Interview

西武ライオンズ 菊池雄星選手

2011.08.02

第78回 西武ライオンズ 菊池雄星投手2011年08月12日


手の温かさに人間性が宿っている。
菊池雄星と握手をするたび、そう想う。
手を差し出せば、必ず、両手で軽く握り返し、ぺこりと頭を下げる。
分厚くて暖かい手。
ただ大きいだけでない、彼自身の器の大きさそのものなのだろう。

 「良い人」はプロの世界では成功しない。
度々、そう言われてきた。間違いなく『良い人』菊池はしない人に括られる。

 だが、もし、その定説が事実なのだとしたら、野球界はその程度の世界だということになる。良い人が成功しない世界。野球界がそんな狭い世界であっていいものだろうか。
いわば、菊池雄星の存在は、これからの野球界を変えうる存在になるべきなのかもしれない。良い人が生き残っていく世界、菊池はその路線を歩んでいく。

 6月某日、西武第二球場を訪れた。当時、ファームにいた菊池はイースタンの試合が終わった後に話を聞かせてくれるという。広報の案内で彼と対面すると、真っ先に、握手をしてくれた。温かい手だった。
花巻東高校時代は、アマチュアNO1左腕と騒がれ、ドラフト1位で埼玉西武に入団。その後、故障を患い、昨シーズンをほぼ棒に振った。菊池はこの1年、何を想い歩んできたのか。高校時代からこれまでを語った。

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【目次】

2011年、プロ初勝利達成!

強豪・花巻東で学んだこと


『凡事徹底』の日々

花巻東のカバーリング力の秘訣

レベルアップのための意識

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2011年、プロ初勝利達成!

“打者を抑えるコツがつかめてきました”

――今は2軍ですが、今年は開幕一軍を獲得しました。去年までとの違いはありますか?

雄星選手(以下「雄」) もともと、今シーズンにはOP戦から調子が良かったんで、順調に来ているかなという感じですね。打者を抑えるコツがつかめてきました。

――コツとは?詳しく聞くと?

「雄」 高校生は、力勝負で抑えられましたけど、プロって、力も大事ですけど、交わすことも大事かなと。最近になって、やっと、分かってきました。今まで、いかに意味のないところに力を入れていたか、いかに、力むことが意味のないことだったんだなと気づきました。

――気づくきっかけがあったんですか?

「雄」 高校の時は力で抑えていたので、気づかなかったです。去年は投げていないですし、OP戦も1イニング、2イニングとか短いイニングだったんで、力で行けば何とかなるって感じだったんですね。

ファームに落ちて、先発に入っていく中で、力だけで投げていたんじゃ、一巡したら打たれてきます。低目に投げて、コンビネーションさえやっていれば、楽だなということが経験からつかめてきました。

――去年の怪我から、学んだことはありますか?

「雄」 去年に関しては何もやっていないんで、得るものといったら、『我慢強さ』『打たれ強さ』『忍耐することの大事』です。でも、技術的なことは何もできなかったので、ある意味、僕は1年目みたいなものですね。これから多くのことを学べるんじゃないかと思っています。

――菊池投手にとって、この時があったから今があると思えるのはどの時期ですか?

「雄」 やはり高校ですね。間違いなく。

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2011年、プロ初勝利達成!

強豪・花巻東で学んだこと


『凡事徹底』の日々

花巻東のカバーリング力の秘訣

レベルアップのための意識

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強豪・花巻東で学んだこと

強豪・花巻東(09年秋季大会より)

――花巻東で学んだこととはどんなことですか?

「雄」 入学した時から、佐々木監督には『ドラフト1位じゃないとプロには行かせない』と常々言われていたんですね。それと同時に、ドラフトは通過点であって、プロに行くこと以上に、子供たちが真似するような、憧れるような選手になりなさいと言われました。それはプレー以外でも、いろんな部分でも真似されるような選手になれ、と。

――特に取り組んだことは?

