Interview

早稲田大学 加藤 雅樹選手「辛い時は野球を始めた時のことを思い出してやってきた」

2016.04.18

 昨夏の甲子園でベスト4の好成績を収めた早稲田実業清宮 幸太郎関連記事選手が入部し、全国で最も注目を集めたと言っても過言ではない。そのチームで主将を務めていたのが加藤 雅樹選手だ。現在は早大に進学し、先日、開幕した東京六大学野球リーグでは1年生ながらベンチ入り。開幕2戦目には早くも代打で起用されるなど、順調にステップアップしている加藤選手に高校時代を振り返ってもらった。

早実に入部する!レギュラーをとる!甲子園に出場する!

加藤 雅樹選手(早稲田大学)

 加藤選手が早稲田実業に憧れを抱いたのは小学校3年生の夏のこと。
斎藤 佑樹投手が甲子園で投げている姿を見て、『高校に入学するときに、早稲田実業に入部できるぐらいのレベルに達していたら、入りたい』とずっと思っていました。そのあとも小野田 俊介さんや重信 慎之介さんが甲子園でプレーしている姿を見て『早実は強いな』と感じていましたし、あのユニフォームを着て自分も甲子園に出場したいと思いました」

 中学時代は福生シニアに所属し、日本代表として全米選手権に出場するなど、確かな実力を身に着けた加藤選手は晴れて早稲田実業の野球部に入部することとなった。

 「入部したとき、新入部員は22~23人いたんですが、その中には富田 直希早稲田実業渡辺 大地がいたんです。当時、西東京のシニアで野球をやっていたら知らない人はいないほどの選手でしたから『こんなすごい選手たちばかりと一緒にプレーすることになるんだ。自分なんて実力的には下の方だ』と感じたので、逆にその分、練習を頑張れたと思います」

 その一方で、強い気持ちも持ち合わせていた。
「第一印象が大事だと考えていて、最初のバッティング練習の時からセールスポイントの打力をアピールしようと思っていました。そして、練習初日にその機会がやってきたのですが、練習場所はすでに見学していて事前に『こういう場所で打つんだ』というイメージをしておいたので緊張はしませんでした。むしろ『見ていろよ』という気持ちで打席に立つ事ができたので、柵越えも打てたし良いインパクトが残せました」

 このスタートダッシュが功を奏し、直後の春季大会からベンチ入りすると、センバツ帰りのチームにあってレフトで先発出場も果たした。
「早実に入るとき、『1年からレギュラーを獲ってやろう』という高い意識を持って臨んだのが良かったのだと思います。それぐらいの意気込みでガツガツいって丁度いいんじゃないでしょうか」

 しかし、6月を迎え、遂に疲労がピークに達してしまった。
「練習は厳しいし、雑用は多いし、勉強も大変で睡眠時間も少なかった。環境が変わったことで精神的にも肉体的にも疲れて、体重が7kgも減ってしまいました。それでも、夏の西東京大会に向けて気持ちが徐々に高まっていったんです。本当にキツい時期でしたけれど、やっぱり『甲子園に行きたい』という想いが上回ったんだと思います」

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[page_break:予想外の捕手、主将に]

予想外の捕手、主将に

加藤 雅樹選手(早稲田大学)

 そして、2年の春季大会を終えたタイミングで加藤選手にとって大きなターニングポイントがやってきた。和泉 実監督からキャッチャーへのコンバートを申し渡されたのだ。
「キャッチャーだけはやることはないだろうと思っていたので、最初の頃はボールが速くて怖いし、当たったら痛いし、大変でした。でも、慣れていくにつれて『おもしろい』と感じるようになったんです。球種やコースなどたくさんの選択肢の中から自分がサインを出す。そのサインによって試合の展開が大きく変わっていきますから」

 また、バッティング面でも恩恵を受けたという。
「相手投手の得意な球やカウントを取りに来る球を意識したり、自分が前の打席でどんな球を打ったのかも考慮して配球をしっかりと考え、追い込まれるまでは狙い球を絞るようになりました。今ではキャッチャーをやらせてくれた和泉監督にとても感謝しています」

 さらに、最上級生となってチームのキャプテンにも就任した。
「元々は周囲から『気迫が足りない』と言われてしまうようなタイプの選手だったんですが、自分が早実に来てからレギュラーとして試合に出させてもらっているのにも関わらず、ずっと甲子園に行けなくて、とても苦しくて……。そして、2年夏の西東京大会東海大菅生に負けた(試合レポート)時、その試合で代打を出されたんです。そこで『変わらなきゃ』と思ったんです」

