甲斐野 央(東洋大)最速154km/hを誇る右腕のこだわり
東洋大でロングリリーフも厭わない救援投手として活躍し、昨秋の東都大学野球リーグでは5勝を挙げて最優秀投手とベストナインを受賞した甲斐野 央投手。ストレートは最速154km/hを誇り、今秋のドラフト上位候補とも見なされている逸材だが、その甲斐野投手に球速アップの方法などについてお話をうかがった。
速球を投げるための体作り
東洋大姫路時代の甲斐野 央選手
東洋大姫路高時代の球速はMAX141km/hだったという甲斐野投手。大学2年春のリーグ戦で初めて150km/hに到達し、昨秋のリーグ戦ではほぼ毎試合150km/hオーバーを記録。そして、今春の楽天二軍とのオープン戦では自己最速を更新する154km/hをマークした。
しかし、「実はスピードアップのための特別な練習はしていないんですよね。ただ、体作りは大事だと考えていたので体幹トレーニングやウエイトトレーニングはやっています。体幹トレーニングは体勢をキープするスタビライゼーションなどオーソドックスなものがほとんどですね。ウエイトトレーニングは下半身、特にお尻を大きくしたかったので、10回くらい持ち上げられる重量のバーベルを担いでスクワットをしています。この時、自分が鍛えたいところを意識してしっかりと負荷がかかっているのかを確認しながらやることが大切だと思います」
また、ランニングも多くこなしている。「この冬もグラウンド1周のタイム走だったり、5km走だったり、厳しい練習をしてきました。ただ、ランニングに関しては高校の頃の方が走っていましたね」。その高校時代のランメニューだが、「冬はグラウンドから4kmほどの距離がある学校まで走っていって、近くの書写山という山を登って下りて、またグラウンドまで帰ってくるという合計10kmほどのランニングを毎朝、やっていました。それがアップのような感じだったのですが、本当にキツかったですね。夏は夏で練習終わりにタイム走などをやっていたのですが、それもしんどかったです。でも、あの時、たくさん走った貯金が今に生きていると感じますね」。
また、東洋大姫路高では、あえていろんなポジションを守ることが多かった甲斐野。「ピッチャーも全ポジションの練習をしたんですが、それぞれのポジションの立場からいろいろと考えることになったので野球を知ることができたような気がします。守備が下手だったのですが、内野手の練習をしたことでフィールディングが上手くなりました。東洋大姫路のピッチャーはみんなフィールディングが良かったと思います」
自身で語る投球フォームについて
投球練習をする甲斐野 央投手(東洋大)
そんな甲斐野投手に自身の投球フォームについて解説してもらった。
―― Q.フォームで意識していることは何でしょうか?
甲斐野 高校時代はどうしても上半身だけで投げてしまう感じでした。よく「下半身を使って投げろ」と言われますが、正直、どうすれば下半身を使えるのかが分からなかったんですよね。でも、東洋大に来てから玉井(博信)コーチに「下半身から上半身へ動きを連動させられれば、それは下半身を使っているということだ」とアドバイスをされて、体全体を使って投げるようにしていきました。
――Q.実際にはどのように体を動かしているのでしょうか?
甲斐野 これまでは踏み出す左足が地面に着いた時、既に投げにいっている状態で上半身と下半身が一緒に前へ動いていました。それを下半身主導に変えるため、左足が地面に着いてから、上半身が追いかけるように前へ動いて投げるようにフォームを修正したんです。この時、腰のひねりを利用して投げるので、ボールに力強さも加わったと感じています。
――その新しいフォームはどのようにして習得したのでしょうか?
甲斐野 自分のフォームを連続写真で撮影して、プロの投手と比較しました。すると、自分は左足が地面に着いた時、プロの投手に比べて左肩が早く開いていることが分かったんです。やっぱり自分の目で見て、理解することはとても大事なことですよね。それからはフォーム固めのために投げ込みをして、大学1、2年の頃は多い時で300球を投げていました。当時は大学の先輩の原 樹理さん(ヤクルト)がブルペンで投げ込んでいるのを間近で見ていたので、自分も「とにかく数をたくさん投げないといけない」という思いでやっていました。
――Q.その他に、ピッチングで心掛けていることはありますか?
甲斐野 リリースですね。「リリースは前で離せ」という言葉がありますが、自分は前で離そうとすると、体も前へ動いてしまって上手く投げられなかったんです。そんな時に、原さんから「前じゃなくて、下で投げろ」とアドバイスをしていただいたんです。イメージとしてはお腹より下、ヒザに近いあたりでリリースするイメージです。もちろん、実際はそんなことないんですけれど、でも意識を変えたことで長くボールが持てるようになり、最後のひと押しができるようになったので打者の手元でボールが伸びるようになりました。
リリーフに対する思い
腕組みをする甲斐野 央投手(東洋大)
こうしてストレートの質を上げてきた甲斐野投手。ただ、「いくら154km/hと言っても、ストレートだけでは打たれてしまうんですよね。この春もロッテ二軍と練習試合をさせていただいたのですが、福浦(和也)さんに簡単に真っ直ぐを打たれてしまったので、変化球とのコンビネーションは大切だと思います」とストレート頼りにはならない投球を目指している。
甲斐野投手は動画を見て、研究する時間も長いという。「自分が投げた試合は必ずビデオを見返して、キャッチャーと『この場面は、このボールでも良かったね』と、会話を交わして反省をしています。
マウンドでどんなに冷静でいたつもりでも、自分では気付かなくて、キャッチャーやベンチが気付いていることもあるので、客観的な意見を聞いて引き出しを増やし、次に同じようなシチュエーションになった時に活かせるようにしています。もちろん、プロの選手の動画もよく見ていますし、ピッチャーだけじゃなくてバッターの動画や打撃理論を語っている番組なども見て、参考にしています」
また、現在はリリーフ役を務めている甲斐野投手だが、「先発して完投するのが理想だと思いますし、どこを任されてもやれるという自信はありますが、高橋(昭雄)前監督から『実力がないから、後ろをやらせているわけではない』と言ってもらいましたし、リリーフは全試合に関われるじゃないですか。チームが勝つためなら『よし、やってやる』という気持ちになるので、性格的にもリリーフは向いていると思います」。
そこで、今冬のオフシーズンのテーマにしたのは「春のリーグ戦を投げきる体を作ること」だった。「肩、ヒジ、腰、下半身と、投げるたびに体が張っていては連投ができないので、毎日、ブルペンに入って週2日は投げ込み。キャンプでは毎日、100球以上は投げていました。この春のオープン戦では1イニングですが3連投を試しましたが、これまでと違って体の張りもなく状態も良いので効果があったのだと思います。もちろん、投げた後はアイシングをして風呂上がりには柔軟体操とケアもしっかりやっています。ケガが一番ダメですからね。高校時代はケガをしても大丈夫と思っていたのですが、無理をすると取り返しがつかなくなることもありますし、ケガはある程度、予防できるものだと思いますから」
今年の目標はグランドスラム(リーグ戦の春、秋と大学選手権、明治神宮大会の4冠)という甲斐野投手。「難しいことは分かっていますが、目標として掲げたからにはチーム一丸となって勝利のために戦っていきたい。そして、個人としては防御率0.00を目指します。それぐらいの気持ちじゃないと勝てませんからね」。昨年はリーグ戦を連覇したものの日本一に届かなかった東洋大を頂点へ導けるか。大型右腕の新たな挑戦が始まろうとしている。
文=大平 明