Interview

櫻井 周斗(日大三)「苦しみを乗り越えた先に 甲子園出場が待っている」

2017.07.25

 今年の日大三の投打の主役が櫻井周斗だ。最速147キロのストレート、分かっていても打てない縦スライダーを武器に三振を量産。打っても高校通算31本塁打の長打力を持ち、さらに主将を務め1人三役務める大黒柱である。

 そんな櫻井の道のりを振り返ると、一つずつの壁を乗り越え、大きくなっていた選手だった。

挫折を力に変えて

櫻井 周斗(日大三)「苦しみを乗り越えた先に 甲子園出場が待っている」 | 高校野球ドットコム

櫻井 周斗(日大三)

 櫻井周斗が野球を始めたのが、小学校1年生の時。同時に投手も始め、小学校6年生の時にはヤクルトスワローズジュニアに選出されるが、怪我もあり、未出場に終わる。小学校の時からエリート街道を歩んでいるにように見える櫻井だが、一緒に選ばれた選手たちのレベルの高さを目の当たりにして「現実を知った。自分は全然ダメな選手だった」と振り返る。

 小川樹関東一)、櫻井陸朗八王子)など高校の強豪校で活躍する選手が多かったこのチーム。櫻井は出場無しに終わったのだから、そう思うのも無理もない。そして櫻井は、自宅から通える新座シニアに入部することを決めた。そのときは、全国大会にいくつもりはなかった。

 新座シニアは櫻井を大きくさせた3年間だった。新座シニアには、2011年の日大三の甲子園出場メンバー・金子凌也(現・Honda鈴鹿)が卒部生だった。金子の存在を知って、日大三に行きたいと思うようになる。入部当時から投手。今では打撃面でも、プロ注目の強打者だが、中学時代の櫻井の打撃は「まったくダメで、外野へ飛ぶのがやっと」というほど打力だったが、2年生のときに肘を剥離骨折してからは野手に専念。その後、懸命にバットを振り込み、また元西武の藤村雅人監督から技術的なことを教わり、技術的に開花。強打の外野手として活躍した櫻井は、日大三に行ける実力をしっかりと身に付け、日大三の門を叩いた。

 日大三では1年秋からレギュラー。しかし1年秋は打撃不振に終わり、結果を残せなかった櫻井は秋季大会の二松学舎大附戦で、スタメンから外れるなど悔しさを味わった。秋の大会が終わっても不振が続いていたが、恒例の年末合宿で、懸命にバットを振った櫻井は、春は打撃好調。春季大会では5割近くの数字を残し、夏につなげた。このまま、夏も野手として活躍するつもりだった。

 同時期、日大三は投手陣の故障者が続出。投げさせる投手もいない事態となった。

 中学時代、投手経験があり、強肩に自信があった櫻井は本格的に投手復帰することとなる。投手復帰が決まったは初登板の試合は、春日部共栄との練習試合。そこで6回無失点の好投を見せた櫻井は夏の大会でも登板することが決まり、3回戦の佼成学園戦、準決勝の東海大菅生戦で先発。

 東海大菅生戦では最速143キロを計測。「143キロが出たことは自信になりました」と語るように、2年夏は投手としての自信を深める大会となった。

[page_break:清宮だけには絶対に打たれたくなかった]

清宮だけには絶対に打たれたくなかった

櫻井 周斗(日大三)「苦しみを乗り越えた先に 甲子園出場が待っている」 | 高校野球ドットコム

櫻井 周斗(日大三)

 そして新チームが始まってから櫻井は投手の練習量を増やし、そして投手始めていた時から使っていたスライダーを本格的に磨いていた。自分の握りやすい、投げやすいスライダーを追求した結果、分かっていても振れない縦スライダーが完成した。140キロ台の直球と縦スライダーを武器に櫻井は6試合に先発して、44.2回を投げて、58奪三振の快投を披露した。そして都大会決勝では清宮幸太郎擁する早稲田実業と対戦。

 櫻井は清宮に対して「もし打たれたら、新聞では清宮が櫻井を攻略したと書かれると思うので、それだけは絶対に嫌だなと。絶対に打たれたくないと思いました」と闘志をむき出しにして、全力投球。結果、5打席連続5三振に奪い、櫻井は「清宮から5三振を奪った男」として強烈な印象を残したのであった。しかし8失点を喫し、サヨナラ負け。課題となったのは「制球力とボールの質」だ。

