Interview

内川 聖一選手(福岡ソフトバンクホークス)ケガの時期は「プラス要素」に変えられる【後編】

2017.12.21

 クライマックスシリーズファイナルステージでの4試合連続本塁打に、日本シリーズ第6戦9回裏に横浜DeNAベイスターズの守護神・山﨑 康晃から放った起死回生の同点アーチ……。2017年・レギュラーシーズンでは2度の長期離脱に見舞われても、「大舞台に強い」福岡ソフトバンクホークスのキャプテン・内川 聖一の真骨頂は健在だった。
 では、内川選手はなぜここまで大舞台で絶対的な強さを発揮できるのか?今回は高校最後の夏をはじめ、球児の皆さんが必ず直面する「大舞台」で力を出す方法を、内川選手自身の観点でメンタルと栄養学から、さらに「あの」日本シリーズ第6戦の本塁打に至る考え方も本邦初公開。
 前編では「緊張」を10割を超える「MAX」の力に変える考え方と、その考えを支える食事について話してくれた内川選手。後編では長期離脱時の栄養、メンタルコントロール、そして日本シリーズでのホームランについて語って頂いた。

内川 聖一選手(福岡ソフトバンクホークス)「大舞台で力を出す」メンタルと栄養学【前編】からよむ

ケガの時にこそ「冷静に自分を見る」

内川 聖一選手(福岡ソフトバンクホークス)ケガの時期は「プラス要素」に変えられる【後編】 | 高校野球ドットコム
内川聖一選手(福岡ソフトバンクホークス)

――クライマックスシリーズでの4試合連続本塁打、日本シリーズ第6戦での本塁打などポストシーズンでは大活躍だった内川選手ですが、2017年のレギュラーシーズンは2度のけがによる長期離脱がありました。まず、その時の栄養摂取はどのようにしていたのですか?

内川 聖一選手(以下、内川): 僕ら(35歳)くらいの年齢になると、休んでいる間に体重を増やすようなことはあってはならないんです。ですから、こまめに体脂肪や筋量は計測して、トレーニングの部分でもシーズン中とは違ったトレーニングをしました。
 どうしても運動量が落ちるので、そういったちょっとした工夫はしました。

――最終的にクライマックスシリーズ、日本シリーズの活躍につながるような要因は、今振り返ってみると、その中にあったのですか?

内川:(7月25日に左手母指基節骨尺側基部の剥離骨折が判明した時)「2カ月は(試合に出場することは)厳しいでしょう」という診断でした。その時僕は正直「これではクライマックスシリーズや日本シリーズに出ることも厳しい。間に合わないかな」という感想を最初に持ったんです。もちろん、ケガの回復を早めるための努力は必要だと思いましたけど。
 となると、張り詰めた気持ちを2カ月持ち続ける必要はない。かつ真夏でしたから。しかも左手は固定されているのでできることも限られている。ですので、僕は筑後の2軍施設で散歩や炎天下での階段昇り降りをしつつ、こんなことを考える時間があったんです。
 「俺、シーズン前にこういうバッティングをしたかったよな?こういう形で打とうとしていたよな?」

――なるほど。

内川:どうしてもシーズン中だと、今の自分の状態や、過去の自分、その日の対戦相手など、いろいろなことを考えてしまうし、考えなくてはいけない。細かい微調整がすごく必要になってくるんですよ。
 でも、けがをしていた時期は対戦相手もなく、過去の自分ともデータを通じしっかり向き合える。そこで「俺、こういうバッティングをしたかった。もうちょっと、こう打ちたかった」ということを思い出して日々を送れた。これが僕にとってプラスだったと思います。

内川 聖一選手(福岡ソフトバンクホークス)ケガの時期は「プラス要素」に変えられる【後編】 | 高校野球ドットコム
内川聖一選手(福岡ソフトバンクホークス)

――では、「こういうバッティングをしたかった」とは具体的に言うとどんなバッテイングになりますか?

内川:「もっとボールに対してシンプルに打つ」ということです。技術的な引き出しは長年やってきたことでたくさんあるので、ボールにバットをどうぶつけるとか、トップをどうするのかとかは毎日変化しながらやっていくものと思っていたんです。「でも、それは違うな」と。
 「もっとシンプルに構えて、動きを少なくして。『バン』とボールに力でなく、スピードで打ちたい。そういう感覚で今シーズンの最初にやっていたな」と思い出したんです。トップからボールのインパクトまでの速さ・鋭さをもう一度、求めないといけない。そう思ったんです。

――内川選手に言われてみるとクライマックスシリーズと日本シリーズの本塁打はまさにその形でした。

内川:力でなく、自分のバットがホームランになる角度で入り、打球に角度が付いてホームランになってくれる。これが僕のホームランの特長だと思います。「シンプルにバットを引いて、出して、角度が付いてホームラン」というイメージで打ちました。

――そう考えると、高校球児にもよくある「けがをした」際に振り返る時間は大事ですね。

内川:大事だと思います。しかも実は、自分が実際に打たなかったり、投げなかったりすると「こうやって打ちたいな。こうやって投げたいな」といった、いいイメージが湧いてくる。他の選手の姿を見ると「ああ、アイツのこういうところがいいよな」と発見できる。
 冷静に一歩自分を引いてみることはプレーしないからこそできることなので、休んでいる時期をマイナスにせず「今度、自分が復帰した時には過去の自分よりプラスになってやろう」と思いながら、生活してもらえればと思います。
 現に自分も高校時代(大分工)時代はそうでした。踵の手術も3回したし、プレーできない時間もあった。その時、自分が持っていた感情が「今の自分と同じ」かと言うとそうではありませんが、当時「普通に野球ができる環境はありがたい。こんな幸せなことはない」と思えたことが、今に至るきっかけになっています。
 日々の生活の中で「なにか自分が得るもの」を見つけることが、すごく大切なことだと思いますね。

