Interview

中央大学 島袋 洋奨 選手(興南高出身)

2013.02.23

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第133回 中央大学 島袋 洋奨 選手(興南高出身)2013年03月03日

 3年前、興南高校のエースとして選抜大会に出場。5試合46イニングを投げて49個の三振を奪い、防御率1.17。抜群の成績で頂点に立った中央大・島袋洋奨投手が、その軌跡を回想する。

選抜優勝前の苦しみと、気付き

 甲子園で優勝する――。
 新チームが船出したときに掲げた道標は、そんな大それたものではなかった。

「自分たちの1つ上の代の時に、春も夏も甲子園に出られたんですが、ともに初戦敗退。ですから、選抜の目標は『1勝する』ということしか考えていませんでした。表向きは『優勝が目標』とは言っていましたけど、みんなが思っていたことは、1回戦をしっかり勝つということだけでした」

▲中央大学 島袋洋奨 選手

 1勝もできなかったとはいえ、島袋は前年の選抜大会では富山商業から19奪三振(延長10回)を奪う快投を披露し、夏も終盤に捕まったものの今宮健太(現・福岡ソフトバンクホークス)を擁する強力打線の明豊を相手に好投。小さな体ながらトルネード投法から放たれる快速球を武器に勝負する左腕は、見る者に鮮烈な印象を与えると同時に、次への期待も膨らませて聖地を去っていた。
 選抜大会前の下馬評でも島袋以外にも前年夏の甲子園メンバーが多く残り、上位進出が予想されていた。それだけに島袋が言う「1勝」という目標は過小なものに聞こえた。だが、その言葉に嘘がないことは島袋の記憶が証明している。もっとも印象深く覚えている試合は、新チーム発足以降、無敗で勝ち進んでいた大垣日大を相手に10対0で完勝した準決勝でもなく、延長12回の激闘の末に頂点に立った日大三との決勝戦でもない。

初戦関西戦です。やっとみんなで掴んだ1勝でしたから。被安打は10ですし、長打も打たれました。でも、スリーベースになりそうなヒットをサードで刺してくれたりバックが助けてくれた。みんなでカバーし合って勝った試合でした。それで一気に波に乗れたというところはありましたね」

 天気にも恵まれた。雨により2日続けて順延となったのだ。
「九州大会でも雨で流れることが多かったので、やりづらさはありませんでした。それに体調も少し良くなかったですし、崩れていたピッチングフォームもギリギリ間に合ったという感じでしたから、むしろ延びてくれて助かりました」

 実は2ヵ月前はどん底を彷徨っていた。ボールを投げることすら辛かった。
「1月頃からフォームがバラバラになってしまって。体重移動も上手くできないですし、フォームがまとまらない。本当に分からなくなってしまって、投げるのが嫌になって、一時期ピッチングをするのをやめました。悩みましたね。考えてやってもできなくて、ストレスが溜まっていく。もう投げやりになっていました。あんなふうになったのは、野球をやってきて初めてのことでした。他の練習があるのに自分に付き合ってくれたキャッチャーにも悪いことをしてしまいました。1ヵ月くらいずっと駄目でした」

 穏やかに話す表情からは想像もできない苦難に直面していた。我喜屋優監督は普段、技術的な指導を選手に積極的にするタイプではなく、選手が悩んでいて、しばらく前に進めていないときに助言を与えてくれるのだという。島袋にとっては、まさにこの時がそうだった。
「我喜屋監督からアドバイスしていただいたのは初めてだったのですが、いきなりゴルフの話をされたんです。『ゴルフって分かるだろ。ゴルフは上体が動いてから下半身が連れて動いていく。おまえも視点を変えて上体から動かしてみたらどうだ』と言われました。自分は下半身の動きばかりを考えていたんですけど、それが良くなかったんでしょうね。我喜屋監督はそれが分かっていたんだと思います。それで少し上体を意識しながらやってみたら、徐々に良い頃のフォームを取り戻すことができたんです」

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[page_break:甲子園で勝つための練習]

