秀岳館高等学校・九鬼隆平選手 「スーパーキャッチャーを生んだ秀岳館の3年間」
今年の高校生を代表するスーパーキャッチャー・九鬼隆平。打てて、守れて、そして走れてとまさに従来の捕手像を覆す選手だ。侍ジャパンU-18代表に選出された九鬼は早稲田大学との練習試合で逆転となる3ランを放ち、チームを勢い付けた。早稲田大戦の活躍を振り返るとともに、この男の成長の秘密に迫った。
自慢の強打を生んだ秀岳館の練習法
九鬼隆平選手(秀岳館)
まさに打った瞬間だった。1回裏、1点ビハインドだった侍ジャパンU-18代表は、一死から2番伊藤優生の四球、3番静岡 鈴木 将平の左前安打で一死一、二塁の場面でまわってきたのが4番九鬼隆平だった。
その九鬼はいきなり4番打者らしい結果を見せる。甘く入ったボールだった。九鬼が振り抜いた打球はレフトスタンドへ飛び込む逆転3ラン。これで高校通算25本塁打。この本塁打で調子を上げたのか、九鬼はアウトになったとはいえ、鋭いライトライナー、センターライナーと鋭い打球を連発。本当に高校生なのか?と思わせる当たりであった。ネット裏のスカウトたちは、九鬼が打席に立つごとに真剣な眼差しで見る。そしてスイングをすると、報道陣、スカウト、一部のファンがおっと声を上げるのだ。そのトーンの大きさは他の打者よりも大きかった。誰もが九鬼がもう一本打ってくれることを待ち望んでいるかのように思えた。
木製バットでも豪打を披露する九鬼は練習中から木製バットで練習をしている。ただそれを取り入れているチームはあっても木製バットをしっかりと振り切れる選手はいない。秀岳館は1キロのマスコットバットを持って、遠くへ飛ばすポイント制ロングティーや1日2キロのお米を食べる食トレなど、徹底とした体作り、パワートレーニングを行うが、九鬼の力強い打球は秀岳館の3年間の取り組みによってもたらされたといっていいだろう。九鬼は木製について、「金属よりも振れる」とコメントするように、どの打席も弧を描きながらヘッドが下がらず、強くボールを叩ける形ができていた。この時期の高校生が木製を使うと、失速した打球が多いのだが、九鬼はそれがない。
高校生レベルではなく、高いレベルでも強打の捕手として活躍する可能性を秘めているのが九鬼なのだ。
「甲子園に比べて調子は上がってきています」と頼もしい姿を見せた九鬼。打撃もこのまま調子を上げていくとさらに期待は高まって来る。
九鬼の成長をもたらした秀岳館の日々のミーティング内容とは?
ただ九鬼は打撃面以上に守備面でどれだけチームに貢献できるかを大事にしている。
「選ばれた投手はみんな素晴らしい投手ですし、僕がしっかりと良さを引き出せるようにリードをしていきたいと思っています」 と考えながら配球を組み立てた。
今日は寺島成輝(履正社)、早川隆久(木更津総合)、堀瑞輝(広島新庄)と3人の左腕投手が登板したが、どうリードしていったのだろうかと聞くと、九鬼は1人ずつ分かりやすく説明してくれた。
「寺島はストレートが良い投手。でも大学生はしっかりと対応するので、上手くスライダーを使って凌ぐことができました。早川もストレートが良いので、上手く使って投げることができました。そして堀は、ストレート以上に良いのがスライダー。大事なところでは絶対使おうと思っていました」
実際に、9回表、二死二塁。一打同点の場面で九鬼は、堀にスライダーを要求。見事に空振り三振を奪って、試合を締めくくった。
「抑えられる自信があると思ってサインしました」と語るように堀の武器を信じてあげた結果が勝利をもたらしたのであった。
そして二塁までのスローイングタイム1.8秒台を誇る強肩も存分に披露。3回表には俊足・岩浪を刺して、さらに8回表には一度スタートを切ったが、戻ろうとした走者を見逃さずアウトにするなど、攻守で躍動した。まさに司令塔という呼び名が相応しい活躍であった。
この試合、九鬼の父・義典氏がかけつけていた。義典氏は九鬼の幼少時代に捕手としての技術を厳しく叩きこんだ方だ。今日のホームランについては「たまたまですよ」と笑う義典氏。そして義典氏に、「隆平君は、気配りができて、礼儀正しく、しっかりと喋られる選手でいつも素晴らしいと思います。九鬼くんは中学時代からそういう人間性のある選手だったのでしょうか?」と質問した。すると義典氏は「いやいや中学時代は全然でしたよ。そういっていただけるのはありがたいことで、それは高校3年間の教育で出来たものだと思います」だと秀岳館の指導者へ感謝している様子であった。
秀岳館はパワーと緻密さを兼ね備えたチームだが、そこには日頃からの練習内容にある。秀岳館は練習の最後に主将、投手陣、内野手、外野手など各ポジションのリーダーがそれぞれの練習の振り返り、反省を選手全員、指導者陣の前で発表。九鬼はそこで日頃から周囲の人へ自分の意見を分かりやすく伝える行動を常に実践してきたのだ。甲子園での言動、立ち居振る舞いが高校野球ファンの感動を呼んだが、これは秀岳館野球部の指導の賜物だといえる。
この一発で勢いに乗った九鬼。今回のU-18は、もちろんアジア一を目指すことが第一だが、秀岳館で学んだことがどれだけ正しいものなのかを証明する大会でもある。これで多くの人を釘づけにした九鬼は台湾でも世界の野球ファンを引き付けるパフォーマンスをぞんぶんに見せつけていく。
(文=河嶋宗一)
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