Interview

増田 珠(横浜)「日本一熱い表現者、目指す選手像は決まっている」

2017.10.22

 今年の高校生を代表する野球選手・増田珠横浜)。走攻守三拍子揃った総合力はもちろん、チームをひっぱっていくキャンプテンシーの高さ、大事な場面ほど力を発揮する勝負強さと、良い選手の条件をすべて揃えた選手だ。そんな増田のこれまでの歩み。これまで高パフォーマンスを発揮できる理由に迫っていく。

現在の野球観を築いたソフトボールの経験

増田 珠(横浜)「日本一熱い表現者、目指す選手像は決まっている」 | 高校野球ドットコム

増田 珠(横浜)

 増田珠が小学校1年生からソフトボール。長崎県はソフトボールが盛んな地域であり、増田がソフトボールが始めたのは自然な流れだった。そこで培ったものは大きかった。稲佐青空Aに所属した増田はエースとして活躍。ここで地肩の強さを培った。そして、当時の指導者の野球観も増田の野球選手のスタイルに大きな影響を与えた。

「いわゆるせこさとかはソフトボールから学びました。監督が実業団までプレーしていた方で、小技、ギリギリのプレーを教えてもらいました。打って走って守るだけではない野球の面白さだったり細かさだったりを教えてもらえたのは、楽しかったですし、やりがいを感じました」

 増田のプレーを見ると意識の高さが節々と感じられるが、それはソフトボールの経験が培ったものだった。そして野球を本格的に始めたの中学1年生。長崎シニアに所属してからだった。ソフトボールから硬式野球に移行し、当然ながらギャップを感じた。

「違和感しかなかったです。投げる距離も走る距離も長くなったので。最初はボールが速く感じなかったですね」

 次第に硬式野球の感覚にも慣れていき、増田はセンターのポジションを獲得。1年秋には強肩が買われ、投手に転向。そして中学3年には投打で素晴らしい才能を発揮するようになる。投手としては140キロを計測。打っては安定した打率を残す好打者として九州地区を代表する外野手へ成長。

 九州のシニア関係者は増田の能力を評価し、侍ジャパンU-15代表の選考会のリーグ推薦選手として増田を推薦。セレクションの舞台でも存在感を示した増田は、第2回 IBAF 15Uワールドカップの日本代表に選出。初めて侍ジャパンのユニフォームを背負う。増田は4番として出場したが、7位に終わり、世界一とはならなかった。

 ここでの経験は大きかった。
「海外の選手たちのレベルの高さを改めて知ることが出来たことです。U-18の時も思ったんですけど15歳の時もアメリカが圧倒的だったのでそういう点ではすごくありがたい経験でした」

 そして卒業後は憧れとしていた横浜に入学。1年春から公式戦に出場するが、なかなか結果が出なかった。
「やっぱり高校野球は違うなと思い、やっていけるかなと不安はありました」

 それでも少しずつ持ち味を発揮し、1年夏には1番センターとしてレギュラ―を獲得。この夏、名将・渡辺元智監督が監督として最後の夏を迎えていた。増田は1年夏から早速、活躍。準々決勝の横浜隼人戦(試合記事)。増田は9回表に勝ち越し三塁打で勝利に貢献。

「その1本で自信がつきました。ああいう場面でしかも追い込まれてからのヒットだったのであれがあったからこそ今があります」
この一打で自信をつけた増田は準決勝の桐光学園戦(試合記事)でも、1点ビハインドの7回裏に同点本塁打。8試合で29打数11安打、打率.379と1年生としては素晴らしいデビューを飾った。

[page_break:藤平尚真と目指した甲子園]

藤平尚真と目指した甲子園

増田 珠(横浜)「日本一熱い表現者、目指す選手像は決まっている」 | 高校野球ドットコム

増田 珠(横浜)

 そして1年秋は、憧れとしている藤平尚真と一緒に選抜を目指した大会だった。「絶対にいきたい」と強く生きこんだ増田だったが、8月後半、手首を痛めてしまう。休みながら、公式戦に出場。関東大会では、初戦で好左腕・鈴木昭汰(現・法政大)擁する常総学院と対戦(試合記事)。増田は2安打を打ったものの、初戦敗退。選抜が絶望となり、泣き崩れるエースの姿を見て「あれはきつかったですね。ベンチ裏はやばい雰囲気でした」とチームにとってショックが残る敗戦となった。

 増田は手首の状態を見て、11月までは守備まで。そして冬が明けても手首の状態は完治せず、検査をすると、手首にヒビが入っていた。痛み止めを飲みながらやっていたが、疲労骨折となってしまい、夏のことを考え、手術を決断。6月下旬に復帰した増田は国士館との練習試合。初打席で右中間へ本塁打を放つ。
「正直、自分でも持っているなと、仲間からもびっくりされました」と笑顔を見せる。3年ぶりの甲子園出場を狙う横浜にとって増田の復帰は大きなものとなった。

 そして夏に突入。準決勝まで思うような打撃ができなかったという増田。それでも21打数8安打、打率.380と結果を残しているが、自分のイメージ通りのバッティングができていなかった。映像を見ると、自分の課題が分かった。

「調子が悪くなってくると打ちたい打ちたいと気持ちがはやってしまって猫背になってしまうので、それを直すために体を起こしてから打席に入るようにしました」

 すると、すぐに結果となって現れる。決勝戦の慶應義塾戦(試合記事)の第1打席。先発・森田 晃介からだった。
「よくわからないですけど絶対にカーブが来るって思ってカーブ来るカーブ来るって待っていてよっしゃ来たと思ってバーンと打ちました」

