Interview

漫画家 須賀達郎先生

2013.11.06

 かわいい絵柄のほのぼのとした漫画と思いきや、フォームにこだわり、マニアックな小ネタも飛び出す、別冊少年マガジンで連載中の人気野球漫画「マックミランの女子野球部」。実は、作者の須賀 達郎先生は元・バリバリの高校球児。強豪ひしめく神奈川県で、野球に打ち込む日々を送っていました。
 
そんな須賀先生がどうして漫画家になったのか?野球の経験が、今の仕事にどう生かされているのか?女子野球に対する思いや、頑張っている高校生たちへのメッセージもあわせてお話を伺ってきました。

ヒロインのモデルは巨人の村田修一!?

須賀達郎先生

――女子高校野球を題材に漫画を描かれていますが、参考にしているチーム等はありますか?

須賀達郎さん(以下「須賀」) 実際の女子野球を直接モデルにするのは難しいんです。やはりダイナミックさを出すために、僕も小学校からずっと野球をやっていたので男子の野球も参考にしています。だからホームランもガンガン出しちゃっていますよ。漫画の絵の部分は、メジャーリーガーやプロ野球選手の連続写真のカッコいい部分を参考にしていますね。

――キャラクターそれぞれに決まったモデルはいるんですか?

須賀 そういうの決めるの好きなので、ちゃんといますよ!たとえば、エースの上田 美知子は、田中 将大。ちょこちょこダルビッシュ 有も出てきますけど、キャラクターとして頭の中で動かしている映像は田中マー君ですね。僕自身、マー君世代なのでやっぱり気になりますよ。4番の門馬 飛鳥は、中田 翔のフォームを参考にしています。映像を止めながら(笑)いや、この作業は楽しくてしょうがないですね。キャプテンの和泉 皐は巨人の村田修一です。この辺りは、けっこうファンの方も、マニアックな方は気づいてくれているんですよ。別に公表していないのにお手紙やツイッターで『この選手ですよね』って。うれしいですね。

――それぞれ、キャラクターの見た目からは想像がつかないですね。容姿端麗、眉目秀麗な和泉キャプテンが男っぽい村田とは…

須賀 あくまでフォームとかですから(笑)。和泉のキャラクターの部分は、ヤンキースのジーターですね。キャプテンとしての姿勢だとか、性格とか。使っているグラブもジーターと同じなんですよ。用具にもちゃんとこだわりたくて、それぞれキャラクターごとに違うものを持たせています。そういうところが、野球をやっていたというのが生かされている部分だと思います。
 
まあ、前提条件としては、漫画を読むのに用具とかそんなのどうでもいいんですけど。『野球をやっている人間のこだわり』という意味では大事な部分だと思うんですね。用具に関しても、細かいところに気づいてくれる読者さんもいて、すごくうれしいですね。

――小学校からずっと野球をされていたとのことですが、ポジションはどこだったんですか?

須賀 小学校ではソフトボールをやっていたんですけど、その当時はショート。中学で硬式野球を始めて、ピッチャーをやっていました。高校に入ってもピッチャーをやりたかったんですけど、やっぱり高校にもなると選手層が厚くなるんですよね。これは試合出られないなと思って。ちょっとだけ打てたので、結局高校では外野手をやっていましたね。

[page_break野球をやっていなかったら途中で投げ出していた]

野球をやっていなかったら途中で投げ出していた

――ではその高校時代は、どんな目標で野球をしていましたか?

須賀 ベスト16を目指してやっていました。まあ、神奈川の16強の壁はなかなか厚くてですね…。3年生の春には、ベスト32まで行ったんです。ただ、そこでの相手が東海大相模。僕たちもけっこう打ったんですけど、要所を抑えられる、というやつで、負けてしまいました。当時は田中 大二郎東海大相模‐読売ジャイアンツ 2012年11月に引退)がいたんですけど、やっぱり凄かったです。東海大相模って凄い選手ばかりですけどその中でも頭一つ抜けていましたね。グラブを持って行かれるような打球って本当にあるんだと思いましたね。

――そんなバリバリの高校球児が、どうして漫画家になろうと思ったんですか?

