Interview

住友金属鹿島 石田祐介選手

2011.10.27

第85回 住友金属鹿島 石田祐介選手2011年10月27日

 入社してから4年間、結果が残せなかった。もちろん、試合にも出してもらえなかった。

 これは現在、社会人野球界で住友金属鹿島のエースとして活躍している石田祐介の話しである。彼の話からは、高校1、2年の球児たちにも参考になるお話がたくさん詰まっていた。

 なぜ、自分は試合で結果を残すことが出来ないのだろう?
 なぜ、自分は試合になると弱気になってしまうのだろう?

 その壁を乗り越えるための方法の1つを今回の先輩・石田祐介が教えてくれた。

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【目次】
1 どう自分を変えていけばいいのか、分からなかった3年間
2 「俺はマウンドに上がった時の気持ちは、お前には負けない」
3 1人で閉じこもるだけでなく、周りのメンバーと関わり合う
4 キャッチャーとの会話を大事に

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【目次】
1 どう自分を変えていけばいいのか、分からなかった3年間
2 「俺はマウンドに上がった時の気持ちは、お前には負けない」
3 1人で閉じこもるだけでなく、周りのメンバーと関わり合う
4 キャッチャーとの会話を大事に

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どう自分を変えていけばいいのか、分からなかった3年間

“どう変わっていけばいいのか、分からなかった”

 09年に社会人野球の名門・日産自動車(神奈川)が休部。翌年、石田祐介は住友金属鹿島(茨城)に移籍すると、すぐにチームの大黒柱に。2年ぶりの出場を決めた昨夏の都市対抗大会では、4強入りに貢献。

 今ではチームメイトから厚い信頼を寄せられている石田も、東京国際大を卒業して、日産自動車に入社してからの4年間は、全く芽が出なかった。それでも、当時の久保監督は、石田を見離さなかった。

石田選手(以下「石」) 日産に入社してみたら、周りは野球のエリートばかり。自分の大学名を聞かれても、「どこそれ?」って言われて、こんな凄い選手たちの中に自分がいていいのかな?って、自信をなくしました。練習についていくのもやっと。寮生活も初めてで、それもきつかった。正直やめたいって思っていました。監督、コーチ、先輩からも毎日、ボロカスに言われてましたね。

――厳しい環境であっても、野球を辞めなかったのですね。監督もまた、石田投手の成長を待っていてくれたのですね。

「石」 なぜ切られなかったのか。今、思うと不思議ですよ。僕は、ずっと先輩の投手についていけばいいやって過ごしてきたけど、自分が引っ張っていくんだっていう考えは全くなかったんです。

 入社3年目の時に同期の秋葉が先に活躍して投げるようになって、うらやましいっていう気持ちと、悔しいなっていう気持ちがあったけど、だからといって自分はどうすればいいのか。どう変わっていけばいいのか、分からなかった。

――苦しい時期が続いていたのですね。何か、そこから抜け出すための“きっかけ”はあったのでしょうか。

「石」 転機は、入社4年目です。この年、入社して初めて、都市対抗と日本選手権の予選から本戦まで、1イニングも投げさせてもらえなかったんです。

 これまでは、企業チームとの試合で投げたことはなかったけど、クラブチームとの試合であれば登板させてもらっていました。ケガもしてないし、調子も悪くなかったのに投げさせてもらえなかった。だから、もうその時点で、腐っていましたね。正直、自分から野球を辞めてやろうって気持ちになっていました。

 そんな時、7月の都市対抗予選が終わると、チームに都市対抗の補強選手がきたんです。東芝の中野さんと、三菱重工横浜の門西さんでした。監督からは、『お前と同じタイプの中野投手を取ったのは、お前と競争させるためだ』と言われました。ピッチングコーチは、門西さんに『石田を何とかしてくれ』と話していたらしく、1カ月間、僕はずっと門西さんと付きっきりで一緒に練習をやっていました

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【目次】
1 どう自分を変えていけばいいのか、分からなかった3年間
2 「俺はマウンドに上がった時の気持ちは、お前には負けない」
3 1人で閉じこもるだけでなく、周りのメンバーと関わり合う
4 キャッチャーとの会話を大事に