「雄」 有名になったことは、トイレ掃除になるのですが、控えの選手をいかに大事にするかですね。僕は入学式の次の日には試合で投げていたのですが、僕が投げることで、3年生や上の学年の人が出られないんだよってことは言われていて、そういう方々の気持ちを大事にすることでした。

――立ち振る舞いを気をつけていたんですね?

「雄」 花巻東は5月くらいから、上級生の中に、プレーを引退して補助に回る人が出てくるんです。そういう方々は、5月からほとんど寝ずに、データ管理をし始めるんです。

そういう方々を見たら、一生懸命練習をするのは大前提で、それプラス少ないお小遣いですけど、データ編集するときに、コーヒー買ってきたり、お菓子を買ってきたりとか、気遣いはするようになりました。

――グラウンドで一生懸命やるのは当然!ですか?

「雄」 当然ですね。それは3年生が補助に回ってくれたからとかではなくて、野球部である以上は当たり前のことなんで、ちょっとしたものを渡したりですね。先輩らが卒業されてからお会いして、『お疲れ様という言葉が嬉しかった』と言ってくださったのを覚えています。

――花巻東は野球の強い学校ですよね?『野球だけやればいい』とはならなかった?

「雄」 『俺は野球部だ』って態度をしたら、鼻っぱしらを折られます。練習に入れないですし、何週間も、草むしりや掃除だけとかになる。授業中に寝ちゃいけないとか、先生への気遣いとか。厳しかったです。

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強豪・花巻東で学んだこと


『凡事徹底』の日々

花巻東のカバーリング力の秘訣

レベルアップのための意識

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『凡事徹底』の日々

“当たり前の基準がどんどん高くなっていく”

――監督は日常生活に厳しかったんですね?

「雄」 厳しいと思います。挨拶とかはどの高校でも言われると思うんですけど、先生が荷物を持っていたら『持ちますよ』とか、扉を先に開けて入ってもらうとか。ゴミ拾いは人がいないところで拾える選手になりなさいと、言われていました。

――そういう積み重ねが、花巻東の粘り強さを生んでいたんですか?

「雄」 『凡事徹底』というか、そういことの積み重ねですよね。当たり前になってくるんです。積み重ねていくと、その当たり前の基準がどんどん高くなっていく。すると、『どこの高校にも負けないぞ』とか、『俺はこれだけやってきた』という感覚になります。できて当たり前、やって当たり前なので、相手ができていないと、その時点で優位に立てる。例えば、試合の前に、相手がバットを並べてなかったら、『あ、俺たち負けない』と思いますし、シートノックの駆け足だとか、どんどん、勝っているポイントが、やる前から見えてくる。『戦わずして勝つ』という気持ちになれるのです。

――当たり前になる前は大変だったんじゃない?野球が上手くて入ってきて、『野球に必要なの』?とか思わなかった?

「雄」 中学生の時から、花巻東は岩手県の中で挨拶など野球以外の部分もずば抜けているという話を聞いていたんです。中学3年の時、進路を決めるのに、大阪や関東からも話があって、すごく興味もあったんですけど『1回、花巻東を見に行きなよ』って言われて、初めて行って惚れました。雰囲気とか、挨拶とか。監督さんの雰囲気とか。監督とは話しできないんで、見ていただけなんですけど、試合を見た中で、監督さんのまとめる力。ここでやるぞって一瞬で決めました。だから、野球以外のことをすることに、気にならなかったです。

――先ほども少し、話が出ましたがクローズアップされるのはトイレ掃除と言われました。やってみてどうだったんですか?

「雄」 毎日、何かをやるということに意味があるんじゃないかなと思います。トイレ掃除だからというのはそんな大きくないです。トイレ掃除に限らず、日誌を書くとか、部屋の掃除をしようとか、毎日、やろうとすると、小さな変化にすぐ敏感になる。それが一番大きいと思います。トイレ掃除で技術が上がると言われると、それはないと思います。何か一つやることに意味がある。トイレ掃除をやると、心が落ち着いてないことに気づけたり、毎日書いていた日誌だったら、調子が悪い時は適当になっているなとか、それを省みて、微調整ができる。自分の変化に気付けたことが一番大きかったですね。

――それはプロに入ってもですか?

