Interview

済美高等学校 安樂 智大 投手

2012.12.25

第122回 済美 安樂 智大 選手2013年01月01日

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 2013年以降の高校野球界を席巻するのは恐らくこの右腕・安樂智大(あんらく・ともひろ)投手だろう。
 松山クラブボーイズから野球王国愛媛の復権と、高卒でのプロ入りを期して上甲正典監督率いる済美高校に入学すると、1年夏にして148キロ、秋には152キロ。スピードガンが日本に定着化した以降、空前の勢いでストレートの最速値を伸ばしている。

 そんな怪物・安樂投手が今、2013年へ向かって思い描くこととは…。
 ベスト4に進んだ秋季四国大会が終わって改めて、自身の現在地と未来予想図を大いに語ってもらった。

4強入り四国大会を振り返る

済美 安樂智大投手

――まずは、この秋を振り返ってみて、感じた収穫と課題から教えてください。

安樂智大(以下「安樂」) もちろん、よかった点も出たんですが、課題が多くみつかったとは感じています。特に7回から9回にかけての3イニングで点を取られていることが多かったことは課題ですね。
 そこを直していかないと勝ちに結び付かないのは(9回4点を失い逆転サヨナラ負けした)四国大会準決勝の鳴門戦で改めて分かったので、最終回を含めた粘りのピッチングが自分には必要だと感じました。

――では、収穫はどの辺りですか?

安樂 三振の数が増えたこと(※)は自分が成長した点かなと感じます。あとはピンチになった時の失点が夏に比べて減ったことも大きかったと思います。
(※秋季愛媛大会50回で65奪三振、三振奪取率11.7。秋季四国大会17回3分の1回で22奪三振、三振奪取率11.4。2大会計67回3分の1回で87奪三振、三振奪取率11.6)

 

――そこには心と技術的な裏付けの両面があると思うのですが。

安樂 そうですね。この秋はエースナンバーを付けて臨む大会ということもあったし、みんなで甲子園に行きたい思いをもっていました。これは高校入学当初から(上甲正典)監督さんに言われていたことでもあるんですが、『自分の右腕で甲子園に連れていく』気持ちが、この秋は特に強かったと思います。
 自分は1年生ですけどマウンドに上がった以上、チームを引っ張る気持ちに学年は関係ないと思っています。また、その気持ちを持てたことが今回は大きかったと思っています。

――技術的な部分での裏付けはありますか?

安樂 夏に比べて変化球でカウントや三振が取れたことが大きかったですね。ただ、自分の目指すのは真っ直ぐで押せるピッチャーなので、そのために変化球を大事にする一方で、真っ直ぐの質を上げることにも取り組んでいきたいと思います。

[page_break:先輩・自慢の縦スライダーの習得法]

自慢の縦スライダーの習得法

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――15奪三振をマークした秋季四国大会準決勝の鳴門戦では、特に縦のスライダーがよかったですね

安樂 スライダーは自分にとって決め球の1つになっています。今はスライダーとストレートが決め球ですが、これに速いカーブと遅いカーブを持っていれば、もっと投球の幅は広がるので、この冬はここを練習していきたいと思っています。

――縦のスライダーはどんな握りで投げているのですか?

安樂 変化球については、監督さんから『ひじの負担にならないように』と言われたこともあって、高校入学当初はカットボールから投げ始めました。ただ、カットボールでは三振が取れないことが分かってきたので、少しひねりを加えることで、スライダーのような曲がりの大きいものに変えていきました。
 この握り方でも、球速は120台後半から130台前半くらい出ているので、そこも三振を取れるようになった理由だと思います。

――そのカットボールをイメージとしてはどんなピッチングに変えたのですか?

安樂 ボールの上で切りながらひねる意識ですね。夏の愛媛大会準々決勝からそのようなスライダーを投げ始めました。その時はストレートと腕の振り方も違っていたことで、空振りを取るのは難しかったんですが、秋季大会では腕の振りも同じになってきたので、相手打者も戸惑ったと思います。

キャッチボールで明白な
安樂智大投手の柔らか肩関節

――縦のスライダーはどういう風に自分の中ではなじませていったのですか?

安樂 キャッチボールです。どんどんキャッチボールをしていました。(夏の愛媛大会準決勝)今治西戦では相手が全くスライダーを振ってこまず、真っ直ぐを投げると威力が落ちて打たれていたので。キャッチボールでは色々な方に助言を頂きながらひじに負担のかからず、空振りの取れる縦スライダーを追求していったんです。

――夏の時点ではスプリット系のボールも数球投げていましたね。

安樂 縦の変化が欲しいと思って投げていたんですけど、それをツーシームや縦スライダーに変化させた感じですね。でも、スプリットについては、スライダーではない変化も欲しいのでマスターしようと思っています。左打者に対する縦変化はスライダーを投げるよりもスプリットを投げる方が打ちにくいと思いますし。

 あとこの冬、監督さんと約束して覚えようと思っているのはシンカー。左打者であれば、シンカーでカウントを取ってから、インコースにストレートを持ってくる決め球も使えるようになりますから。自分はインコースのストレートに一番自信を持っているので、投球の幅を広げるためにもマスターしたいですね。

――毎回、話しを伺うたびに、変化球の種類が変わっているのは、そういうことだったのですね。

安樂 そうです。でも、自分は変化球投手になろうとは思っていませんし、変化球を覚えるのはあくまでストレートを活かすためです。

 プロでも活躍できるピッチャーを目指すためには真っ直ぐ一本では通用しないと思っていますし、甲子園などで『この真っ直ぐでは打てない』と思わせる速いボールを投げるために、スライダーであり、カーブであり、シンカーといった変化球は必要なもの。変化球は投げますが、ここぞの所では真っ直ぐで決められることが理想だと考えています。

[page_break:152キロを出せるフォームのポイント]

152キロを出せるフォームのポイント

――その真っ直ぐについても、入学当初からリリースやフォロースルーの形を少しずつ変えていますね?

