「超攻撃的リードオフマン」聖地での躍動を誓う 水野 達稀(丸亀城西)
「第100回全国高等学校野球選手権」第4日第1試合で日南学園(宮崎)と対戦する丸亀城西(香川)。13年ぶり5度目の出場で悲願の夏甲子園初勝利を狙うチームの大黒柱が、1番・遊撃手にして高校通算27本塁打を放っている水野 達稀である。
169センチ69キロの体格をもろともしないパワフルさを備える水野の原動力はどこにあるのか?今回は甲子園出発直前のコメント、香川大会での秘話も含め、存分に自らを語ってもらった。
「感謝」と「ラッキーアイテム」と「鍛えた下半身」で決めた甲子園
水野 達稀(丸亀城西)のバッティングフォーム
―― まずは改めまして甲子園出場おめでとうございます。7月22日、高松との決勝戦から数日が経った今(取材日は7月28日)、心境はいかがですか?
水野 達稀(以下、水野): もちろん、優勝した瞬間はうれしかったんですが夢の世界で実感はなく、丸亀市に帰って報道を見ていろいろな方々から「おめでとう」と声をかけてもらって、だんだん実感がわいてきた感じです。
―― 香川大会はノーシードからの優勝。しかも5月26日に開催された「第60回丸亀高校・丸亀城西高校野球定期戦」で2対9と大敗してからの急浮上でした。
水野: あの敗戦は間違いなくチームのターニングポイントになりました。試合後の選手間ミーティングでは控え選手から僕らレギュラーに対して「もっとしっかりやってくれ」と叱咤激励を受けたことで、チーム全体の取り組む姿勢が変わった。そして練習試合でも試合ごとによくなって香川大会に入った感じです。
3回戦に春季香川県大会で敗れた藤井学園寒川(第3シード)に対し、9回表に大前(輝明・3年・投手)のホームランで追い付いて、延長10回で勝てた(3対2)のも、1球に対する集中力が上がってチームとして勝負強くなれたからだと思います。
僕自身も春季大会を終えてから3番から1番に打順が変わって「相手投手に数多く投げさせる」「出塁率を高める」、走塁面でも「1つでも先の塁を目指す」をより意識するようになってたんですが、周囲の皆さんへの感謝の想いが自分の迷いを振り切ってくれました。
―― 水野選手は準々決勝までは単打を重ねていましたが、準決勝・英明戦では0対5から持ち前の長打力が爆発します。
水野: 6回までは黒河(竜司・2年)くんに抑えられていましたけど、球速もいつもに比べてなかったですし、マウンド上でもばてているのが解ったので「必ず打てる」と思っていました。7回裏の右中間二塁打はつなぐ想いでコンパクトに打てましたし、9回裏の右中間三塁打も「自分の形で打つ」を心がけて、結果につながりました。プレッシャーがかかった中でも自分が変われた。成長を実感できたゲームでしたし、だからこそ決勝戦の高松戦も中盤までリードされていましたけど、落ち着いてできました。
―― 実は、この結果には1つ秘話があるそうですね。
水野: 実はこの試合前、自分が頼んでいた1100グラムのマスコットバットが届いたので、身体にしみつくように試合と同じフルスイングをしてから、バッターボックスに向かうようにしたんです。すると、スイングに力ができようになった。3番を打っている藤田(翔希・2年・左翼手)も僕のマスコットバットを借りて振ったら、打てるようになったんです。マスコットバットがラッキーアイテムになってくれました。
――なるほど(笑)。ただ、それだけでは急上昇しないですよね?そのベースとしての打撃を体現するために、水野選手が大事にしていることはありますか?
水野: 甘く入ってきたボールを一発で仕留めるための「下半身」です。僕の打撃は下半身でスイングして、そこに上半身がついてくる形ですし、NPBの選手を見ても下半身がしっかりしていないと強いスイングができないので、冬場はスクワッドやウエイトなどで強化して太ももも56センチから60センチまで大きくなりました。
加えて、僕は左打ちなので左脚一本で立てる体幹も鍛えています。左脚に一度体重をを乗せてから体重移動し、さらに「待ち」を作ってスイングすることで、スイングスピードも上がり、インパクトも強くなりました。
「ギリギリのプレー」を成功させる守備論
捕球する水野 達稀(丸亀城西)
―― ところで、水野選手は丸亀市立南中時代から遊撃手を務めていますが、改めて「遊撃手」の魅力はどこにあると自分では思いますか?
