8年ぶりに日本球界に復帰した黒田 博樹選手 男気溢れる投球で勝利へのこだわりを
8年ぶりに日本球界に復帰した黒田 博樹選手 男気溢れる投球で勝利へのこだわりを
今シーズン、8年ぶりに日本球界に復帰した黒田 博樹選手(関連記事)。米大リーグでは 2010年から 5年連続2ケタ勝利を記録するなど、メジャー7年で通算79勝を挙げ、アメリカでも大きな信頼を築いたが、昨年末にはメジャー複数球団からの巨額オファーを断り、古巣広島への復帰を決断した。
スポーツのみならず、社会ニュースとして大きく取り上げられた黒田投手だが、この時よく目にしたのが、「男気」という言葉。カープが7年間空けておいた背番号「15」を再び背負い、プロとしての気持ち、勝つことへのこだわりを見せ続けた黒田投手の2015年を振り返った。
■広島を愛し、広島に愛された黒田 博樹
2014年末、「黒田 博樹8年ぶりの日本球界復帰」のニュースが一斉に駆け巡った。総額21億とも言われる巨額オファーを断っての古巣カープへの復帰に、メディアは「男気」と報じた。会見で復帰の決め手を聞かれた黒田選手は「最初にFA権を取得した時に、ファンの人たちに心を動かしてもらったので、今度は自分がファンの人たちの気持ちを動かせればという気持ちが一番大きかったです」と答えた。
それは2006年シーズン最終戦のことだった。FA権を獲得し、「これを機に他球団の評価も聞いてみたい」と語っていた黒田投手の残留を願うカープファンが、広島市民球場のライトスタンドに横10m×縦7mもの巨大フラッグにメッセージを掲げたのだ。そこにはこう書かれてあった。『我々は共に闘って来た。今までもこれからも… 未来へ輝くその日まで 君が涙を流すなら 君の涙になってやる Carpのエース 黒田 博樹』。
リーグ5位が決まっていたシーズン最終戦、黒田は9回にリリーフとして登板した。2万人以上のスタンドのファンは赤いカードを掲げ、黒田の名前を叫び続けた。黒田投手はそのファンの声を聞き、掲げられたメッセージに心を動かされたのだった。
大リーグからカープに復帰した黒田選手が語ったのは、その8年前の出来事だった。広島ファンに愛され、広島ファンを愛し、そして広島の地を愛した黒田 博樹。2014年シーズンを終え、まだ広島東洋カープ復帰を決める前の10月下旬には、土砂災害で多大な被害のあった広島市北部をプライベートで訪問。黙々と土砂を運ぶ人々を勇気づけたという。
■勝利への執念を背中で見せる黒田の凄み
黒田 博樹(広島東洋カープ)
8年ぶりにカープ復帰を果たした今シーズン。開幕前からの多くの期待に応える投球を見せる黒田。メジャーに渡る前は150キロを超える速球で圧倒していたが、今では140キロ後半の速球でも、微妙にボールを動かしたり、また内角のボールゾーンからストライクゾーンに入ってくる変化球のことを指すフロントドアを使い、熟練した投球術でしっかりとローテーションを守り抜き、11勝8敗、防御率2.55の好成績を残した。
そしてその数字以上に、プロとして戦う姿勢をチームメイトに見せ続けた。例えば、4月25日の阪神戦。送りバントを試みる黒田に対し、タイガースのエース藤浪 晋太郎投手は胸元へ2球連続ストレートを投じた。大きくのけ反る格好となった黒田は激怒し、マウンドへ詰め寄った。両軍ベンチから選手が飛び出し、あわや乱闘かというほどの騒然とした雰囲気に包まれたが、試合後、黒田選手は「あそこで僕がヘラヘラしているようでは、チームにも影響を与えてしまう」と語っている。
そしてこの怒りは、藤浪投手へのエールでもあった。一生懸命戦う中で起こったことであり、自分自身も打者の頭に当ててしまった経験があることを踏まえ、「謝ってもらおうとは思っていない。次に対戦すれば、思い切り腕を振って投げてくればいいし、それを乗り越えないと強くなれない」と会見で語った。1人のプロ野球選手として真剣勝負を貫く大事さを説いた。
シーズン終盤、クライマックスシリーズ進出がかかる時期になると、中4日での登板も「チームのためなら喜んで」と積極的な姿勢をとり続けた。40歳となり、右肩や右足首に不安を抱えながらも、勝利へこだわり、ファンに喜んでもらう結果を出し続けようとする意欲はチームを引っ張った。疲れがピークに達するリーグ終盤になっても弱音を上げず投げ続ける姿勢は高校時代、自主的に走り続ける姿勢から培ったものだ。
10月4日の阪神戦は、負ければCS進出の可能性が絶たれる大一番。8安打を許しながらも要所を締め、126球の熱投でチームを勝利に導いた。この試合、黒田選手はバッターとしても勝利への気迫を見せた。懸命に食らいつきカットを重ね、藤浪投手に投じさせた球数は13球にも及んだ。この黒田が見せた勝利への執念が野手陣を鼓舞。その後チームが得点を重ねる起点になったのだ。
今シーズン11勝を挙げた黒田選手は、NPBで114勝、MLBで79勝と日米通算193勝となった。200勝の大記録まであと7勝と迫った右腕だが、来年の去就についてはまだ決まっていない。黒田は日本球界復帰に際して、こうも語っている。「いつ最後の1球、最後の登板になってもいいという気持ちで今まで野球をやってきた。その1球のためにどれだけ気持ちをこめて投げられるかを考えた時、カープのユニフォームを着て投げた方が、最後の1球になったとしても後悔は少ないんじゃないかと判断しました」
来シーズンも黒田投手の雄姿が見たいと一ファンとして思うが、まずは今年黒田 博樹が日本球界に残してくれたものを噛みしめていたいと思う。
■黒田 博樹選手 プロフィール
1975年2月10日生まれ 大阪府出身
身長185cm、体重86kg 右投右打 投手
上宮高校から専修大学に進み、1996年ドラフト2位で広島東洋カープに入団。入団1年目、対読売ジャイアンツ戦では初登板・初先発・初勝利・初完投を達成。
2005年には15勝でセ・リーグ最多勝、2006年には1.85で最優秀防御率を獲得するなどエースとして活躍。2008年から米大リーグのロサンゼルス・ドジャース、2012年からニューヨーク・ヤンキースでプレー。
2010年から5年連続2ケタ勝利を記録し、メジャーを代表する先発投手に。今シーズンから古巣広島東洋カープに復帰。日米通算193勝176敗1S。
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【高校野球ドットコム編集部】
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