[page_break:日本シリーズ第6戦の本塁打に秘められた「5割論」]

日本シリーズ第6戦の本塁打に秘められた「5割論」

内川 聖一選手(福岡ソフトバンクホークス)ケガの時期は「プラス要素」に変えられる【後編】 | 高校野球ドットコム

内川 聖一選手(福岡ソフトバンクホークス)

――しかしながら、ここまで内川選手に語って頂いたことがベースになるとしても、日本シリーズ第6戦・9回裏に横浜DeNAベイスターズの守護神・山﨑 康晃投手から放った同点アーチはすごかったと思います。

内川:山﨑くんは「シンカー」と言っていると思いますが、僕の打った感覚はツーシーム。計算通りでした。「そうやって打つよね」という感じです。

――「そうやって打つよね」というのは?

内川:まず、あの試合が山﨑くんとの初対戦ではなかったこと。第5戦でも対戦してレフト前にヒットを打ったんですが、ここでウチの打者が打ったヒット(今宮 健太・内川・松田 宣浩)はみんなゴロ。9回表の最後のアウトもゴロだったんです。
 そこで僕は「あのツーシームに対して、ゴロを打ったら負けだな」と考えました。次にフライを打つ確率を上げるためには、どのボールを打ったらいいかを考えました。
 ですので、あの打席ではホームランを打つことよりも、「フライを打ったら俺の勝ちだ」くらい割り切って打ったんです。

――それは緊張感を強いられる展開の中で、すごく大胆な考え方ですね。

内川: 「普段ゴロになるボールでフライを打たれると、バッテリーも考えてくれるだろう」と。「『もしかしたら自分の調子が悪いのかな』とか、色々考えてくれるんじゃないかな」と思ったので、そこまで勝手に決めて打ちました。

――普通は「ここで負けたら3勝3敗のタイにされちゃうな。どうしようかな。打ちたいな」と思ってしまうんですが……。

内川:究極の場面だからこそ、どっちも追いかけたらどっちもダメになるんです。この場面で「フライは打ちたいけど、フライでアウトになるのはイヤ」となると、2つを追いかけてしまうことになる。そうなると結果は出ない。
 でも、どっちか条件を捨てたら「5割」は打てる確率が出るんです。

――「5割」ですか?

内川:プロ野球選手は一年間通して3割打てれば素晴らしいと言われる世界ですが、それは「一年間通して」だから3割と言われるだけ。でも、一打席の中で言えば「アウトになるか、出塁するか」、5割の確率です。打席ではその「5割」を自分で信用するしかないんです。
 でも「アウトになったらどうしよう。でも、こう打ちたい」と思っていてはその5割の確率もなくなってしまう。確率はどんどん減っていくんです。ならば「5割の確率」を求めて打った方がいい。あの打席で言えば「フライが上がればアウトになってもしょうがない」と思えたことがポイントでした。

――ということは、ホームラン以前にフライを打てたことで自分としては勝ちで、なおかつ結果も出た。

内川:そういうことです。あとは、人間は動くものを一生懸命捉えようとすると、さらに自分が動いてしまう。だからゴロになる。逆に見えたところよりも下を振ることでフライになる。自分の振るところにボールを捕まえることがインパクトですから、そこに一生懸命行こうとせず、来たボールを捕まえてあげることが大事ですね。

「今の自分」を認め、「苦手・イヤ」を武器に変えよう

――2017年はチームとしては最高の結果が出た一方で、内川選手にとっては先ほど言われた様々なことを考える一年でした。

内川:自分の反省点としてはチームが苦しい時にケガをしてしまったこと。チームがいい時も、苦しい時もグラウンドに立っていたい想いはいっそう強くなりました。
 日本シリーズも横浜DeNAベイスターズには勝ちましたが、今永 昇太くんや濱口 遥大くんには苦しめられ「まだ頑張らなきゃいけない」と思えた中での日本一。自分にとっては2018年に頑張る原動力を与えてもらった一年でした。

――2018年には2017年に積み残した「2000本安打」もあります。

内川: あと25本なので、個人的な記録を早く達成した上でチームの日本一へ向かっていきたいです。

――では最後に、センバツや最後の夏など、大舞台へ向かう高校球児へ向けて、内川選手からアドバイスをお願いします。

内川:まずは「今の自分を認めること」。自分の弱いところや自分が「イヤだな」と思っている部分は見たくないものなんですが、そこを見つめることで「克服しなきゃいけない」という気持ちになり「克服しよう」となる。
 そして苦手やイヤなことを克服できたら、これほどプラスになることはない。「克服した」ことは武器になります。自分の弱点や苦手、イヤなことから目をそらさずに、そのことを克服するための原動力にしてもらえれば僕は嬉しいです。

(あとがき)
 30分近くに渡って日本一のキャプテンから語られた金言の数々。ぜひ、高校球児の皆さんには内川 聖一選手の言葉に散りばめられたヒントを胸に、春に向かって実りある練習に取り組み、内川選手のような「大舞台に強い男」の称号を獲りに行ってほしい。そのカギは自分自身が握っているのだから。

(文・寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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