水野: 三遊間に飛ぶ打球は難しいし、捕球しても遠投が加わってきますが、そこでランナーをアウトにできるプレーに魅力を感じています。そういったギリギリのプレーを成功させるためには守備範囲を広げなければいけないですし、打球に対する一歩目の動き方が大事になってくるので、そこは工夫しています。
――特に丸亀城西高校入学後、取り組んでいることはありますか?
水野:投手の投球に合わせて一歩目を動かすこと。そこで守備範囲を広げて、自分だけでなくチームを助け、チームに勢いを付けたいと思っています。
―― もう少し具体的に説明して頂いていいですか?
水野:僕は相手打者のインパクトに合わせて力を抜いた状態。「パワーポジション」の状態から軽くジャンプしています。ジャンプを入れることで身体も固まらないですし、打球の種類に対して対応できるステップが取りやすくなる。
その上で一歩目はかかとから柔らかく入っています。これを心がけておくと特に弱いゴロに対するダッシュはかけやすいですね。
――三遊間・二遊間の打球に対するステップの取り方はどうしていますか?
水野:三遊間であれば、一度前にステップを切ってから左脚を三遊間に向けてターン。二遊間の場合は、一度前にステップを取ってから右脚で踏ん張って左脚を二遊間に向けます。
ポイントは「右脚」。そして切り返すときに突っ込まず、重心を下に置きながらまっすぐ立つイメージを持つことです。
僕自身、1年の時は二遊間の打球に対し「右脚で踏ん張る」意識はなかったんですが、練習試合で近畿地区へ遠征した時にこの脚の使い方をしているチームを見て、自分で試してみたらしっくりいって、あとはうまい選手の映像を見ながら微調整しています。
―― 自分の後方に飛ぶ打球への対応はどうですか?
水野: 僕は身長169センチですが、敏捷性など小柄であるからこその長所は大型選手よりも優れていると思っています。ですから、その長所を最大限に活かすために、相手打者のスイングやカウントから打球方向を予測し、守備位置も変える情報収集も含め.た準備を研ぎ澄ますようにしています。
――そしてグラブを見ると……。すいぶん小さいサイズですね。
水野: 僕はグラブに「手のひら感覚」を求めていますし、小さい方がポケットで捕って握り替えもしやすいので、この形にしています。かつ僕は当てるよりもつかんで捕るタイプなので、ポケットは奥の方に作ってあります。
[page_break: 「チャレンジャー」として甲子園で自分を出し切る]「チャレンジャー」として甲子園で自分を出し切る
ラッキーアイテムのマスコットバットを持つ水野 達稀(丸亀城西)
―― いよいよ水野選手にとっては初めて、丸亀城西にとっても13年ぶりとなる夏の甲子園です。「これだけは」というこだわりはありますか。
水野:甲子園で闘うチームは自分たちより強いチームばかりですし、いい投手ばかりですが、そういったチーム・投手にチャレンジャー精神をもって臨みたい。甲子園で試合をできる楽しみを感じながら勝ちに持っていきたいですね。
―― では水野選手が聖地で出し切りたいこととは?
水野:まずはバッティング。ヘッドスピードには自信がありますし自分の形で打てれば甲子園でもヒットが出ると思っているので、甲子園でピークを持っていけるように、練習からフルスイングをしていきたいです。香川大会ではけがをしていた佐竹(流星・3年・中堅手)が2番に戻ってきたので、2人で連携しながらいろいろなことを仕掛けていこうと思っています。
そして守備も走塁も自分の思い通りさばけた香川大会準決勝以降の感覚を大事にしながら、試合前の7分間ノックで風に対する守備範囲や、距離感などをしっかりつかんでいきたいですね。
―― では、最後に甲子園での意気込みを力強くお願いします!
水野:丸亀城西が甲子園に出場することを喜んでくれた皆さんに喜んでもらうためにも、甲子園での経験を活かして次のステップに進むためにも。さらに丸亀城西はまだ夏の甲子園での勝利はないので、チームの中で個人の力を出してまず1勝したいです。
観客の皆さんには僕の打席の初球から注目して見てもらえればと思います。
――甲子園での躍動を期待しています。ありがとうございました。
水野:ありがとうございました!
文=寺下友徳