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「俺はマウンドに上がった時の気持ちは、お前には負けない」

“自分が変われば、周りも変わっていく”

「石」 ある日、門西さんに言われたんです。『お前、もったいな』って。

『俺は、お前より球も遅いし、変化球も少ないし、お前みたいな球投げれねぇよ。でも、お前と違ってマウンドにあがった時の気持ちは、お前には負けない』。

 正直分からなくて『どういうことですか?』って聞き返したら、門西さんは、

『お前は、マウンドに上がったときに、打たれたらどうしようとか、フォアボール出したらどうしようとか、後ろで守ってるベテランの野手たちの存在に圧倒されて、自分のピッチングができてない。自分を生かし切れていないんだよ』って。

 確かに、そうだなって思いました。自分は、これまで辛いことから逃げていたし、グラウンドでも先輩の目につかないところへ行ったり。練習が終わったら、部屋にこもって誰ともしゃべらない。同期とも後輩ともしゃべらない。なるべく1人で過ごそうとしていたんです。嫌なことから逃げていたんですよね。そしたら、門西さんは、『そういうところを克服していけば、何か違うものが見えるんじゃねえの?』って。

――その言葉から、石田投手はどう自分を変えていったのでしょうか。

「石」 予選が終わってからはずっと、毎日欠かさずバッティングピッチャーにいきました。僕は、それまでバッティングピッチャーが大嫌いで、自分からやったことがなかった。コーチに『今日バッティングピッチャー行け』と言われても、嫌がっていたほど。バッティングピッチャーというのは、コーチからは『自分の球を投げろ』と言われるけど、野手からしたらストライクが入ればそれでいい。だから、どちらも目指そうとすると力も入るし、ストライクが入らなくなるんです。2球、3球とボールが続くと野手から怒られるんですよね。それが嫌で避けていたんです。

 この時も、やっぱりストライクが入らなくて怒られました。野手からは『お前、試合投げねぇんだろ。投げねぇやつの練習につきあってる暇はないんだよ』って言われましたが、投げ続けました。

 すると、ある時、「お!いいやないか」っていう声に変わったんです。球やフォームも変わったわけじゃないのに。野次や罵声が、激励の声にある時から変わっていった。ずっと続けていることによって、逃げずに続けることによって、周りからの声が変わっていく。自分が変われば、周りもこうやって変わっていくのかと、その時、気付いたんです。

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【目次】
1 どう自分を変えていけばいいのか、分からなかった3年間
2 「俺はマウンドに上がった時の気持ちは、お前には負けない」
3 1人で閉じこもるだけでなく、周りのメンバーと関わり合う
4 キャッチャーとの会話を大事に

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1人で閉じこもるだけでなく、周りのメンバーと関わり合う」

“『僕もまだ、やれるかな』という気持ちに”

――ここから石田投手の成長曲線が一気に上がっていくのですね。

「石」 そこからですね。周りが見られるようになったのは。今までは、後輩とご飯を食べに行くこともなかったのに、一緒に行くようになったり、休みの日に仲間たちと喋ったり、遊んだりすることが多くなりました。

 練習でも変わりました。後輩にもアドバイスが出来るようになったり、監督やコーチ、先輩に対しても、『今、自分はこう思うんですけど、どうですか?』と聞けるようになりました。これまでは、監督やコーチにピッチング見ていただいている時も、言われたことだけ吸収しようとしていたけど、自分の意見も伝えることが出来るようになったんです。

 監督も、「こいつ、どうしたんだ?変わったな」っていう目でみてくれるようになりました。自分の視野も広がって、楽しいというとおかしいけど、『僕もまだ、やれるかな』という気持ちになっていきましたね。

――日産自動車の休部が決まったのは、その翌年。石田投手が入社5年目の年でした。

「石」 2月に休部の話しがあって、その瞬間は頭の中は真っ白でしたけど、誰も下を向かなかったですね。最後の1年、みんなで頑張ろうっていう気持ちがチームにも生まれました。自分も、投手陣で最年長となって、同期の秋葉と俺でチームを引っ張っていくんだっていう気持ちが初めて生まれました。僕は4年間、東京ドームのマウンドにもまだ立ったことがなかったんです。1イニングも投げていないんです。なおさら、今年は最後の年だし、最後に日産に貢献したいって思いがありました。

