Interview

吉田 正尚選手(オリックス・バファローズ)前編「自分で見つけたスイングが一番強い」

2017.12.04

 身長はプロ野球選手としては小柄な部類に入る173センチながら、豪快なフルスイングから放たれる飛距離満点のホームランで野球ファンを魅了するオリックス・吉田正尚選手。プロ2年目の今季はルーキーイヤーに続き、腰の故障による長期離脱を余儀なくされ、64試合の出場にとどまったが、228打数で12本塁打をマーク。フル出場を果たせれば本塁打王争いに名乗りを上げることが予想される若き和製大砲に「ホームラン」のテーマをぶつけるべく、大阪市此花区に位置するオリックスの選手寮「青濤館」を訪ねた。

重いバットを振り続けた日々がスイングの土台を築いてくれた

吉田 正尚選手(オリックス・バファローズ)前編「自分で見つけたスイングが一番強い」 | 高校野球ドットコム

吉田 正尚選手(オリックスバッファローズ)

前回の記事を読んでくれた友達や知り合いからは『あんなこと考えてたんだ』といった感想をもらったりしました。けっこう好評だったみたいで」

 ルーキーイヤーを終えたばかりの吉田選手に「バッティング」をテーマにしたインタビューをおこなったのは2016年秋。練習終了後、寮内の一室に現れた風格たっぷりのスラッガーは、約1年前の取材のことをしっかり覚えていてくれた。
「今回のテーマは『ホームラン』でしたよね」
「そうなんです。今回もどうぞよろしくお願いします」「わかりました!」

 小1の時に地元・福井市の軟式チーム「麻生津ヤンキース」に入団し、野球人生をスタートさせた吉田選手。まずは小学生時代のホームランに対する思いを振り返る形でインタビューを開始した。

「ホームランというよりは『遠くへ飛ばしたい!』という気持ちがものすごく強かったです。スイングスピードを速くできれば、体の小さな自分でも遠くへ飛ばせるんじゃないかと思い、小2の時に中学生が使うような1キロくらいの重さがあるマスコットバットを父に誕生日プレゼントで買ってもらったんです。最初は重いバットに自分が振られてしまうような状態で全然振れなくて。『この重いバットが軽く感じられるようになりたい! このバットを使っても体がぶれることなく振れるようになりたい!』という一心で毎日、マスコットバットをがむしゃらに振り続けました」

 素振りをする際はフォームのことを意識しながら振っていたのだろうか。
「いえ、形の事は一切気にせずに振っていました。スイングスピードを上げることと『どうすればインパクトで力を集約できるか、どうすれば自分の持っているパワーをロスなくボールに伝えられるか』ということをひたすら身体で考え、追求し続けた。それが正しいやり方なのかどうかは当時はわからずにやっていましたが、今、振り返ると、あの時に形から入らず、がむしゃらに振り続けたことが、自分のスイングの『土台』を築いてくれた気がします」

[page_break受け身の姿勢から本物の打撃は生まれない]

受け身の姿勢から本物の打撃は生まれない

吉田 正尚選手(オリックス・バファローズ)前編「自分で見つけたスイングが一番強い」 | 高校野球ドットコム
吉田 正尚選手(オリックスバッファローズ)

――世の野球少年たちにも「最初から形を気にするな」と言いたくなりますか?
吉田 正尚(以下、吉田)そうですね。小学生のスイングを見てアドバイスを求められる機会があった時も「土台ができていないのに、形のことだけをいくら言ってもなぁ…」と思ってしまう。仮に形から入って指導したとしても、体が成長して、大きくなった時にその形が合わなくなっている可能性も高い。現場では「こう振れ」と形から指導する指導者が多いのかもしれないですけど、最初から形を押し付けるんじゃなく、高校生になるくらいまでは形は気にせず、ガンガン振ることを大事にしたほうが将来的にいい打者に育っていけるような気がします。

――まずは土台。形を気にせずに強く振ろうとするうちに自然といい形も生まれるかもしれない?
吉田:そうなんですよ。最初から形を気にするよりも、強く振る事を意識し続ける中で、結果的にその時の自分に1番合ったいい形が生まれるんじゃないかと思う。そして、その形はほかの誰かに教わった形よりも断然強い。自分の感性を信じ、考え、試行錯誤を繰り返すことで身につけたものは強いし、打撃の引き出しも自然と増えていく。

