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修徳を立て直し、二度甲子園に導いた小田川雅彦氏が語った「選手と向き合う大切さ」

2017.12.11

修徳を立て直し、二度甲子園に導いた小田川雅彦氏が語った「選手と向き合う大切さ」 | 高校野球ドットコム

 12月10日、都立青山高校にて第33回高校野球研究会が開催され、修徳高校軟式野球部監督の小田川雅彦氏が招かれた。小田川氏は、修徳の中学軟式、高校軟式、そして高校硬式ですべて全国大会に導いた名指導者だ。教え子には中学軟式で指導したタレントの武井壮氏や、広島東洋カープの一軍守備コーチの玉木朋孝氏、高校硬式で指導した齊藤勝投手(元北海道日本ハム)がいる。今回は、「過改自新(過ちを改め、自ら新たにす)」というテーマの下、監督時代のエピソード、選手たちの指導で気付いた大切なことを語った。

 小田川氏は、自身の失敗談を包み隠さず語った。今では重要視されている三塁コーチャー。しかしまず最初に監督に就任した修徳の中学軟式時代、三塁コーチャーを下級生に任せ、大事な試合でタッチアップができず敗れてしまったこと。また健康診断で虫歯が11本もあると診断された投手に対ししっかりと治療をさせず、結果、その投手は翌春の練習中に虫歯が原因で足を骨折してしまい、医者から「野球ばかりだけではなく選手の健康状態もしっかり見てください」と注意された。「その投手は家庭環境がちょうどよくない時期で店屋物が中心で、カルシウムが足りてなかったんです。今でも後悔しています」とこの件から選手の健康管理に気を使うようになった。また、主将選びについても「相応しい選手がいる時こそ慎重に行うべきだ」と語り、主将が孤立してしまう危険性について力説。小田川氏は主将選びは投票制で決め、選手自身に決めてもらう重要性を説いた。

 講演の中盤からは、修徳高校野球部の監督時代について語った。小田川氏は中学野球の監督としての実績を買われ、2001年11月に修徳高校硬式野球部の監督に就任。就任当初は落書きだらけだった合宿所を見て、落書きを消すことから始まった。小田川氏が高校の硬式野球部に就任したことを知った知り合いの中学の指導者から良い選手を送り出していただけるようになった。その1人がセガサミーを経て、北海道日本ハムでプレーした斎藤勝投手だった。斎藤投手について小田川氏は、「彼は大田区でナンバーワンともいえるピッチャーでしたが、やんちゃ坊主でした。指導に手を焼くような子でしょう。私はそういう選手を育てるために指導者をやっているようなものでしたので、キャッチボールしたら、凄いボールを投げているんです。だから、言ったんです。『君はかなり素質があるよ!』といったら、目を輝かせて、『はい!』と返事をしてくれたんです。今までそういわれた経験がなかったでしょうね。それで修徳への入学が決まりました」
そして斎藤がエースとなった2004年の夏に甲子園出場してベスト8。続く秋でも斎藤が負傷で投げられない中、秋も都大会優勝を決め、二季連続甲子園出場を決めた。

 しかし2005年9月に事件が起こる。選手による集団万引きが発覚し、秋季大会の辞退を決定。そして日本高野連から1年間の対外試合禁止処分が修徳高校に下った。その後、小田川氏は選手たちとミーティングを重ね、ゴミ拾いや慈善活動を続けていくことを決意。慈善活動を続けていくうちに選手たちの心境に変化が。身体が不自由な方を助けた行動が日本高野連の耳に届き、その関係者が直接練習を見学。日本高野連から反省の様子が認められて「処分三か月短縮」となり、夏の東東京大会への出場が認められた。

 この期間中、小田川氏は、本来、不祥事を起こすような子たちでは無かったことに気づいたという。

「選手の野球ノートを読んだり、反省したりする様子を見ると、このような不祥事が起きてしまったのは、野球でワクワクドキドキ感を与えられなかった私の責任。だから万引きに走ったと思います」と語った。またこの時の3年生34名は1人も辞めず部に残った。この中から20人を選ぶのは監督にとってつらい作業だったが、選手から「僕たちのことは構わないので、しっかりと20人を選んでくださいと言われたのはうれしかったですね。そのあと、20人を発表した後、ベンチに外れた選手たちがベンチ入りの選手に対し、『俺たちの代表だ』といって、拍手をして快く送り出してくれたんですよね。本当に嬉しい出来事でした」

 小田川氏は2006年夏まで監督を務めた後、修徳の高校軟式を指導し、全国大会に導いたが、そこで感じたのは野球のエネルギーの大きさだ。

「野球部を指導するだけではなく、大会の運営にも携わってもらっているのですが、軟式は聾学校の生徒も参加しています。体のハンディがありながらも全力でプレーをしていますし、試合が終わった後、全身で悔しさを表現しているんです。そして定時制に通う選手は金髪をした子もいるんですけど、それでも全力でプレーし、野球が終わった後はその足でバイトに向かっています。いろいろな境遇を持った子たちを本気にさせる野球のパワーは凄いと思っていますし、また彼らを見て私は大きな勉強をさせてもらっています」

 小田川氏が指導者として成長することができたのは、常に選手を真摯に向き合ってきたからこそ。小田川氏の話は、指導者として、人として大きく成長できるヒントが満ちていた。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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