甲子園で勝つための練習

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 待望の甲子園初勝利を挙げても、おごることなく足元を見つめていた。関西に続き、智辯和歌山帝京大垣日大。小さい頃から見ていた全国でも名の通った強豪校と戦える幸せを感じながら戦うだけだった。
「どこもすごい高校ばかりですから、負けたとしても胸を張って沖縄に帰ればいい。そんな開き直りのような気持ちでした。優勝を意識したのは準決勝で大垣日大に勝ってからでした」

 決勝戦当日。球場入りする前に初めて日大三の選手を間近で見た。体の大きさに驚かされた。それでも相手は同じ高校生だと我に返った。そして、ある自負心が興南ナインを支えた。

「練習量に関しては自分たちもかなりやってきた方だと思っていたので、自信を持ってプレーすることを確認しました」

 我喜屋監督は新チームが立ち上がったとき、最初のミーティングで、「今までは全国に行くための練習だったが、これからは全国の頂点を目指す練習をする」と訓示している。

 <甲子園に出場するための練習をしていては甲子園で勝つことはできない>

 甲子園出場経験を持つ監督から度々、聞くことができる勝利への”処方箋”の一つだ。
「いろいろなメニューが組み込まれて練習はかなりきつくなりました。興南のウォーミングアップは、他の高校と違ってグラウンド全体を使ったサーキットトレーニングなんです。そのメニューが30種類くらいまで増えました。ホームからライト、ライトからセンター、センターからレフト、レフトからホームのそれぞれの区間ごとに1種目を行う。グラウンド1周で4種目ですから7周くらいするわけです。それまでと比べて倍くらいになりました。それがアップで、終わったら縦に並んで、全員でダッシュをしたり、ボールを使っての強化トレーニングをしたり。午前中はアップだけということが多かったですね。午前中はとにかく強化トレーニングという感じで、1年生の中にはついてこれない選手もいました。」

▲興南高校時代の島袋投手

「冬のトレーニングでは野手の振り込みも多くなりました。1日1000スイングが目標でバットは相当、振っていました。あと、両端をフタでふさげる鉄のパイプがあって、空洞になっているところに砂をつめる。それで手首の返しの練習をトレーニングを兼ねてやっていました。重さは2.5㎏くらいで、毎日やっていましたね。前の年もあったんですけど本格的にメニューに組み込まれたのは自分たちの代になってからでした」

 この鉄パイプが相手守備陣を切り裂くように抜けていった興南打線の速い打球を生んだ一因である。また、沖縄県大会は順調に勝ち進んで優勝したものの、九州大会の準決勝宮崎工業に2対3で惜敗したことも今思えばプラスに転換できたという。

「勝てない試合ではなかったと思います。先発した砂川(大樹)は悪くなかったんですが、野手がエラーを連発して逆転を許し、そのままズルズル行ってしまって、結局1点差負けでした。優勝を目指していましたし、逆のブロックは嘉手納が勝ち上がっていて、県勢同士で決勝をやろうなという話もしていたので悔しかったです。でも、それで甲子園では二の舞にならないようにと守備練習に力を入れるようになりました」

 それが選抜での好守という形で実を結ぶのである。決勝戦でも好プレーで島袋を助けるシーンを見ることができた。
「でも決勝戦の雰囲気は特別なものがありましたね。それで慌ててしまったというか。2回に二死満塁でファーストへのけん制を悪送球して先制となる2点を与えてしまいました。それに1試合で2本のホームランを打たれたのは初めてで、しかもどちらもバックスクリーンだったので全国大会の決勝戦ともなるとレベルが高いなと痛感しました。打たれたときは『あぁ、すげぇ~』って感じでした。でも、準々決勝までは調子の出ない選手もいたんですが、大垣日大戦でみんなに当たりが出て、打撃は全体的に良い状態でしたから序盤に3点をリードされても気落ちすることはありませんでした」

 その言葉通り、6回表にヒットを集めて逆転に成功した興南はその裏に追いつかれるも、最後は延長12回に5点を奪って勝負を決めた。島袋は勝因をこう振り返る。

「やっぱり厳しい練習をしたこともそうですし、キャプテンの我如古(盛次)が人一倍しっかりしていてチームを引っ張ってくれたこと。我喜屋監督が私生活にしろ、野球のときにしろ、いろいろと厳しく指導をしてくれて、直接、結果に繋がっているかは分かりませんけど、精神的な部分ではそれも大きなことだったと思います」

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[page_break:日本一のピッチャーになるには?]