 先制2ランで2点を先制。そして5回表の第3打席。「これは反応で打てました」と振り返った打席は大きな追加点となる3ラン。4打数3安打5打点の活躍で、甲子園出場に貢献。甲子園が決まった瞬間、藤平と喜ぶ増田。自分のことよりも、藤平が苦労している姿を思い出した。

「あの人が苦労しているのをそばにいて見ていたので。甲子園が決まった瞬間、今までの藤平さんの頑張りとかが思い出して、本当に良かったなって。そして、甲子園球場でセンターから藤平さんが甲子園のマウンドで投げているのを見ていてすごい感動しました。夢でしたので」

4割じゃダメなんです

 そして甲子園では、8打数4安打、打率5割を記録し、大舞台でもしっかりとを残した。2年秋になって、増田は副主将に就任。関東大会準々決勝まで進むが、健大高崎に敗れ、選抜を逃した。秋でも、打率.441、2本塁打、12打点と圧巻の打撃成績を残すが、増田自身、全く納得していない。

「4割じゃダメなんです。高校野球で5割、6割打たないとプロでは厳しいというのを聞いて、絶対1回はぶち破りたいと思っていたので。これまでしっかり振ってジャストミートするということを意識してましたが、さらに力強さをつけたいと思っていました」

 長打力もコンタクト技術も全て高めるために取り組んだオフシーズン。横浜はウエイト器具がないため、自重トレーニングが中心。ロングティーでは、良い角度でボールが上がるのをイメージしながら打っていった。

[page_break:ここまでの増田の活躍はどう表現するのか、それを考え抜いたことに尽きる]

ここまでの増田の活躍はどう表現するのか、それを考え抜いたことに尽きる

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増田 珠(横浜)

 ここまで増田の話を聞くと、イメージすることをとても大切しているように感じられる。それを聞くと、その大事さを答えてくれた。
「自分がイメージしてることを体で体現するということが大事だと思っています。ただ大体の人はそれが出来ないことが多い。でも、自分はそれを体現できるよう、野球だけではなく、いろいろな動作で意識してきました。例えば体幹トレーニングでも自分が先生がやっている通りに同じような姿勢をとることが大事なことだと思ってます」

 増田が1年夏から活躍できたのは、自分のイメージ通りする動きをしっかりと体現。そして自分の欠点もいち早く気づくことができるからだろう。そこに力強さが加わったラストシーズン。増田は驚異の活躍を見せる。3年春では、26打数15安打、打率.577、2本塁打12打点の活躍。

 県大会準決勝の星槎国際湘南戦では、プロ志望届を提出した本田仁海から先制適時打を打つなど、2安打1打点の活躍。「星槎にも、本田にも絶対負けたくなかった」と強く意気込んだ試合でも結果を残した。

そして夏でも冬から磨いてきた力強さが発揮された大会となった。神奈川大会では5本塁打を打ち、2年連続の甲子園出場に大きく貢献。ここでは精神的な成長が活躍につながったようだ。
「精神的な落ち着きというか4番として自分がどうあるべきかとかそういう大事なところで打てるからこそ4番なんだと改めて確認しました」

 そして迎えた甲子園。初戦で秀岳館と対戦。川端健斗田浦文丸のU-18代表左腕と対戦し、4打数1安打。ここで増田の夏は終わった。川端については「見たことがない球筋」と評しながらもすんなりと対応するのはさすがである。好投手相手にもすぐに対応ができるのか。やはりイメージすることだった。

「試合の前からイメージをしつくすことですかね。速い速いとイメージしていて打席に入ってなるほどねという感じです。だから一打席目は速く感じて、でも死球でおまけで塁に出れたので良かったです。二打席目はしっかり対応しようと思ってそれが出来たので良かったです」

 表現者として、増田は最後の夏まで高いパフォーマンスを発揮した。夏の大会後、U-18に選出された増田だったが、千葉工大戦で受けた死球の影響で調子を崩して、19打数3安打に終わった。増田自身、初めて味わう長期間の不調だった。

「自分が思っているイメージと映像で見る自分がだいぶ違っていてこんなに違うかと思ってそれを修正するのに時間がかかってしまいました」

 U-18大会後ではその欠点修正に努めた。
「トップがすごい下がっていたのでイメージとして上にあげてます。極端にやらないと上がってないのでイメージ的には結構上にしてるんですけど動画を撮ってもらって見ると自分の理想通りの位置にきているのでいいかなと思います」

 そして横浜入学時から決めていた高卒プロ入りを決断。目標とする数字は「2000安打」だ。そのためにはナンバーワンの野球選手になること。
「走攻守三拍子揃った面では、山田哲人選手、打撃技術では内川聖一選手、ハートの強さでは松田宣浩選手がいると思うんですけど、そういういい所が全部混ざったハイブリッドな選手になりたい」

 とても壮大な選手像だが、増田がこれまで見せてきたパフォーマンス、表現力を見ると、期待したくなる。プロで活躍したい理由はこれまでずっと見守ってきた母・美穂さんの存在がある。
「早く楽をさせてやりたいというか、僕は一人っ子ですけど3人分くらいお金をかけてもらったので早く活躍して返してあげたいと思ってます」

 熱さ、冷静さを兼ね備えた表現者・増田珠。これまで支えてもらった人々の感謝を胸にプロのフィールドでも人々を熱くするプレーを見せていく。

(インタビュー/文・河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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