Interview

近江高等学校 京山 将弥投手「プロを意識し、心身ともに鍛えあげた3年間」

2016.10.17

 滋賀を代表する本格派右腕である京山将弥投手。近江では1年夏からベンチ入りし、甲子園には2年春3年夏の2度出場。全国デビューとなった昨年の選抜では、わずか1イニングの登板ながら伸びとキレのあるストレートを披露し、一躍注目の存在となった。

 特に低めへのコントロールが安定しており、3年夏の滋賀大会では26回を投げ、与えた四球は5つだけ。決勝は散発3安打の無死球完封で締めくくり、予選防御率0.00のまま優勝を決めた。甲子園では初戦敗退となったもののスカウトの評価が揺らぐことはなかった。

プロを目指すきっかけとなった昨年の選抜

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京山 将弥投手(近江高等学校)

 引退直後は進学希望を表明していたが「大学に行ってからのプロは保証無いと思うんで、甲子園が終わって3、4日ぐらい経って、高校からチャンスがあるなら行こうという考えになりました。親とも相談して決めました」
とプロで戦う決意を固めた。

 プロを明確に意識するようになったのは昨年の春。
「2年の時に出た選抜で、甲子園で投げて、これは頑張れば行けるんじゃないかという思いになりました」
強豪校の控え投手からプロ注目の本格派へ。世間を驚かせたあの1イニングは本人にとっても大きいものだった。

 インパクト抜群の全国デビューから9ヶ月前、京山にとって最初のターニングポイントがあった。
「入学時はコントロールを気にせずにガンガンいくタイプだったんですけど、強いチームと対戦するにつれて低めに集めるのが大事になってきました。最初は中学の時と同じでガンガン行ったろと思って投げてました」

 2年前の6月、1年生ながら遠征メンバーに選ばれ愛知の名門・東邦と対戦。しかし、リリーフ登板で打ち込まれた。この一戦で考え方を改め、力任せの投球スタイルからシフトチェンジ。

「そんなに強い印象は…飛び抜けたものではなかった」
実は多賀 章仁監督の第一印象はそれほど高いものではなかったが、夏には早くもベンチ入りを果たす(甲子園ではベンチ登録人数が18人のためスタンド組に回った。滋賀大会の登録可能人数は20人)。そして、選抜へとつながる秋には大器の片鱗を見せる。

 準決勝彦根東戦、1点ビハインドで迎えた8回表に当時のエース・小川良憲に代打を出さざるを得ず、その裏から下級生の京山がマウンドに上がった。ここで京山は勝負強い投球を見せる。まず先頭打者は打ち取ったが、打順がトップに返ると三塁打を浴び、2番、3番はスクイズ警戒の中四球で歩かせ一死満塁。打席にはこの試合で唯一の得点を叩き出していた4番を迎えた。

 絶対絶命の場面だったが左打者のアウトコースに完璧に決まる一球、多賀監督が「素晴らしいボール、今でも覚えてます」と興奮気味に話す最高のボールで見逃し三振。続く5番打者もショートゴロに打ち取り最大のピンチを無失点で切り抜けると、チームは9回に逆転。その後、近畿大会では抜群の投球を披露とはならなかったが、翌年の選抜2回戦県立岐阜商戦の9回に登板すると3人でピシャリ。伸びのある球筋はスカウトの視線を釘付けにし、わずか1イニングながら一躍注目を集める存在となった。

 この選抜後、新球取得に挑戦する。現在はストレートの他にもスライダー、カーブ、チェンジアップ、カットボール、ツーシームを投げ分け右打者にはカットボール、左打者にはチェンジアップが決め球となる。豊富な球種を操るが、入学時から覚えていたのはカーブとスライダーだけ。最初の1年間はこの2球種で乗り切った。選抜後、小川にコツと持ち方を教えてもらいすぐにカットボールを習得。それからすぐにチェンジアップにも取り組んだ。だが、こちらは実戦で使えるレベルになるまでに約1年の時間を要した。

[page_break:2年夏に腰の故障 リハビリを乗り越え、そして精神面を大きく成長させた野球ノート]

2年夏に腰の故障 リハビリを乗り越え、そして精神面を大きく成長させた野球ノート

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京山 将弥投手(近江高等学校)

 それには理由がある。2年夏に次期エースを悲劇が襲った。地力には差がある公立校との試合で京山はベンチスタート。ところが先発した先輩が打ち込まれ急遽登板機会が訪れる。急いでブルペンで肩を作りマウンドに上がると、腰に痛みが走った。

「大会中は大丈夫だったんですけど、大会が終わってから疲労などが一気に来て。病院も行って、針治療とかも結構していました」
約3ヶ月間、全力投球はおろか走るのも痛かったという状態が続き、ひたすら腹筋と体幹を鍛える日々を送った。

