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グラブの軽さと操作性が守備を変える 投手編/『投げる』

2011.12.26

栗山英樹

栗山英樹流・グラブ選びのポイントをレポート
【写真提供:スポーツニッポン新聞社】

【栗山英樹の野球用具論】
今の野球に求められる上達するグラブ選びの視点とは?

 野球に限ったことではないが、上達するためには、何においてもまずは練習が必要だ。しかしそれと同等に、あるいは、成長著しい中・高校生や若手選手なら同等以上に、用具を選ぶにあたっても重要なポイントがあるはずだ。

 今回の企画は、日ごろ、僕が野球教室などで指導するにあたって、いつも心のどこかに抱いていた素朴な疑問を解決するために始まった。

 今回取り上げた野球用具は、グラブである。

 取材に応じてくれた「セガサミー野球部」はチーム結成後まもなく、伝統チームがひしめき、熾烈な競争環境にある東京都予選を勝ち抜いて、都市対抗野球出場を果たした。
 現在ではすでに常連の風格すらあるこのチームは、社会人野球に新しい風を巻き起こしている注目チームといえる。

 彼らのプレーは、すでにプロの技術と比べても大きな遜色はない。

 しかし、そのアマチュアイズムに裏打ちされた野球へのまっすぐな姿勢は、プロとはひと味異なる「真摯さ」を持っている。例えばそれは日ごろの練習に対する姿勢であったり、用具を選ぶ姿勢でもあったりもする。

 そんな彼らの心の奥深くに埋もれる「本音」を聞くこと。それによって、上達するためのグラブ選び、今の時代の野球に求められるグラブ選びの真実が見えてくるに違いないと思う。


腕を投げ出す距離や高さが、球の走りや重さを決める鍵となる

ピッチャーが「壁」を作るには、
グラブは軽い方が、
操作しやすく疲れない。

 例えば右投手は、投げる時には左手で壁を作る。左手を大きく前方へ投げ出して壁を作ることで、胸を張って上体をしならせ、その反動力を使って球を投げる腕を振りぬく。グラブが重いと、壁を作る左腕が上がりきらなかったり、そのまま前に流れたりしてしまう。腕を投げ出す距離や高さが、球の走りや重さを決める鍵となる。木村選手はその重要さを「投げる時に意識するのは、利き腕の右腕より左腕の方」と語ってくれた。

 先発ピッチャーなら、ウォーミングアップの投げ込みに始まり、試合では100球あまりの球を投げる計算となる。疲労を最小限に抑えるには、軽くて操作しやすいグラブが有利になることは想像に難くないはずだ。

「握りを隠す」と「機敏に動く」。
そのバランスで、
ピッチャーのグラブは決まる。

 投手は、ボールの握りを見られると、その時点でバッターとの駆け引きに大きなハンデを背負ってしまう。それは、天沼選手の「チェンジアップやフォークなどの”はさむ”球種のときには、より気になる」という言葉にも象徴されている。決め球としたい球種であればあるほど、握りがわかれば決め球にはならない。練習を積んでコントロールや球威の精度が上がるにつれ、握りを見られたくない、それがピッチャーの心理だ。

 この、握りをいかに「隠す」ことができるか?もグラブ選びには大切な視点となる。

 たしかに、「隠す」ことだけ考えれば、グラブは小さいよりも大きい方が有利に働きやすい。が、ことはそんなに単純でもない。バンド処理のフィールディングやピッチャー返しを処理する場面では、ピッチャーには瞬発力も求められている。その時、大きい≒重いグラブだと、不利に働くこともある。「握りを隠す」と「機敏に動く」、このふたつの微妙なバランスの中でピッチャーのグラブは決まっていく。

 こと「隠す」ことに関して言えば、ポケットの形状、指と指の間のすき間をふさぐ絞りなども関係してくると思われる。実際に、上津原選手のグラブを見せてもらったが、彼のグラブは指と指の間がかなり絞られており、すき間はほとんど見られなかった。こうした自分なり(の)工夫を施しながら、同時に、フィールディングなどにも対応できる操作性も見逃さないことが大切になってくるのだと思う。

■プロフィール

【写真提供:スポーツニッポン新聞社】

栗山英樹 Hideki Kuriyama

元プロ野球選手(ヤクルトスワローズ)。‘84年、東京学芸大学よりドラフト外でプロ入り。‘80年代後半、セ・リーグを代表する外野手・スイッチヒッターとして活躍。‘89年、ゴールデングラブ賞獲得。‘90年引退。現在は、白鷗大学経営学部教授として教壇に立つかたわら、テレビ朝日、TBSラジオ、NACK5 を中心にメディアへ登場。2009年度より、『熱闘甲子園』(朝日放送・テレビ朝日共同制作)のナビゲーターも務める。

【写真提供:スポーツニッポン新聞社】

セガサミー野球部

2006年に日本野球連盟に加盟、東京都に本拠地を置く社会人野球チーム。2006年都市対抗野球東京2次予選では第1代表決定戦に駒を進め、「加盟1年目の本大会出場か」と期待と注目を集めたが、惜しくも本大会出場を逃す。その雪辱を果たすべく、2007年は東京第3代表決定戦で明治安田生命をくだして本大会初出場を決めた。その後3年連続で東京第3代表として都市対抗本戦に出場している。

【写真左から】

天沼 秀樹選手(あまぬま・ひでき)
‘06年、‘07年関東リーグ優秀選手。前橋商業高校-関東学園大学-いすゞ自動車-ミキハウス。34歳。

上津原 詳選手 (うえつはら・しょう)
‘08年東京都ベストナイン(投手)、‘09年東京都ベストナイン(敢闘賞)、‘10年東京都春季大会敢闘賞。東海大相模高校- 青山学院大学。27歳。

木村 宣志選手 (きむら・たかし)
‘07年千葉市長杯MVP。春日丘高校(東海大会優勝/3年・春)-東北福祉大。28歳。

【社会人野球ドットコム編集部】(@JABBallcom

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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