打撃に特化したスパイクなど開発!元球児・田林正行さん(ミズノ)に聞く!
現在、ミズノから昨年12月に発売されている硬式野球初心者用「プライムバディ」スパイクと2月に同じくミズノから発売される打撃に特化した「PSシリーズ」スパイク。いずれもこれまでの野球スパイクの常識を覆すハイクオリティーかつ、選手にとって最適なパフォーマンスを引き出すスパイクとして話題を集めている。
では、このスパイクによって私たちはどのようなことができるようになるのだろうか?今回はプライムバディとPSシリーズの企画担当者であるミズノ株式会社・グローバルフットウェアプロダクト本部・クリーツ企画課の田林 正行さんに、スパイクの機能性や、そこに込められた想いについて聴きました。
甲子園準優勝投手が考えた「選手のパフォーマンスを引き出す」スパイク
プライムバディとPSシリーズスパイクの企画担当者 田林 正行さん
――最初にご挨拶して驚きました。田林さんは2002年夏の甲子園・智辯和歌山(和歌山)が準優勝した時のエース投手ですよね?そんな田林さんがなぜ今回、この「プライムバディ」と「PSシリーズ」を企画担当するようになったのですか?
田林 正行さん(以下、田林) 僕は智辯和歌山を卒業した後、大学でも野球を続けていたのですが、大学4年で野球を辞め、銀行員の道にいったん進みました。
ただ、その中で自分は野球で育ててもらったので、そこを生かした仕事をしたいと考えた時、ちょうど弊社が全国的に中途採用をしていたので、一年半後にチャレンジしました。
その後、2年前に営業から異動して、今回がはじめてのスパイク企画担当になります。
――では田林さんにとって現役時代、スパイクとはどのようなものでしたか?
田林 野球選手にとって一番重要なのはグラブと思いがちです。実際、オーダーもしますし、自分のこだわりがみなさんあると思います。ただ、試合において実際に打球が飛んでくる割合を考えれば、実は少ない場合もあります。
それに対して、スパイクは打つにしても投げるにしてもすべてのプレーにかかわってくるもの。選手にとっていいプレーを引き出すのがスパイクです。
ですから僕にとっても野球選手にとっても、スパイクは重要なアイテム。そこを僕も伝えていきたいです。
柔らかく・軽く・動きやすい。新入生に格好の「プライムバディ」
インタビュー中の田林 正行さん
――そんな想いの上に立った上で創り上げられたスパイク2種類ですが、まずは「プライムバディ」に対する考え、特徴について教えて頂けますか?
田林 この商品は小学生から中学生になる時など「はじめて金具スパイクを履く際に使ってほしい」という想いから考案しました。特徴としては軽いことはもちろんですが、ポイントのスパイクから金具付きのスパイクに変わっても足に突き上げる感覚がないCAソール(通常金具)になっています。
さらに私たちは「足に負担が少ないスパイク」は前提条件として、よりいいパフォーマンスを引き出すため、アッパーを1枚で成型することによる柔らかさにもこだわっています。
――実際に「プライムバディ」裏を見ると……。付いているのは金具だけではないんですね?
田林 そうなんです。前足部や中足部のところに樹脂製のスタッドが付いているので土の上に立った時の突き上げ感が緩和されます。
実際、僕もそうだったのですが、ゴム製のポイントスパイクから金具スパイクに変わる時には不安もあるし、ザクザク突き刺さる楽しみもある。そこは大事にしながら、足への負担を減らすことを目指しています。
――インソールにも特徴があると伺っていますが……。
田林 インソールについても従来のものより約1.5倍のグリップ力があるものとなっているので、足の横ズレが少なくなって、思い通りに動くプレーをサポートできるようになりました。インソール1つでスパイクが持っている力を引き出してくれるので、インソールは重要だと思います。
――ということは、金具スパイクにはじめて触れる新入生にとっては、格好のスパイクですね。
田林 そうなんです。さらに、プライムバディはCAソールなどの力を借りて、あらゆる方向への強い蹴り出しや加速ができます。いわば野球の基本的な動きに対応できるタイプですので、ここで力を付けて頂いてさらに速く反応する必要がある場合は、さらなる段階のスパイクを使って頂ければと思います。
打撃向上に特化した「PSシリーズ」
PSシリーズ(左)とプライムバディ(右)
――さきほど田林さんが言われた「さらなる段階のスパイク」として、ミズノは2月に「PSシリーズ」というスパイクを新発売します。これはどのようなところに主眼をおいたスパイクですか?
