Interview

安田尚憲(履正社)のホームラン論「振ってから回す」【前編】

2017.10.25

 今年度のドラフト上位指名候補と目される履正社安田尚憲選手。高校通算65本塁打を記録した超高校級スラッガーに「ホームラン」のインタビューテーマをぶつけるべく、大阪府茨木市に位置する履正社高校野球部グラウンドを訪ねると、188センチ95キロのボディを誇る、ビッグな18歳が柔らかい笑顔とともに出迎えてくれた。

「『ホームランを打とう!』という特集に掲載するインタビューなんですね。わかりました。今日はよろしくお願いします!」

パワーで劣っていると感じた時期はなかった

安田尚憲(履正社)のホームラン論「振ってから回す」【前編】 | 高校野球ドットコム

安田尚憲(履正社)

――小1で野球人生をスタートさせた安田選手。記念すべき人生初ホームランはいつ生まれたのですか?

安田尚憲選手(以下、安田):小5の時ですね。センターオーバーのランニングホームランでした。

――少年野球時代に放った本塁打数は覚えていますか?

安田:10本くらいです。軟式だった小学生時代はフェンスがないグラウンドで試合をするケースが大半だったので、全部ランニングホームランでした。チームの中では遠くへ飛ばせる方だったとは思います。

――生来、右利きの安田選手が左で打つようになったのはいつですか?

安田:野球を始めて間もない小1の時です。PL学園でプレーしていた12歳上の兄(亮太さん)に「左打ちにせんか?」と勧められて。後に知ったのですが、「今は左打ちが多いけど、おまえが大きくなったころにはきっと右打ちが多い時代が来るはず。ならば左打ちにしたほうが有利」というのが勧めた理由だったそうです。

――お兄さんは時代の波を読んだわけですね。

安田:読んだつもりだったみたいです。でも結局は今も左打ちは多いままで。当初の兄の狙いからすれば、完全に読み違えてるんですけどね(笑)。

――吹田市立豊津中では元阪神タイガースの赤星憲広氏がオーナーを務める硬式野球チーム「レッドスターベースボールクラブ」に所属。中学3年間で放った本塁打は何本だったのですか?

安田:シニアやボーイズといった組織に属さないチームだったので、実戦は練習試合が大半でした。学年の中では打っていた方だと思いますけど、それでも3年間で5本くらいです。

――身体は小、中学時代から大きかったのですか?

安田:学年の中では常に大きかったです。小学校を卒業する時に既に178センチ、80キロありましたから。

――そんなに大きかったんですか!

安田:今思うと、やばかったですね。中学を卒業する時点で185センチ、90キロくらいでした。

――常に大きかったということは、パワーにも常に恵まれていた?

安田:パワーで劣っていると感じた経験はなかったです。きちんととらえればボールは飛んでいったので、ミートの精度やタイミングを合わせる能力を向上させることができれば、ホームランが出る確率も高まるのかな、という思いが常々ありました。

――レッドスターベースボールクラブ時代、バッティング面で授かった印象的なアドバイスはありますか?

安田:中学時代、指導者からは「今はとにかく強く振って引っ張れ!」と言われ続けました。なので、ちょこんとレフト前へ運んでも怒られましたね。「そんなヒットいらん。それなら大きな外野フライの方がましだ」と。だから、前の肩が早く開こうが、気にせず、強く引っ張ることだけを考え続けました。後に当時の監督から聞いたのですが、細かいフォーム上のことは高校に入ってから向き合えばいい、という方針だったようです。中学時代は強く振れる土台を築くことに重きをおいた指導が徹底されていましたね。

[page_break:高1の秋に得た至高のイメージ]

高1の秋に得た至高のイメージ

――中学卒業後は履正社高校に進学。1年夏からベンチ入りを果たしましたが、高校野球にすんなりと適応できた感覚はあったのでしょうか?

安田:いえ、1年生の時はインコースがぜんぜん打てなかったんです。中学の頃は投手のボールのスピードがそこまで速くないので、多少早く前の肩が開いても内角をさばけたのですが、高校に入って対戦するピッチャーのスピードがぐっと上がってくると、それまでの打ち方ではインコースがさばけなくなってしまって。

 詰まりたくないからと、体を先に回すイメージで打つと、ますます前の肩が早く開いて、ボールとの距離がうまくとれず、結局差し込まれてしまう。差し込まれたくないからと、ポイントを前の方に置いてしまうと今度はいい当たりがライト方向へのファウルになってしまう。そんな悪循環に陥っていたので、ホームラン数も思うように伸びませんでした。

――このインタビューの前に岡田龍生監督とお話しする機会があったのですが、「1年の冬が明け、2年の春を迎えた時にホームランが量産できる打者に変身していた。これなら4番を任せても大丈夫だと思った」とおっしゃっていました。

安田:実は高1の11月にホームランを打つコツのようなものがわかったんです。

――その話、もっとお聞かせください!