――自分で見つけたものが1番強い。
吉田:そう思います。だから「自分で見つけるんだ!」という気持ちを強く持つことが大切。見つける過程で悩んだら、指導者の方々に助言を求めに行けばいいし、納得できるアドバイスがあればミックスさせていけばいい。でも最初から教えてもらう受け身の形ではバッティングはなかなか本物にはなっていかないと思うので。

――探求心をもちながら自分で自分の打撃を追求していく。もがいたり悩んだりすることはあっても、日々の野球が楽しくなりそうですね。指導者に「こうやって打て!」と押し付けられるよりも。
吉田:ぼくは探求心をもって、自分のバッティングと日々向き合うことが楽しかったし、今でもその気持ちがあります。でも、それは指導者から「こう打て!」と押し付けられたことがなかったことも大きかったかもしれません。やはり大事なことは野球を好きでいることですよ。好きじゃないと向上心も生まれませんし、継続することも難しくなる。ぼくは日々のスイング数も「1日何百回」といったノルマを設定する必要はないと思っています。時には10回、思い切り振って終わる日があってもいい。ガチガチにノルマを設定すると練習が義務になってしまい、野球が楽しいという気持ちを失ってしまうことにつながりかねないので。

[page_breakホームランはベストスイングの延長線上にある]

ホームランはベストスイングの延長線上にある

吉田 正尚選手(オリックス・バファローズ)前編「自分で見つけたスイングが一番強い」 | 高校野球ドットコム

吉田 正尚選手(オリックスバッファローズ)

――吉田選手がゲームの打席の中で意識していることに興味があります。
吉田:基本の意識は「強く振る。自分のベストスイングをする」ですね。自分にとってのベストスイングとは素振りの時のスイング。ホームランを打った時のフォームを確認すると、素振りの時に強く振った形とほぼ同じなんですよ。素振りの形が打席で再現出来た上でバットの芯でとらえ、インパクトポイント、タイミングが合えば結果、ホームランや長打になるという感覚。でも試合では、素振りの時のベストスイングをさせないよう、相手バッテリーは形を崩しにくる。崩されてしまうと凡打になる確率が高くなる。なので、「ベストスイングの形を打席の中で再現する確率を高くすること」がホームランを増やす上で大きなポイントのひとつになってくる。

――ベストスイングができた先にホームランがある、という感覚。打席の中でホームランを狙うという意識はない?
吉田:「ホームランを狙う」という意識はないです。自分の場合、ホームランを意識して気持ちがフェンスの向こう側へいってしまうと、スイングが崩れ、ベストスイングから遠ざかってしまう。意識の上ではあくまでも「自分のベストスイングをする」ですね。

――前回のインタビューで「インパクトシーンに至るまでのスイング軌道が3種類ある」という話をしてくださったじゃないですか。「大根切りのような上から叩くイメージのスイング、レベルに入れていくスイング、少し下からバットを入れていくスイングの3種類があって、それを常に使い分けている」と。
吉田:しましたねぇ。今シーズンも常に3種類のスイングを使い分けていましたよ。ぼくは「ピッチャーのボールを線でさばきたい」という気持ちがあるのですが、その確率を高めるためには3種類のスイング軌道が自分の場合は必要だなと。

――投球軌道にバットが長く入ったスイング軌道を確率高く手に入れるため。
吉田:そうです。3種類のスイングはその確率を上げるための引き出しです。例えばアンダースローピッチャーの下から浮き上がってくるような軌道に対しては、上からかぶせ気味にバットを入れたほうがラインが合いますし、動くツーシームや落ちるカーブに対しては少し下からバットを入れたほうが軌道が合いやすい。基本的にはそういう感覚で使い分けています。

――今、対戦しているピッチャーの球筋、角度、持ち球の軌道といった特性を踏まえた上で、使用するスイングをその都度選択していく。
そうです。自分の場合、1種類のスイングだけでは、プロの世界で思うような数字を残せない感覚があるので。3種類のスイングの使い分けは必須です。

 後編では2017年型のフォロースルーが生まれた背景、そして吉田選手の打撃スタイルに迫ります! 

(文・服部 健太郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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