高橋晴(関東一)「エースとしての自覚、主将としての自覚」
今年の東東京を代表する本格派右腕・高橋晴(はる)。最速147キロを誇る速球派右腕として、注目される。
3年夏のゴールを目指してじっくりと取り組んだ下級生時代
高橋晴(関東一)
高橋が関東一に入学したきっかけは江戸川中央シニアの先輩で、2012年春4強入りした時のエース・中村祐太(現・広島)に憧れを持ったことだった。
「中村さんのような投手になりたいと思いました」入学当初は、120キロ後半で、身長も177センチ。突出して大きいわけではなかった。高橋の入学当時について米澤貴光監督はこう振り返る。
「線はかなり細かったですね。体力もなく、走れる体力はなかったものですから。それでも投げる力はあって、ボールは速かった。体はできていないのに、速い球を投げられるのは怪我のリスクが高いので、投げることに関してはセーブさせながら、体力をつけさせることにしました」
下級生時代の高橋はまだ即戦力で活躍できる投手ではなかった。米澤監督は、3年夏で一番活躍できることをゴールと定め、じっくりと育成に取り組んだ。
高橋が1年生の時に取り組んだのは、トレーニングと食事で体を作ること。1年秋はベンチ入りしたが、2年春の選抜では、大会前に、肘を痛めて、間に合わず、ベンチ外。公式戦デビューしたのは2年春の都大会から。2年春では入学から8センチも伸びて、185センチに。そして球速も、137キロまで伸び、足も速くなり、野球選手として一段と伸びた。
だが、前チームの時では公式戦の登板機会はほとんどなく、新チームを迎えた。高橋は主将を任されることになる。高橋にとっては驚きだった。人を引っ張るようなタイプでもなかった。自分より相応しい選手がいるのではと思ったが、米澤監督の想いを聞いて、自覚を持つようになった。
「米澤監督から、選手として責任感を持ってやることで、今よりも技術はもっと伸びるよといわれて、やりたいと思うようになりました。今、思えば、キャプテンになるまでは、先輩についていくだけの選手だったと思います」
米澤監督は、チームをまとめるためにキャプテンを任せたのではなく、選手として成長させる意味で、高橋を抜擢した。
責任感を持てば、技術は伸びる選手だった
高橋晴(関東一)
米澤監督は高橋について、
「去年のキャプテンの村瀬 佑斗はキャプテンになるべくしてなった選手。だけど高橋はキャプテンにして育てることを決めました。高橋の成長が今年のチームの成長にもつながると思いました」
主将としての自覚を持つことが、成長につながる。それは高橋も、米澤監督も共通の思いとなった。では高橋はナインをどう引っ張ろうと思ったのか。
「言葉でもチームをまとめようと思っていますが、やはり背中で引っ張っていくことが大事かなと思っています」
エースとして迎えた初の秋季大会。関東一は都大会準々決勝まで勝ち進み、相手は清宮幸太郎擁する早稲田実業。注目のカードに先発した高橋は清宮を徹底マーク。自慢の速球で、無安打に抑えるピッチングを見せた。しかし、早稲田実業打線に捉えられ、8回を投げて4失点と悔しいピッチングに終わった。
「先発投手なので、清宮だけ抑えてもほかの打者に打たれては意味がない。それを強く実感した試合となりました」
この冬はもう一度自分を見つめ直す時間となった。投手としてストレートをよりレベルアップさせるためにトレーニングに没頭した。走り込み、筋トレ、綱のぼりなど様々なトレーニングを行った。
そして投手だけではなく、打者としてもチームを引っ張ってほしいという米澤監督の想いから、打撃強化、さらに中学以来のショートも兼任した。前年ショートの村瀬から教わりながら、守備を磨いていたが、遊撃手としての評価は高く、米澤監督は「グラブ捌き、フィールディングなどショートとしての動きは高校生としてはかなりレベルが高いものがあり、肩も強い選手ですし、ショートだけやっていれば、かなりの選手になると思います」と評価。こうして高橋晴の二刀流のスタートはしていった。そして主将としても自覚が芽生え、「どう引っ張っていけばいいのか、徐々にわかるようなった」とキャプテンシーも出てきた。
一冬超えて迎えた春季大会。高橋は、背番号6でベンチ入り。この春で投手として秋以上の活躍を誓ったつもりだったが、再び悔しい経験を味わう。3回戦の駒込戦は完投したものの、5失点。準々決勝の国士舘戦。リリーフで登板したが、失点を喫し、チームも敗れた。春を振り返って高橋は、「変化球の精度が課題になった」と変化球の精度向上に磨きをかけてきた。
投手としてのゴールはまだこれから
高橋晴(関東一)
投手・高橋の公式戦での活躍はまだ物足りないが、大会後からの高橋の成長は目覚ましい。ストレートは、6月3日の霞ヶ浦との練習試合で、最速147キロまでスピードアップ。常に全力ではなく、試合状況を見ながら打たせて取る、三振を狙う投球ができるようになり、ここぞという場面では、140キロ中盤のストレートで打者を圧倒している。高橋が求めているのはスピードガンの速さではなく、空振りが奪えるストレート。それはボーイズ、高校の先輩・中村祐太の影響を受けている。
「150キロ投げられなくても、140キロ前半でも空振りを奪えればいいと思います。中村さんは、140キロ前半でもほかの投手と比べても遅いですけど、打ち取ることができていますし、空振りが奪えている。ああいうストレートを投げたいと思っています」
キャッチボール、投球練習から、ストレートのキレを求めてきた中村。その手応えを掴んでいる。変化球は、新しい球種を習得するのではなく、今ある球種の精度を高めることに注力し、限られた引き出しの中で、抑える姿勢だ。米澤監督も、その姿勢に賛同する。
「いいことだと思います。彼の場合、裏をかく投球は出来ないと思いますし、それは求めていません。今ある球種をどう使って抑えるのか、どう磨きをかけることがそれが大事だと思います。これまで投手としての心構え、投球術というところを教えてきましたが、少しずつ理解して、5月~6月にかけて成長が見えています」
とエースの成長ぶりに目を細める。また打撃も5月に初ホームランを打ってから、一気に6本。投打で活躍を見せるようになってきた。
最後に夏にかける意気込みを伺った。
「相手は全力でぶつかってくると思いますが、僕らも挑戦者のつもりで向かっていきたいと思います。とにかく関東一の野球をして、一戦、一戦大事に戦っていきたい。投手としては常に全力ではなく、打たせて取る投球をしながら。そして打者としても打撃が好きなので、活躍を見せていきたい」
エースとして、主将として自覚を持った高橋晴。関東一の3年連続優勝はエースの右腕にかかっている。
(インタビュー/文・河嶋宗一)
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