安樂 高校入学当初は任されるイニング数も少なかったので、とにかく全力を出して、スピードばかりを追いかけていました。だから140キロ台が出ても高めばかりで、ズシンと重さを感じないボールが多かったと感じています。(6月の練習試合で)先発に回った頃からは、そのような投げ方ではスタミナが持たないので、ゆっくりとフォローを取って前のリリースの瞬間だけ力を入れるようにしました。そうしたら、前でボールを放したときほど低めにいいボールが来るようになりました。
 やはり理想は低めで140台後半から150キロが出ることですし、その方が打たれないと思うんです。今はそこを求めて練習しています。

――左足の踏み出し方やプレートの使い方への意識はありますか?

安樂 そこはあまり意識していません。でも、僕はまだ下半身の使い方が甘いことから、立っている時に右ひざが折れる悪い癖があるので、そこはこの冬にシャドーピッチングで直したいとは思っています。逆に言えば、そこがしっかりしていれば、足の踏み込みもしっかりできると思いますし、そこができないと140キロ後半のストレートは出せないと思います。

――対して、肩とかひじの使い方は手ごたえを得ているとは思うのですが。

安樂 そうですね。自分は下半身に課題がある一方、もともと肩やひじの関節は柔らかいんです。ですから、写真で見ても肩やひじがしなっているように見える。そこは自分の一番いいところだと思っています。
 ただ、下半身や股関節はやはり硬いのでためきれていないんです。その中でも少しためきれたら鳴門戦のように常時140キロ後半が出るし、ためきれなかったら(秋季四国大会2回戦)徳島池田戦のようにボールが抜けてしまう。力を前に出し切れないから踏み込みの時にも土が上がらないんだと思います。(今後は)下半身の使い方が大事になってくると思います。

2013年は狙っても打てないストレートを目指す

春へ向けての決意を語る安楽投手

―さて、2013年は秋季四国大会の活躍で否応なく表舞台で注目される立場になります。

安樂 自分自身、注目されるのは好きなのでプレッシャーや緊張はないんです。でも、自分はまだ全国の舞台に立っていないので、全国のバッターがどのくらいのレベルにあるかは気になります。
 ただ、明治神宮大会で準優勝された関西(岡山)とは練習試合で2回ほど対戦経験があります。その際は相手も調子が悪かったとは思うのですが、ある程度いいバッターがそろっていると中で抑えたことは自信にはなっていますね。

―2012年秋の経験を経て、自分の中で決意が固まった部分もあると思います。

安樂 三振はそんなに要らないですが、理想は藤浪晋太郎大阪桐蔭3年・阪神ドラフト1位指名)さんのように、勝てる投手になること。それが自分ではエースだと思います。

 調子が悪くても試合を組み立てる。点を取られても次の点を取られず、味方の逆転を信じ続けて投げられるようになることが一番大事。もちろん、甲子園に出たとしたらスピードにこだわりたい部分もありますが、最終的には価値にこだわっていきたいと思います。

 そのためにもこの冬が勝負です。一冬越えて152キロを超えてなかったら『この人は冬に何をやっていたんだ』と言われるでしょうし、この冬で成長した姿を春の公式戦で見せて、愛媛県の安樂を打つために夏、対策を練られる投手になりたい。そしてその対策を弾き返せるようなピッチングをするのが目標です。
 今はピッチングマシンは150キロ、160キロ出せますから、自分は狙っていても打てないストレート。振りにいっても振れないストレートを磨き上げていきたいと思います。

インタビュー後記


 安樂投手は強い責任感、高い分析力、そして自らを客観視し、そこへ向かって解決策を練れる力を十分に備えている。また、それだけでなく、安樂投手の言葉の端々からは、応援してくれる人々や観客の方々が描く自分自身へのイメージを想起し、それを乗り越えるべく日々勝負を挑んでいた。
これは、高校1年生の次元で測れる思考力ではない。ゆえに彼は「怪物」と称されるのだ。


 とはいえ、安樂投手はピリピリ感を決して周囲に発することはない。インタビュー中に、顔を出す先輩や同級生に対しても1人1人のよさを必ず1個入れながら「○○さんがいるから、僕がいるんです」と真顔で語る。自分にどこまでも厳しく。周囲にどこまでも優しく。それが安樂智大という男なのである。
 秋季四国大会はベスト4に終わった済美。2013年、彼らが晴舞台に立ったとしても、そうでないにしても、きっとそのマウンドに立つエースは、秋より深化した自分を出し切ってくれるはずだ。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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