「九州のゴジラ」暴れることなく、非情にも戦力外通告
松井 義弥(折尾愛真出身)
「雄たけび」をあげることはできなかった。高校通算40アーチを誇り、福岡・折尾愛真の中心打者として甲子園にも出場した松井 義弥内野手が、巨人から戦力外通告を受けた。2018年ドラフト5位指名を受けてプロ3年目。同じ「松井」という名前から「九州のゴジラ」と呼ばれたスラッガーは、悲しい現実を突きつけられた。
ケガにも見舞われた。191センチ、98キロの体格を生かすことができず、1軍の打席もない。非情な秋の知らせに、あの夏のことを思い出した。
2018年夏は、高校野球選手権100回大会記念で、福岡県からは通常1校出場が、2校に増えた。北部と南部に分かれ、それぞれ1校ずつが出場することになった。どの強豪が出場を決めるかと思いきや、北部は折尾愛真、南部は沖学園と、ともに甲子園初出場というフレッシュな夏になった。折尾愛真は3番サードだった「九州のゴジラ」松井を中心に猛打をふるい北部を制したが、個人的には準決勝の試合がいまだに忘れられない。
松井は3番として2安打2打点。一発こそでなかったが、チームの勝利に貢献した。「忘れられない」のは、そんなことではない。ショートのレギュラーだった2年生の斉藤 隼人が、なんとユニフォームを忘れるという「事件」があった。発覚したのは試合直前。背番号をつけたユニフォームを寮に取りに帰っても試合が始まる。このままでは登録できず試合に出られず、「2番ショート」抜きで戦わないといけない。そこで奥野監督が考えついた「作戦」が背番号「9」を反対につけるというアイデアだった。非情にも斉藤のために背番号9をつけたライトが代わりに登録外となったが、斉藤が汚名挽回と2盗塁3得点と2番の役割を果たした。松井のバットで得点をしたのが斉藤だった。そうやって甲子園をつかんだナインだった。
折尾愛真は背番号4のエースがいたり、松井の背番号はサードながら、代々主将がをつけることになっている「10」を背負うなど、ユニークなチームでもあった。松井は甲子園で一発を打つことはできなかったが、スイングスピードと将来性は十分感じさせる左打者だった。巨人で背負った番号は「65」。あの松井秀喜の「55」に、高校3年の夏につけた「10」を足した数字でもあった。夢を感じさせてくれた。
ドラフトで指名され、プロ野球選手という夢はかなえられたが、巨人で膨らませることはできなかった。笑顔だったドラフトから、まだ3年。早すぎるとしかいいようがない。