「雄」 今も、日誌を書いていますし、部屋の掃除をやって、微調整するようにしています。悪い時に限って、部屋が汚かったりするんです。それってかならず、イコールになるんですよ。

――日常生活は今でも律している、と?

「雄」 それはできています。日誌を書くこともそうですが、今は寝る前が凄く大事だなって思っていて、寝る前30分から1時間近くは、自分を見つめる時間になっていますね。ストレッチをして、腹筋して、緩めてストレッチして、日誌を書いて、CDを聞いて、明日に向かって最高のイメージをして、寝る。

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花巻東のカバーリング力の秘訣

“チームで徹底できれば、安心できます”

――また、花巻東はカバーリングがすごくて、感動しました。やっている方は大変だったんじゃないですか?

「雄」 入学当時から当たり前だったんでどこの高校でもやっていると思っていたんですね。やんなきゃ怒られる、でやっていましたから。カバーリングも、あたりまえの基準がどんどん高くなっていきました。次の次のプレーまで行かなきゃいけない。そこが大変でした。一つなら分かる。こっちでエラーして、その次にエラーが出た時のことも考えなくてはいけない。

――カバーリングをやっていて良かったことは?

「雄」 チームで徹底できれば、安心できますよ。何をやってもいい。思い切り投げれますからね。どこにでもいるからいいやって、投げる。そうなると、いろんなプレーができるんです。例えば、セカンド見ながらサードに投げる。見なくても、カバーが常にいるので、安心して投げられる。いろんなチームがもっとやったらいいと思います。

――対戦チームのカバーはみました?

「雄」 データをやった時に、○○のライトの子はカバーに行かないから、けん制ミスがあったら3つまでいけるって試合前に、確認します。カバーリングは走塁にも生きてくる。野球は何回帰ってくるスポーツですから、全部に生きていると思います。

――一方で技術的な話もお聞きします。技術的な部分で成果を感じたのは?

「雄」 身体が強くなったのはウェイトだと思いますけど、球が速くなったのは、感覚の部分が大きいかなと思います。ウェイトとイコールとなるかは分からないですけど、2年生の時に全然。結果が出なくて……もがいて、もがいて、いろんな勉強をしました。医学書を読んだり。解剖学を勉強したり、トレーニングの本を見たりとかして、どうにかして、これを乗り越えたいと思って、いろんなことを模索したんですね。それが3年生になって、生きてきた。

――導き出した答えは何だったんですか?

「雄」 何をやってもいいと思うんですよ。トレーニングなんて、どれも変わらないと思う。スクワット器具を持ちながらやろうが、変わらないと思うんです。いかに自分で考えられるかですよ。

――感覚の大事さが分かってきた?

「雄」 自分、もともと、医学書とか、身体の作りを勉強をしてきたんですけど、全部、物理学なんですよ。梃子の原理で打つとか、それって、原理だから通用するんであって、遠心力を使ってやるじゃないですか?人間の身体じゃ無理だと思うんですよね。物だからできる。最終的に感覚で行くしかないんだって。原理原則はあっても、最後は感覚だなと思った。

――ちょっと強引かもしれないけど、去年、もがいていたのと、高校2年のときもがいていたのと、重なる部分もあったんじゃないですか?

「雄」 そっくりでした。腕の上げる位置もそうです。高校の時も変なんところから投げていた。今、想えば…去年も、壁にぶち当たるたびに、勉強、勉強で、それが一番に来ている。去年は、医学書も読んだりしましたけど、今度は、心理的な方に行きました。脳の勉強とか…。メンタルトレーナーを見つけて、契約させてもらったりとかして、とにかく、もがきましたね。今は笑い話なので、2年生の時も…最後はそうなるんでしょうね。勝っても、負けても、その時は一番苦しいんですけど、1年後、2年後になったら、笑える話になるんだな。どんな苦しいことも。

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レベルアップのための意識

“直感っていうのが最終的には大事”

――これから1軍で定着するには何が大事ですか?