安田:自分の中でのイメージの話になるのですが、右肩をとめたまま、体の正面となるおへその前でボールをインパクト、とらえるんです。そしてバットのヘッドが返った後に遅れる形で、後から体が回っていく感覚。このイメージで打つようになってから、飛距離が増し、苦手だったインコースもさばけるようになった。結果的にホームランが出る確率が飛躍的にアップしたんです。

安田尚憲(履正社)のホームラン論「振ってから回す」【前編】 | 高校野球ドットコム
右肩をとめたまま、体の正面となるおへその前でボールをとらえる

――イメージとしては「振ってから体が回る」という感じですか?

安田:そうです! 言葉で表現するならまさに「振ってから回る」というイメージです。

――実際に安田選手が打っているシーンを見てもそのようなことをイメージしているような動きには見えないですが、安田選手の中では「振ってから回る」という意識の中でバッティングがおこなわれている。

安田:そうです。これはあくまでもぼくが打つときにイメージしていることであって、実際に自分のフォームを映像でみたら、振ってから回っているようにはとても見えないと思います。でも意識下では「右肩をとめた状態で体の正面でボールをとらえ、バットのヘッドが返るとともに、手が体の前を通り過ぎ、後から体を回していく」というイメージが自分の中にある。この意識の持ち方が自分にはバッチリとはまりました。

――イメージと実際に体がおこなう動きが異なることは珍しくないですものね。

安田:そうなんです。そこをきちんと理解してもらわないと、この話はややこしくなってしまうと思います。

――高1の11月に自分の打撃を開花させる、すばらしいイメージと出会えたわけですね。

安田:はい。得たその感覚を高1の冬の間に素振りやティーの反復で徹底的に体に染み込ませた結果、オフシーズン明けにホームランが量産できるようになった。2016年の3月から7月までで30本ほどホームランを打つことができましたが間違いなく「振ってから回る」というイメージを得たおかげです。

[page_break:逆方向への本塁打が増えた背景]

逆方向への本塁打が増えた背景

安田尚憲(履正社)のホームラン論「振ってから回す」【前編】 | 高校野球ドットコム

安田尚憲(履正社)

――今年は、逆方向への本塁打を放ったシーンが印象に強く残りました。昨年まではレフト方向への本塁打はほとんどなかったと思うのですが、バッティングの意識をなにかしら変えた結果なのでしょうか。

安田:引っ張ってホームランが打てるようになると、「次は逆方向へのホームランが打ちたい!」という欲が生まれたんです。高2のオフシーズンは「どうやったら逆方向へホームランが打てるか」ということばかり考えていました。でもぼくの場合、逆方向へ打とうとするとどうしても右のワキが浮いてしまい、バットのヘッドが下がる悪癖があった。そのためスライス回転の弱い打球になってしまい、レフト前ヒットは打てても逆方向のスタンドには届かなかった。

 右ひじを固定し、ヒジを支点にするイメージでリストターンをおこなうとインパクト時にヘッドが立ってくることがわかったので、オフシーズンはそのスイングを体に刷り込む練習を反復しました。レフト方向へホームランを打つコツをつかんだ感覚が生まれたのは高3の春ですね。

――差し支えなければそのあたりもお聞かせください。

安田:オフシーズンの練習で右ヒジを支点にし、ボールを上からつぶしていくようなイメージでスイングをすることでヘッドが立ち、バックスピンがかかった強い打球が打てるようにはなったんです。でも春になった頃に「逆方向に入れなくてもホームランはホームランだし、特にレフト方向に叩き込むことにこだわらなくてもいいか」と思い始めて。

――そうなんですか(笑)。

安田:入る点数が変わるわけでもないし、別にこだわる必要もないかと(笑)。そこで、しっかり踏み込んで強い打球をセンターへ打ち返す意識だけをもつようにしたんです。すると面白いもので、少し外角寄りのコースをとらえた打球が結果的にレフトや左中間スタンドまで届くようになった。ずっと求めていた、ライトへ引っ張ったような強い打球が逆方向へ打てるようになったんです。

――逆方向へのホームランを追求する意識を捨て、センターへ強く打ち返すことを意識するようになった途端に逆方向へのホームランが出るようになった。

安田:そうなんです。右ヒジが浮かない、ヘッドが立ったスイングができるようになった上で、センターへ強く打ち返す意識を持つと、自分の場合はいい打球が反対方向へ飛ぶことがわかった。面白い発見でした。

(インタビュー/文・服部 健太郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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