田林 これまでスパイクにおいて大きなウェイトを占めていたのは「速く走る」といった部分でした。ただ、野球のプレーにおいては「速く走る」だけでは選手のプレーを満たすことはできません。そこで今回は「打つ」という部分に発想を変えて、これまでの動きを妨げることなく、バッティングをよくしていくスパイクを創ろうと考えました。
――では、PSシリーズの特徴について聴かせてください
田林 端的に言えば「スイング時にいい体勢を作る。スムーズに動く」をサポートする機能。具体的には金具だけでなくポイントも付けることによってスムーズな回転動作を生み出す形になっています。
――その配置については長い時間をかけて苦心された部分もあったと思います。
田林 私だけでなく、開発チームも含めてチーム一丸となって野球動作の解析からはじまり、バッティング時の足への力のかかり方や体格の変化、「打てる2番打者の出現」など戦略の変化も含めて最大限発揮するスパイクにしました。
ですので、企画のスタートから発売まで2年くらいかかりました。
――アッパーにも大きな特徴がありますね。
田林 メッシュにコーティングが施されており、スイング時の動きやすさに加えて、見た目でインパクトを与えるものになっています。
「PS」には打球を遠くに飛ばすことを意味する「POWER(パワー)」と弊社のバット・手袋・アパレルとを組み合わせた強さによる「SYNERGY(シナジー)」という意味が含まれているのですが、このアッパーには回転動作を生むと同時に、足の甲やかかとは強く作ることによってインパクト時などに必須の「止まる」動作も出しやすいようにしています。
考えずして、自然にいい動きをできるようにする。かつ「カッコよさ」も出す。これがPSシリーズの大きな特長です。
――実際、昨年12月の「ミズノアンバサダーミーティング」でアンバサダーのプロ野球選手たちに聞いても「履きやすい」という声が多く聞かれました。
田林 いろいろな選手に履いて頂いて、安定感を実感頂けたのはよかったと思っています。マエケン(前田 健太)さんにも履いて頂いて感想を頂いた時も「安定感がある」という話もあったので、投手にも活用できると思っています。
「プライムバディ」「PSシリーズ」を履いた選手たちが活躍するのが夢
プライムバディとPSシリーズスパイクを履いた球児たちが活躍することを願う田林 正行さん
――では、改めてこの「プライムバディ」「PSシリーズ」を履く上でのアドバイスを田林さんからお願いします。
田林 まず「プライムバディ」についてはオーソドックスなものですので、誰にでも履けると思いますし、思い切って走り回ってもらいたい。
まずはプライムバディを履きながら野球の知識を覚えてもらって、「打球を遠くに飛ばしたい」「ホームランを打ちたい」と思った時、「PSシリーズ」を選んで頂ければと思います。
――ということは、自分が高校球児だったら履いてみたいスパイクですか?
田林 もちろんです!自分が高校生だったころにこんなスパイクがあれば、もっといいプレーができたと思います。ひょっとしたら、この仕事はしていないかもしれませんが(笑)
――そんな田林さんにとって、現在の夢はどんなことですか?
田林 この「プライムバディ」「PSシリーズ」を球児の皆さんが履いてくれるだけでもうれしいですけど、彼らが甲子園で活躍してくれて「このスパイクのおかげです」と言ってくれれば、これほどうれしいことはないです。
――では、最後に田林さんからメッセージをお願いします。
田林 2月に発売された「プライムバディ」、2月に発売される「PSシリーズ」、これは僕がはじめて企画担当としてかかわったスパイクなので、選手たちの反応がすごく楽しみです。
特に「PSシリーズ」は高校野球のトップ選手に履いてもらいたいし、1人でも多くこのスパイクを履いた選手たちを見たいと思っています。
――今回は貴重なお話、本当にありがとうございました。
田林 ありがとうございました!
(文・寺下友徳)