日本一のピッチャーになるには?

「練習が野球につながっていることを意識」

 では、入学時は身長171cm、体重62㎏の小柄な左腕が日本一のピッチャーにまで成長できた理由とは何か。

「アップにしろ、何をやるにしろ、やっている練習が野球にどう繋がっているのか考えながら取り組んできました。それは我喜屋監督の教えです。例えば階段を片足で昇ったりする練習。ピッチャーは投げるときはそういう形になりますよね。試合の中で何度も行う作業です。そのことを理解して、その練習をするのと、しないのとでは全然変わってきます。すべての練習でそういうイメージを持って行っていました。あとは自分の感覚を大事にするようにしていました。我喜屋監督はそういうことはなかったんですけど、他の高校に行った友達が監督やコーチにフォームのこと言われ過ぎて、頭の中がゴチャゴチャになって投げ方が分からなくなってしまうケースを見聞きしていましたので。それだと監督やコーチの理想には近づくかもしれませんが、自分の感覚が失われていってしまうと思うんです」

 高校生だと監督やコーチに言われたことを素直に聞き過ぎてしまう選手も多いだろうが、まず話を聞いて試してみて、それが自分に必要かどうかを考えて、整理することが大切なのである。

 また、目標は大会ごとに立てるようにしていたという。

「最初は1年の夏から試合で投げるというのを目標にしました。入学してみると同級生はすごい選手が多くて、キャッチャーの山川(大輔)とか、外野手の伊禮(伸也)も元々ピッチャーで入ってきたんです。球も速くて、体も大きくて、1年の夏は2人もピッチャーでベンチ入りしていたんです。でも、やっぱり負けるのは嫌いなので、自分も彼らに負けていられないという思いで練習していました。
 新チームになったときは、まず秋の九州大会に出るために県大会で決勝まで行くことを最低限の目標に定めました。本当にひと大会、ひと大会を区切っていかないと、目指すところが遠過ぎても上手くいかない。いきなり全国制覇すると言っても何をしていいかわからない。もちろん甲子園を目指しているんですけど、選抜ならまずは県大会を勝ち抜くことだし、その次に九州大会がある。そこで結果を残せてから、初めて甲子園のことを意識して練習する。そういう感じでした。
 選抜で優勝した後の夏も甲子園連覇は決勝戦まで考えていませんでした。県大会でどうやって甲子園への切符を手にするかから始まって、甲子園でも1試合、1試合、勝つことが目標でした。ですから、体が小さかったこともありますけど、プロどころか大学とか、社会人とかも全然、考えていませんでした。進路について考えるようになったのは3年生になってからでした」

 一つ、一つ、自らが設定した目の前のハードルを越えていく。それを積み重ねた結果が史上6校目となる甲子園春夏連覇だったのである。その姿勢は今も変わらないが、ピッチャーとしての考え方は大学に入って以降、成熟度が増している。

「高校の頃は、先発する試合は勝ち負けが決まるまで自分で投げたいと思っていました。でも、今は攻撃のリズムが作れるようなピッチングをすることを意識しています。良いピッチャーは自然とそうなっていると思いますし、点を取ってもらえれば自分も楽になれる。ランナーをためると野手も疲れると思うので、攻撃に繋げやすいようにアウトカウントを増やしていくことを考えています」

大学3年目のシーズンへの思い

 大学で3年目のシーズンを迎える今年は責任感も芽生えている。
「今年は自分が引っ張っていかないといけないと思っています。1年生のときは相手がすごいバッターだと不必要に見上げてしまっていたんですが、昨春から高校時代と同じように『これだけ練習をしているんだから打たれるわけがない』という意識を持つようにしたところピッチングの内容も良くなってきました。春のリーグ戦から結果にこだわってやっていきたいと思っていますし、自信もあります。結果を見ていてください」

 トルネード左腕、ふたたび優勝の歓喜の輪の中心へ。

(文・鷲崎 文彦

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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