「雄」 やっぱり、直感を信じることです。今は順調に来ていますけど、1軍にいくなり、ファームに行くなりすると、壁にぶち当たる時がくる。そこで、他者とか、周りに応えを求めずに、これだと思ったトレーニングをやったり、これだと思ったフォームを続けるっていう、直感っていうのが最終的には大事かな、と。勉強も大事ですけど。

――勉強しすぎたのかもしれないね?

「雄」 あったかもしれません。でも、それは良いことだと思います。最終的にたどり着いたのは、直感で、自分を信じろってことだ、と。相反しますけど。それって、勉強したから分かったことで、嗅覚というか、やれ!って言われても直感で分かるようになった。それが生きている。

――菊池投手のフォームと言えば、軸足一本で立った時の美しさがあります。

「雄」 意識してますね、大事にしてます。足を上げた時に、はまっちゃえば、ぱちって収まる感覚がある。逆に、ふにゃ~っていっちゃうと駄目。 枠の中で投げているという感じで、体重移動をして正面向いて投げるだけでいい。

――高校生に、メッセージをお願いします

「雄」 高校野球って、プロ野球も含めて、いろんなスポーツがありますけど、どのスポーツよりも価値があるというか、奇跡のようなスポーツだと思うんですね。、ルールを知らないおじいちゃんやおばあちゃんが応援に来るスポーツって高校野球だけだと思うんです。ルールが分からないで見ようって思わないじゃないですか?頑張っている姿を見るために、応援に来てる、涙を流している。高校野球だけだと思う。
 そういうスポーツをやれている。やれている喜びを感じながらやってほしいですね。早く引退したいなと思う選手もいるかもしれませんけど、絶対、1年後に、卒業したらやりたいと思うから。高校3年、期間限定のスポーツなので、そこに、本気になってやって欲しいですね。

――高校の時はメディアが大変だったでしょ(笑)?

「雄」 選抜の1回戦が終わった途端に、1面で出ていた。こんなに変わるんだなって。1試合で150キロを出しただけで、こんなに景色が変わるんだって思いました。それまでは、岩手県の記者の方々が2、3人いるだけで、試合を迎えたのに、終わってみれば、ああーって。

――メディアも含めて、メーカーも含めて?

「雄」 そうですね。メーカーさんも(笑)

“これしか着たくないって感じですね”

――ウェアーは今、どうしているのですか?

「雄」 ONYONEを着させてもらっているんですけど、なんか、こう、ONYONEのウェアーは来ていて落ち着きます。ストレスになんないんです。気持ちが良い。

――いつから、このメーカーを着ていたんですか?

「雄」 高校の2年生ぐらいですねプロ入り後は、1年目は二つ使っていて、今はこれしかない。ストレスがない。これしか着たくないって感じですね。それこそ、直感ですね。

――最初に来た時の感覚は?

「雄」 営業の方に、『これ、着てみて?』って言われて着たんですけど、これ、ヤバいっすね!動きやすい、みたいな感じです。

――最後に東日本大震災について、被災地のことを知る菊池投手の想いはありますか?

「雄」 知り合いの方が亡くなったり、両親が亡くなったり、津波で家を流されたという同級生がいる。震災の時、僕はすぐに駆け付けたかったんですね。『すぐに行きます』って新幹線に乗るにつもりで、荷物もまとめて……。

でも、『今から行くから』って連絡したら、『こなくていいよ!』って言われた。OP戦をやっている時で、自分、抑えていたんですね。『新聞で無失点っていうのが伝わっている。それを見て、岩手は盛り上がってる、被災地の方も盛り上がっているよ。だから、お前はこなくていいよ、野球をやっとけ』って言われたんです。今、岩手は盛り上がっているんだから、投げる姿を見せてくれ、と。

自分、『本分』っていう言葉が好きなんです。自分が何をしなくちゃいけないっていう『本分』を考えた時に、やっぱり野球で、野球しかない。被災地に行くことも大事かもしれないですけど、野球で結果を出して、胸をはって、シーズンが終わった時に、11月か12月に、野球教室を沿岸でできたらな、と。結果を出して、胸を張って、野球教室を開く。それが今の夢です。

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(文・インタビュー:氏原英明)

 

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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