 復活を印象付けたのは秋に行われた智辯和歌山との練習試合。甲子園通算勝利数歴代1位の高嶋 仁監督が「このピッチングが出来たら甲子園でも勝てるのに、この時期でもったいないなぁ」と話すほどの内容で見事な完封勝利を挙げた。京山が高校でのベストピッチに挙げたのもこの試合。「腰がほぼ治った状態でのピッチンングだったんで自信になりました。印象に残ってますね」この試合は単に投球内容が良かっただけではなく、腰の不安を吹き飛ばすという意味でも大きかった。

 ただ、快方に向かっていることは事実だが、まだ完治していたわけではなかった。ホームベースとレフトポール手前、ライトポール手前に置かれたコーンを1分以内に走る近江の名物練習、通称「三角ダッシュ」を、腰の状態が思わしくないため参加を控えることも珍しくなかった。選抜を逃したチームにとって甲子園出場へのチャンスはあと1回だけ。

 そんな中、冬には多賀監督との野球ノートのやり取りが始まった。腰の状態の報告も兼ねて、京山は野球ノートの目的をこう捉えていたが多賀監督の狙いは「自立」を促すことにあった。
「一番望んだことですね。ピッチャーである前に人間としての心構え、大会に臨む気構え。1番を付ける人間が周りに与える影響は大きいと自覚しないと」

 最初は字が雑で、中途半端な余白も多かったが、次第に1日半ページ、4日で見開き1ページに綺麗に収まるようになる。「最初は嫌々書いてたんですけど、5月6月には自分から書くようになってました」と話す京山。6月には腰も完治し、技術面ではチェンジアップが完成。夏前にはツーシームも加わった。

 万全な状態で臨んだ夏、「命を懸けた戦い。全員ピリピリで全力で戦いにいきました」と表現したのが準決勝の滋賀学園戦。秋も春も1点差で敗れていた相手であり、ここを乗り越えれば甲子園出場がグッと近づく大一番だった。

[page_break:キレ味鋭いストレートに豪の要素が加われば…]

キレ味鋭いストレートに豪の要素が加われば…

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京山 将弥投手(近江高等学校)

 試合は滋賀学園が先制するが、近江は5回に一死満塁のチャンスをつくる。ここで多賀監督は2年生の3番打者に代打を起用。試合の行方を大きく左右する打席を任された塩見 卓也(3年)は3ボール1ストライクから強振して空振り。しかし次の球はしっかり捉え一塁線を破る走者一掃の適時二塁打を放つ。ベンチにいた京山も「ウォー、よっしゃー」と叫んでいた。

 この一打で逆転に成功するとそのまま押し切り7対2で勝利。3度目の対戦でリベンジを果たした。控え捕手兼ここ一番での代打要員である塩見は京山に対してもハッキリとモノが言える性格の持ち主。ドラフト候補に挙がるような実力を持つ選手がいればチームによっては浮いてしまいがちだが、塩見に遠慮はなかった。

 京山曰くブルペンでも「肘をもっと上げろ、と言われました。変化球の時に肘が下がることがあるんです。他のキャッチャーでは気付かないんですけど、塩見だったら気付いて言ってくれて『肘上げるまで終わらんぞ』みたいな。結構厳しかったですね」。投手コーチさながらのチームメイトの一打で強敵を破ると、甲子園出場を懸けた決勝のマウンドでは完封勝利。「あんまり覚えてないんですけど、とりあえず楽しめたのが1番良かったかなと思います」

 初戦敗退となった初めての夏の甲子園は「いい経験にはなったんですけど、負けてしまったんで思い出になってしまいました」とインパクトは残せなかったが、素材の良さは折り紙付き。多賀監督が「スイッチを入れたい時に入れる技術はこれから。ノって来たら素晴らしいボールが続くと思います。ただそれは投げていてタイミングが合っている時。試合の中でも、1巡目は抜群でも2巡目、回で言ったら4回に長打を打たれたり。そういうところがあるんですけど、3安打完封や2安打完封を何回も見ましたね」と話すように将来性は大いにある。

 最大の武器である低めに伸びるストレートは、豪速球か快速球かで言えば快速球に近い。しかしその球筋にはそれだけでは言い表せないような気品、美しさがある。

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「低めに全ての変化球が集まるし、どの変化球でも決め球に出来るのが、すごいなぁと思います。YouTubeでよく見てます。早く1軍に上がって結果を残して有名になりたいです」

 早期からの活躍を臨む京山とは対照的に多賀監督はまずは土台作りを勧める。
「最低10年、出来れば15年、1軍ローテの一角を担えるようなピッチャーになってもらいたいと思います。(プロに)行くからにはね。3年はきっちり体作って、だと思います」

 キレ味鋭いストレートに”豪”の要素が加わる日が楽しみだ。

(文=小中 翔太

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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