しい気持ちがあった。監督は父親だし、信頼できるので、身体を大きくするためにはと、言われたものを摂取していました」

 もちろん、食事やサプリメントの摂取以前に本人の努力があってのことだが、一秀君は最後の夏には4番になるほど成長してたのだ。監督自身も、やればつながるものだと思う一つのきっかけになった。

 チームが取り入れたのは「強化食」というサプリメントを摂取する方法だ。4年前のチームから保護者を呼んで、自身の息子の話を例に、上げながら、説明したのである。

「甲子園を狙うために、身体づくりは非常に大事なことだと思っています。自分の息子にはこうしてやって身体ができました。身体を作るには経済的にも掛かるのですが、この強化食を摂取すると、分けて飲まなくても、一袋でその子に対する栄養補給はされるので、やってくれませんか」

 そう保護者に訴え、希望者のみであるものの、今では部員全員が練習後に摂取しているそうだ。

「強化食」を摂る菰野高校野球部員

“「強化食」を摂る菰野高校野球部員”

 この強化食とは、チームに出入りしている栄養士の指導のもとに、個々人によってモノが異なる。数期間の食事を栄養士のもとへ送り、そのデータを参考にサプリメントの種類が変わるのだ。さらに、チームの栄養士は、強化食だけではなく、体重や体脂肪の検査データを見ながら、選手たちに栄養指導を行ってくれる。

 時には厳しい口調で選手に指導に当たる時もあるが、プロに指名された選手や過去の成功例を出して、本気に取り組むように指導している。

「きちっと指導されたことを守って食事を取っている選手は身体が大きくなっていますし、いい加減にやっている選手は、いつまでたっても、身体は出来てこない」と戸田監督は言う。当然、強化食だけではなく、日頃の食事の量も、チームでは多く食べるように指導されている。「目安としては1日7合くらいですかね。ただ、うちは全寮制ではないので、全員の食事を管理することはできない。ですから、基準となるのは体重であったり、遠征時の食事調査。冬場にはうちの家に呼んで、実習をしたりしていますね」

 副主将の辻東倫は、チームの身体づくりをこう話す。

 「菰野に入学するまでは、食べることには全く関心がなかったですね。最初は遠征に行くたびに吐いたりしていました。普段は朝にカレーを食べて、授業の休み時間ごとにおにぎり食べます。おにぎりは、ほとんどお腹すいていない状態で食べますね。水に流すような感じです。しんどかったですけど、今は、食べるコツを覚えたので慣れました。食事もトレーニングですから」

 聞いていただけでも想像を絶するが、辻の言葉にあるように、チーム内では「食べる」ことは「トレーニング」なのだ。

「お前たちは、監督に走っとけって言われたら、歯を食いしばってでもずっと走ってるよな?食事も同じだよ」と戸田監督はいうそうだ。


この冬、身体を大きくするためのトレーニング

持久力トレーニングの様子

“持久力トレーニングの様子”

 とはいえ、食事や栄養指導、「食」への意識を高めたと言っても、食べるだけでは身体は大きくならない。当然、日頃のトレーニングが重要になる。

 特に、これから迎える冬場は、食事とともにトレーニングが重要視されてくる時期でもある。

「夏には間違いなく体重は減りやすくなる、減ってから冬場に増やしたって、ちょっとしか増えたことにはならない。だから、今の時期こそ、意識を持って取り組む」とのことだ。

 戸田監督はトレーニングにおいても、シーズンまでの計画を綿密に組んでいると言う。

 
10月の中盤から11月中に掛けては持久力をアップを目的としたトレーニング。長い練習や冬場の反復練習に耐えれる力をつけるためだ。インターバルトレーニングや長距離走を多く取り入れる。12月に入ると、敏捷性を意識したトレーニング。素早い動き、身のこなしの練習で、ラダーを押したり、単純に一定方向に走るのではなく、方向を変えながら、身体の使い方を変えながら走るなど、アジリティ―を高める。
ただ、こうした練習に耐えられるのは11月までに持久力をつけてあるからで、戸田監督が言うには「11月中に持久力を鍛えてあるので、アジリティトレーニングは、すごくしんどいと言うほどではなくなる」そうだ。

 1月にはいると、今度は負荷を懸けたトレーニングが主流になって行く。バンディングやメディシンボール、タイヤの押し・引きなど、負荷を大きくして身体を鍛え上げていく。これを2月の中旬くらいまで続けていくのだ。


菰野の身体づくりの秘訣

バーベルを持って片足スクワット

“バーベルを持って片足スクワット”

 さらに、こうしたトレーニングと並行して、ウェイト器具を使った筋力強化も行っている。この練習が「うちの必殺技」と戸田監督は、その一端を公開してくれた。

「ウェイトといっても、ベンチプレスではないんです。片足スクワットと言って、バーベル持って、片足でスクワットするんです。そうすると、ハムストリングが鍛えられる。実際ね、ハムストリングを鍛えるトレーニングってないんですよ。バウディングにしても、四頭筋じゃないですか。片足スクワットをすると、強さが生まれる。走るにしても、足の強さがいるし、投げるにしても同じ。ピッチングでも足が弱かったらふらつきますからね、僕は結構、重要視しています。」

「11月にフォーム練習から始めて、12月くらいから10回できる重さを5セットやって、1月から2月の後半までは、6回上がるかどうかの重さを5セットです。時間はかかりますけど、足を太くさせる、力をつけるためにはいい。昨年、中日に入団した関は、片足で240キロを上げる。体重の3倍は上げて欲しいんですが、きちっとやっていくと近づいていきます。ウェイトのメニューはこの他に、ハイクリーンやサイドベント、自転車こぎや綱渡りも入っています」

 ここで忘れてはいけないのは、ウェイトばかりになり、野球の動きにつなげないことだ。菰野では、ウェイトトレーニングの1種目が終わるたび、素振りやシャドウ取り入れている。

「ウェイトトレーニングは直線的、でも、野球はひねりの動きなので、少しでも神経を野球の動作に向けようと言うことで、1種目が終わったら、素振りを10回、シャドウを10回、ランニングなどをすると野球の動作につながる」と戸田監督は言う。

 食事や栄養分摂取など、「食」への意識を高めてトレーニングで身体を大きくしていく。菰野の身体づくりの秘訣は、そこにある。

「トレーニングと栄養のバランスが大事だと思います。実際は栄養と練習と、さらに睡眠という形だと思いますが、高校野球は睡眠という部分では、練習が放課後になるので、そこは犠牲にしなきゃいけないものなのかなと。ただ、長期休業中は、練習が早く終わるので、早く寝なさいとはいってあります。そうすると、成長ホルモンの分泌がよくなるから、身体が大きくなっていきますからね。

練習して食事を取らないと体重は減ってきます。逆にきちっと取れていれば、増えていくはずです。この子らが食べているのを見ていないので、客観的に分かる資料としては体重を測って、落ちてきている子に関しては指導は入れて、意識を高めていくと言うのがうちではやっています」

 全ては冬を越えて、春の成長、さらに言えば、夏のために。「食」の意識を高めて、菰野ナインは身体を作り上げていくのだ。

 辻が、最後、こう締めてくれた。

「去年の冬を経験して、身体が大きくなって球速や飛距離が伸びたのを実感しています。だから、トレーニングにしても、食事にしても、嫌々やると自分の身にもならないので、しっかりと冬を乗り越えたい。身長マイナス100が目標です。自分は180センチなので、80キロ(現在は76)。秋は準優勝だったので、負けたくない。春・夏の県大会を優勝して甲子園に行きたいです」。

(文・写真=氏原英明

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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