 新チームはキャプテン不在でスタートを切ったが、その間、先頭に立ってチームを引っ張ったのは加藤選手だった。「キャプテンなんて自分のキャラじゃない」、そんな気持ちはなくなっていた。
「チームが負けて暗くなっていたので、正式にキャプテンになってからは明るい雰囲気でやりたいと考えました。ただ、チームの空気を緩くしすぎてしまうとプレーも緩んでしまうので、そのバランスを取るのには苦労したところがあります。そして、このチームは打力があるんですが、エラーと無駄な四球で負けてきたので、冬の間はその課題を克服するための練習を重ねました」

 ところが、翌年の春季大会でも準々決勝で関東第一に18点を奪われて7回コールド負け。4つの失策と13個もの四死球が響いた。課題を解消できず、下を向いてしまいそうになったチームだが、「和泉監督が『エラーはOK。四球もOK』と言ってくださって、その考え方が選手間にも浸透していったんです。それで、根拠のない自信なんですけれど『ミスをしても、最後に勝つのは俺たちだ』という考え方をチーム全体で共有できるようになったんです」

 また、加藤選手のリードも変わった。
「関東第一戦は相手打者の情報が揃っていたので弱点を突くリードをしたのですが、投手陣に不慣れなボールを要求した為、上手くいきませんでした。ですから、それからは投手の良いところを活かし、ベストピッチを引き出せるようなリードを心がけるようにしました」

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[page_break:今では高校1年生からやり直したい思いが強い]

今では高校1年生からやり直したい思いが強い

加藤 雅樹選手(早稲田大学)

 こうして迎えた最後の夏。チームにはスーパー1年生・清宮も加わっていた。

 「日本中の期待を背負っているような気がして、試合前はいつも吐きそうになるくらい緊張していました。大会が始まってからも、ミスが多くて、甲子園に行けそうな雰囲気なんてなかったんですが、それでも苦しい場面を切り抜けて何とか粘って勝ち上がっていけました」

 決勝戦の相手は、前年に苦杯を喫した東海大菅生。試合は0対5とリードを許していたが、8回に大量8得点を挙げて逆転勝ち。夢の舞台だった甲子園にようやくたどり着いた。
「試合前から固くなっていて、中盤までは苦しい戦いでしたが、みんな『このままでは終わらない』と思っていました。終盤は『勝敗よりも、みんなで野球をやる幸せを感じながら楽しもう』という気持ちになり、プレッシャーから解放されたような感じがしました。優勝した瞬間は、これまでの人生で一番、幸せで、もしかしたら今後もこれ以上はないんじゃないかなというくらい。マウンドに駆け寄ってくるチームメートの涙を見て、自分ももらい泣きしました」

 そして甲子園でも4強まで進出した早稲田実業
「感覚としては一戦一戦に集中して戦っていたら準決勝だったという感じで、ベスト4というのはすごい事だと思うんですけれど、あまり実感はないんです。ただ、仙台育英に負けた時は悔しかったです。やはり『やるからには優勝しないといけないな』と改めて感じました」

 これだけの結果を残した加藤選手だが、後悔しているところはたくさんあるという。
「甲子園に1回しか出場できなかったので、また高校1年生からやり直して、もっと練習して、もっと甲子園に行きたいです。振り返ってみると、新入生の頃は練習などがつらすぎて『何で野球をやっているんだろう』と考えたりもしたんですが、そういう時は野球を始めたばかりの頃のことを思い出していました。野球が大好きで、もっと上手くなりたいと思っていた時のことを。自分は初めてヒットを打った瞬間をとても良く覚えているのですが、そういう思い出があれば野球を捨てることなんてできませんから」

 そういった意味でも、加藤選手が勧めるのは野球ノートをつけることだ。
「野球ノートを読み返すと当時の記憶がよみがえってくるんです。ちょっとしたメモ書き程度でも、その前後の出来事を思い出したりするので、高校生になってからでも遅くないですから書き記しておくと良いんじゃないかなと思います」

 かつての自分が今の自分の支えになる。加藤選手は野球を好きでいつづけることの大切さを教えてくれた。

(文=大平明


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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