2010年07月27日 新大分球場

大分工業vs明豊

2010年夏の大会 第92回大分大会 決勝
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山野恭介(明豊)

揺れた豪腕

 昨夏の春夏甲子園を経験し、ベスト8に輝いた夏の大舞台で146キロを計測した山野 恭介。「来年は山野の年になる」と囁かれ大きな期待を集めた九州の豪腕も、エースナンバーを背負ってからの1年間に、数々の苦悩を経験した。もがき苦しみながら辿り着いた最終学年の大分大会決勝。山野本人が待ち望んだ大一番は「心の揺れ」を抑えることができない状態でのマウンドとなった。

 新チームの発足と同時に“絶対的エース”として君臨した山野だったが、センバツ出場権の懸かった九州大会の準々決勝・自由ケ丘戦では、自らのけん制悪送球で決勝点を許し、3季連続の甲子園出場を逃している。秋の九州予選、秋の九州大会をひとりで投げ抜いたことで疲労が蓄積、故障に繋がり冬期間は約2ヵ月にわたるノースロー調整を余儀なくされた。
 春の解禁に向けてようやく投球練習を再開すると、持ち前のパワースタイルに加え、スローカーブを用いた緩急を早々に修得。この間に大分工・田中 太一、中津商・奥村 政稔らが台頭し雑誌などに取り上げられるようになったが、球速、実績の点で彼らの上を行く山野に“投球術”が備わったことで、さらに別次元に突入したかのような印象を振りまいていたのが春先のことである。

 春の九州大会予選・準決勝ではライバルの大分工・田中と投げ合い、延長の末に下している。山野率いる明豊は秋に続く県制覇で九州大会に進出し、準優勝に輝いた。しかし、予選からほぼひとりで投げ抜いたことで肩とヒジの疲労はピークに。この時、北九州市民球場のスピードガン表示によると、ストレートは常時120キロ台後半から130キロ台前半で推移し、最速が140キロを超えることは一度としてなかった。九州大会は緩急と要所を抑える投球をテーマに掲げ、力をセーブしながらなんとか大会を切り抜けていくのである。

 九州大会が終わると、山野は本腰を入れて肩の治療に専念するようになる。通院を重ねながら、ただ7月のみに照準を合わせていく。5月に行なわれた夏の前哨戦、県選手権は完全に回避した。その後、正捕手・牛草淳一朗の鎖骨骨折もあった。ベストの状態から程遠いエースの心は、さらに動揺していった。

 大分大会が始まった。揺れる山野は気力を振り絞り力投を重ねていく。前評判を覆す好投だったといっていいだろう。5試合で40イニングを投げ8失点。被安打は27あったが、3試合で3以下に抑えている。奪三振は投球回を上回る42で、何より素晴らしかったのが与四死球8という数字だった。その右腕は力強く振れ、直球はコンスタントに140キロを超えていく。スライダー、カーブ、フォークにキレが戻った上に、決め所では絶妙なポイントに曲がり、落ちていく。
準決勝後、田中との対決を想定し「三振を奪う力は向こうが上かもしれませんが、要所を抑える力では決して負けてはいません。自分は甲子園に行って、全国ナンバーワンの右投手は自分だということを証明したいんです」と語っていた山野。「力の差を見せつけるんだ」とも言った。

大分大会決勝。3-2で明豊を下した大分工が、17年ぶり3度目の聖地到達を決める。
 勝敗を分けたポイントについて、両チーム監督、両チームの選手ほとんどが「執念の差」、「気持ちの差」と答えている。山野はこの試合で、今大会初めての先制点を奪われている。初めてリードを許しているのだ。このことでそれまで張り詰めていた山野の気持ちが、ほんのわずかに揺らいだのではないか。その後、準決勝までに見せていたマウンド上での絶叫は鳴りを潜め、打者、走者としての気迫も薄れたように見えた。
「大会を通じて、気持ちが乗り切れなかったのは確かです」
 と山野は正直に明かす。怪我からの復帰、再発の不安など、試合に集中できない要素は多分にあったのは間違いない。“当代最強”といわれた昨年のチームで春夏に全国ベスト8を経験したことも、心を揺らしたのかもしれない。だからといって、山野が勝負していなかったかというと決してそうではない。口を開けば「自分が甲子園に連れて行くんだ。絶対に昨年の成績を上回って見せる」と言い続けてきた男である。敗戦直後には、スタンドで応援してくれた母親に「約束を守れずにゴメン」と手を合わせて謝罪した男である。

秋春の2度の県優勝。九州大会準優勝。エースとして文句なしの実績を残してきた山野 恭介の夏が終わった。これにエースナンバーを背負っての甲子園出場がないのが不思議といえば不思議だが、今夏大分大会の山野は、現時点で望みうる最高の復活劇を演じたようにも思う。
「田中はやっぱり凄い投手でした。甲子園に行っても頑張ってほしい。自分も応援しています」
“揺らぎ” の本当の理由とは、いったい何だったのだろう。これは時間の経過とともに、解き明かしてみたいこの夏最大のミステリーである。

(文=加来 慶祐




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