 この年、石田は日産自動車の“エース”の座を奪う。都市対抗予選では、第一代表決定戦まで勝ち進むと、三菱重工横浜と対戦。10イニング無失点と好投するも、試合は延長16回引き分けに。この試合で石田と8回まで投げ合ったのは、あの門西だった。試合後、石田のもとに、門西からメールが届いた。
「よく頑張ったな。最後にやっと、チームの信頼を得たんだな」――。

 その後、チームは神奈川の第3代表として都市対抗に出場すると、石田は準決勝までの4試合全ての先発を任された。
準決勝ではトヨタ自動車に0対1で惜敗。強打線を相手に、7回を投げ自責点1と好投をみせた。また、現在開催中の都市対抗大会でも初戦で白星を挙げている。

 最後に、そんな石田が意識を変え、行動も変えていく中で、投手としてどんな変化があったのか尋(たず)ねてみた。



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【目次】
1 どう自分を変えていけばいいのか、分からなかった3年間
2 「俺はマウンドに上がった時の気持ちは、お前には負けない」
3 1人で閉じこもるだけでなく、周りのメンバーと関わり合う
4 キャッチャーとの会話を大事に

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キャッチャーとの会話を大事に

“話し合うことで、お互いに気付いて勉強できる”

――石田投手の気持ちが変わったことで、野球に対する取り組み方や、ピッチングでの考え方はどう変わったのでしょうか?

「石」 マイナスのことを考えなくなりました。今までは、フォアボールを出したからダメだ。点を取られたからダメだ。ヒット打たれたからダメだ…と落ち込むことが多かった。

 だけど、今では点を取られても、「あそこが良くなかったな。点取られてたけど、次はこうすればいいんじゃないの?」とか、「打てるもんなら打ってみろ」とか、自分のピッチングが出来るようになりました。

 その中で、一番に変化したのは、“間”が作れるようになったことですね。今までだと、ただ投げるだけ。サイン出されたら投げる。そうじゃなくて、自分の間、自分のペースを作って投げることの大切さに気付きました。

 あとは、ピンチのときもあまり顔にも出さなくなりましたね。ランナーを背負っていない場面って実際は少なくて、ランナーを出す場面のほうが多い。そういうことを考えて投げるだけでも、ピンチも楽しめるようになりました。

――バッテリー間での変化というのも、あったのでしょうか?

「石」 日産にいた頃は、自分より2個上のキャッチャーの方で、配球も全て任せきりでした。「これ投げたい」というのをサインで出してくれたり、意志疎通が出来ていたんです。だから自分も思い切って投げることができました。ただ、住友金属鹿島に移籍してからはキャッチャーは全員、自分より年下。そこで、まずキャッチャーとのコミュニケーションを大事にしましたね。 自分がオープン戦などでも投げたあとには、キャッチャーと話を必ずしています。悪かった内容の時のほうがお互いに学ぶことも多いですね。

――高校生のバッテリーたちも、この秋季大会を2人で振り返ってみることで、何か発見できそうですね。

「石」 そうですね。ボコボコに打たれても、試合後にキャッチャーとコミュニケーションを取って、話し合うことで、お互いに気付いて勉強できる部分がありますね。去年の都市対抗では、(捕手の)日美が頑張ってくれて、信頼できて投げられたということが、都市対抗ベスト4という結果につながりました。

「門西さんがいなかったら、自分は今、野球を続けていないかも」そう語る石田投手のグラブには今、こんな刺繍が入っている。信頼と感謝――。

「チームから信頼されるピッチャーになること、チームメイトを信頼すること。そして、後ろで守っていてくれる人への感謝の気持ちを忘れないためにこの言葉を大切にしています」。

 日産自動車から住友金属鹿島へ移籍した今も、石田祐介はチームの勝利のために、マウンドに上がり続けている。

(文・安田未由

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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