須賀 大学では野球を本格的にやろう、とは思っていなかったんです。それでどうしようかな、と思いました。まず、音楽は好きだったんですよ。だから、高校球児にありがちな、引退したらギターに手を出す、ということを僕もやりまして(笑)。でも、ギターは楽しいんですけどイマイチ思うように行かないな、と。バンド組むためにうまくメンバーを集められなかったんです。

それで自分には他に何があるかな、と考えたときに、絵を描くのが好きだな、と思ったんです。漫画を描くのって、楽器を買ったり何か用具を揃えたり、というような大掛かりな話じゃないですよね。それで、描いてみよう!となったんです。

――初めから野球漫画を描いたのでしょうか?

須賀 いえ、野球漫画はこれが初めてですね。まあ、これも野球漫画と言っていいのかも微妙なところですけど。あまり集中力のある方ではないので、いきなり30ページとか長いものは描けないなと思って、10ページくらいの短いショート漫画をとにかく完成させてみようと思いました。
漫画家志望の人が一番最初に挫折するというか越えられない山が、第1作を完成させる、ということなんです。途中で飽きちゃったり、別のものを思いついてしまったり、そのままやめちゃうケースが多いんです。自分もそういうのが続いていたんですけど、これじゃあ話にならない。どんなにつまらなくても完成させるまでやろう、と頑張りました。それで完成させたのが、10ページの4コマ漫画。それが雑誌の新人賞の最終候補になったんです。でもそこから10作以上、何の音沙汰もなし。さすがに心が折れそうになりましたね。それを耐えられたのは、野球をやっていたのが大きいかな、と思っているんです。

 野球をやっていなかったら、途中で投げ出していたと思います。結果が出ない時って、逃げ出したくなるんです。練習でも漫画でも。全部放り出したくなる。でも、それに耐えながら、数をこなす。一日これだけバットを振るぞというのを、これだけ描くぞ、何ページは描くぞ、と置き換えて自分にルールを作って目標をしっかり設定した。これは高校の時に同じようにしてつらい練習にも耐えたという経験がプラスになったんじゃないかな、と。

――耐える力ですか。

須賀 部活って、楽しかったといえば楽しかったけど、大変なこと、つらいことの方が多いじゃないですか。それに…監督がすごく怖かったんですよ(笑)。その怖い監督になってから強くなったんですけど、練習もきつくなった。でも、テスト勉強とか眠くなった時も、「いや、俺この間の練習耐えられたからまだイケるはずだ!」と、苦しい時にも頑張れる要素にはなっていましたね。あまりメンタル面で強い選手ではなかったんですけど、野球をやっていなかったらもっとネガティブな人間だったと思いますね。

[page_break女子野球を知ってもらえるきっかけに]

女子野球を知ってもらえるきっかけに

――マックミランの女子野球部は、キャラクターが生き生きとしていてしかも可愛いのが印象的なのですが、女子を描く上でこだわりはあるんですか?

須賀 可愛いキャラクターを描くのが得意だったんです。こだわりというか、なるべくキャラを被せないようにはしています。一言『カワイイ』と言っても色々あるじゃないですか。女の子、ギャルの可愛さ、セクシーさ、子供の無邪気な可愛さ、色んな可愛さを出せるようにしようと。あと、ポジションごとになんとなくイメージってあるじゃないですか。ファーストだったら体がでかくて、セカンドだったら器用で、とか。そのあたりは性格にも結びつけやすいので、キャラの違いを出すということにも役立っています。
 