「決勝戦の映像を改めて見返したら、ボール先行になっていて無駄球が多かったこと。あとは打たれたコースは甘いボールだったこと。球数が多くなって、そういう球が多くなっていたと思います。後はボールの質。センバツまでキレのあるストレートを投げたいと思うようになりました」

 櫻井はキャッチボールの時からやや距離をとってライナー性で投げる練習を繰り返してきた。春先にはストレートに自信を持つようになり、そしてストレートとスライダー以外の球種を投げて、投球の幅を広げたい思いで、チェンジアップ習得にも取り組んだ。

 実はチェンジアップは、新チーム後から取り組んでいたが、なかなか投げることができず、秋では使わなかった。時間がある冬場で、握り、投げ方を研究。そして3年春の選抜前の練習試合で、チェンジアップで三振を取り、手応えを掴んだ櫻井は選抜に臨んだ。

 履正社戦(試合記事)でも櫻井は快投を見せる。プロ注目のスラッガー・安田尚憲から3三振、そして4番若林将平からも新球・チェンジアップで三振を奪うなど、計4三振。全国トップクラスの強打者コンビから計7奪三振を奪い、甲子園でもファンに強烈な印象を残した。

履正社打線はどんどん振ってくるので振らせやすい打線だと思いましたし投げやすかったですね。ただ甘く入ったスライダーを打たれましたし、そこはさすがだなと思いました」

 逆転負けを喫し、選抜初戦敗退となった日大三。そこから櫻井は仕切り直しで、春の大会に臨んだ。春の都大会でも好投を見せ、打者としても本塁打を連発。特に決勝戦では9回表に追撃のホームラン。このときのホームランについて櫻井はこう振り返った。

「8回裏に清宮が僕の頭を超える大きなライトへのホームランを打っていて、じゃあ俺も打ってやろうと思って、狙って打席に入りました。ホームランを狙って打ったのはあの打席が初めてでしたね」
まさに二刀流。櫻井は投打ともに充実したパフォーマンスを見せて夏に向かっているよう思えたが、ここから苦悩を味わうこととなる。

[page_break:投手人生初の絶不調を乗り越えてきた]

投手人生初の絶不調を乗り越えてきた

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櫻井 周斗(日大三)

 春季関東大会。専大松戸戦(試合記事)で、なんと7失点。立ち上がりから常時140キロ台を計測していたが、櫻井は自慢の縦スライダーが不調なのに気付いた。「投球練習からあれ?と思う変化だったんですよね。いつもの変化ではなくて、何とかしようと思っていたら、ストレートも最初は良かったんですけど、だんだんおかしくなってしまいましたね」

 その不調は準決勝の浦和学院戦でも変わらなかった。準々決勝の霞ヶ浦戦の後には水戸市民球場のブルペンで投球練習を行い、準決勝では、試合前に、いつもは30球程度なのに、50球も投げた。準決勝では「専大松戸戦よりはよかったんですけど、それでもダメでしたね」と振り返るように、この試合、4回5失点でマウンドを降りてしまう。関東大会後も不調は続いた。

 投球練習では10球中、7球がボール、キャッチボールでもストライクを投げることができない。この時について櫻井は「あの期間は投球練習するだけで、さっと血の気が引いてしまう感覚がありました」と、この夏の櫻井のピッチングからは想像がつかないほど苦しんでいた。櫻井は、なぜ不調に陥ったのか、もう一度、根本から考えて見直した。そうすると、遠投が少ないことに気づき、練習から遠投を多めにした。すると、6月17日の中京大中京戦では6回1失点の好投を見せ、復調をアピールした。櫻井はこの不調の期間、良い経験だったと振り返る。

「僕自身、投手人生で初めて不調といえる期間でした。不調になってからどうするのか?自分自身、どうするのか?その引き出しがなかったんですよね。とても良い経験になったと思います」

 そして夏に突入。初戦の國學院久我山戦に先発した櫻井は8.1回を投げて、13奪三振。5回戦の都立総合工科戦では、5回途中から登板。最速147キロをマークするなど、逆転勝利に貢献した。準々決勝では昨夏敗れた東海大菅生と対戦する。その先には、準決勝。そして決勝では早稲田実業と対戦する可能性がある。甲子園の道は限りなく険しい。

 苦しみは十分に味わった。それもすべて自分の糧にしてきた。これまでの苦しみ、そして今後、迎えるライバルたちとの戦い。それを乗り越えた先には4年ぶりの夏の甲子園が待っている。

(インタビュー/文・河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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