あと、普通の野球漫画であれば、勝った、負けた、成長した、っていう部分に重点があると思うんですけど、それよりは、用語であるとか道具だとか、選手のこだわりの部分といった、ほかの漫画にはないような要素を入れていきたいと思っています。わからない人には申し訳ないんですけど、色んなネタを取り込んで、色んな人に楽しんでもらいたいと思っているんです。難しいんですけどね。もちろん、単純にキャラが可愛いと思って読んでくれるのも、その人の楽しみ方。色んな楽しみ方をしてほしいですね。

――確かに、可愛いキャラからマニアックなネタが飛び出していますよね。

須賀 4コマ漫画なのに、配球をしっかり見せちゃうとかね。ある程度説得力は持たせたいので、最近は野球中継見るのにも頭を使いますよ。この展開でこの配球はアリなの?ここでインコースっていいんだ!とか。だから、今の頭、知識で現役時代に戻ったら、もうちょっといい選手になっていたんじゃないかなと思います。あの頃は何も考えていなかったですからね(笑)

――ずっと野球をやっていて、さらに今、女子野球を題材として取り上げている須賀先生から見て、日本の女子野球はどのように映りますか?

須賀 男子の高校野球とかプロ野球とかサッカーのなでしこジャパンなんかに比べると、メディアに取り上げられにくいですよね。勝手な話ですけど、どうやったら広められるかな、とかけっこう考えるんですよ。見てもらうためにはどうしたらいいんだろうとか。僕の漫画自体も全然有名じゃないので、人に知ってもらうためにはどうしたらいいかって結構考えますね。
 
まずは女子野球の存在を知らしめないと。日本の女子野球って、今世界で3連覇しているような、そんなすごいチームなんですよ。そんなに強い土壌があるのに、もどかしい思いをしているんじゃないかな。3連覇をした次の日に新聞を見たら、2,3行で『3連覇しました』って書いてあっただけで、いやこれは悔しいな、と思いました。実力は世界で一番あるんだから、見てもらえる要素は絶対あるんですよね。この間、女子高校野球の大会に取材に行ったんですけど、守備は相当うまいですよ。バントもライン際にしっかり転がしたり、技術の部分では凄いものがあります。

 
守備といえば日本の女子プロ野球も本当に凄いですよ。特に、厚ケ瀬 美姫(サウス ディオーネ)選手。テレビ中継を見ていて特に印象に残りました。素人が見てもすごいなと思える守備だったんですよ。
 
だから、プロ野球の選手が試合する前に、同じ球場で女子プロ野球の試合をするとか、見られる環境を作っていくことが出来れば相当盛り上がりますよ。プロ野球のファンの人が集まるような所で試合が出来たら、選手たちも相当燃えるんじゃないかなぁ

――では最後に、頑張っている女子高校球児に何かアドバイスをいただけますでしょうか?

須賀 もっと格好を気にしてもいいんじゃないかな、と。見た目の部分ですね。男と同じようにやりたい!っていう願望がある選手も多いとは思うんですけどね。男子の高校野球って、物凄く制限が多くてなかなかパッと見でわかるキャラを立てられないんです。女子はまだそこまで厳しくはないと思うので、もし可能であれば、リストバンドとか、ちょっとした用具の色をまとめてみるとか。「あの選手は赤いものでまとめている。あの子のカラーは赤なんだ!」
 
とキャラ付できるじゃないですか。以前観た試合でも、一人だけ髪の長い選手がいたんですけど、一発で覚えましたもん。多くの人に見てもらいたい、という気持ちがあるのであれば、重要なことですよ。好きな人はけっこう多いと思います。アイドルじゃないけど、「あの子推し!」という感じで。嫌じゃなければ是非やってほしいです。
 
それと、女子高校野球の知名度アップに僕の漫画が必要であれば、どんどん使ってください。女子野球ってものがあったこと自体知らなかったけど、この漫画をきっかけに、ちょっと見てみます、って人もいらっしゃるので、ちょっとは貢献できているんじゃないかな(笑)

須賀先生、お忙しい中貴重なお話、ありがとうございました。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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