福岡ソフトバンクホークス 柳田 悠岐選手「『フルスイング』の変遷」
広島商高から広島経済大を経て今季で福岡ソフトバンクホークス入団6年目。今や球界を越えた知名度を誇る柳田 悠岐外野手。昨年は打率3割6分3厘で初の首位打者、さらに34本塁打・32盗塁で東京ヤクルトスワローズ・山田 哲人二塁手(関連記事)と共に「トリプルスリー」を達成、リーグMVPにも2人で輝いた。「トリプルスリー」で流行語大賞も受賞した彼の代名詞はもちろん「フルスイング」。今回はその変遷とそこに秘められた初公開となる技術論を探っていく。
■柳田選手の高校時代の取り組みなどに迫ったインタビューは以下から
「柳田選手の基礎を作り上げた高校時代」
「目指すはトリプルスリー!」
「打てる球を打つ」と「タイミング」を大学時代から変える
柳田 悠岐選手(福岡ソフトバンクホークス)
「プロに入ってフルスイングをどのように変えてきたのか?」最初の質問に対し、柳田 悠岐の返答は一見、意外とも思えるものであった。
「スイング自体はあまり変わっていないような気がするんです。ただ、大学の時なんでもかんでも打ちにいっていましたが、プロはなんでもかんでも打ちにいったら打てないんで、打てる球を打ちにいって、それ以外は振らないようにしています。それだけですかね」
ただ、広島経済大時代のプレーを見たことがある筆者にとっては、その発言は十分腑に落ちるものである。確かに大学時代は最初からフルスイングをすることで相手に脅威を与え、甘いコースに引き込んで仕留める。そんなタイプの打者だった。精度の高いNPBの投手に対する意識の変化。これが柳田 悠岐の現在を支えている。
さらにもう1つ、福岡ソフトバンクホークス入団後に変えたものがある。「タイミングの取り方」だ。
「大学の時はすり足でバタバタとタイミングを取る感じだったんですが、ゆっくり自分の間を作ってタイミングを取るようになりました」
その技術を高める練習法の1つが、ロングティーである。キャンプ期間中、練習試合後の人もまばらな[stadium]宮崎アイビースタジアム[/stadium]にも柳田 悠岐の姿があった。
「つまらせてすらせながら芯に持っていく」フルスイング
次々とバットから放たれる驚愕の弾道。が、よくロングティーを凝視するとそこには柳田選手ならではのいくつかのこだわりがある。方向は逆方向。そしてスイングの軌道は打席よりもより大きい。
「タイミングをゆったり取ることと、大きく身体を使うことを意識しています。小さくならないように大きくスイングもしています」
さらにインパクトポイントにも小さなチェックポイントがある。「極端には意識はしていない」と注釈は付けながら、柳田選手はその秘密を話してくれた。
「芯よりも少しだけ根元側にして詰まらせた方が打球に角度が付くので、先よりはいいと思いますね」。確かに芯から気持ち根元でインパクトし、芯へすらしながら打つ打球は外野スタンドどころか場外へ消えていくものとなっていた。
柳田 悠岐選手(福岡ソフトバンクホークス)
柳田選手がこの点に着目したのは入団3~4年目のこと。「ホームランを打ちたいと思って考えていたら、ふと思いついた」。そしてこの考えは打率にも好影響を与えている。「つまった場合、強く振らないとヒットゾーンにいかない」意識がさらにスイングスピードを上げる好循環。事実、3年目には2割9分5厘の打率は、4年目は3割1分7厘。そして昨年は3割6分3厘で首位打者獲得につながった。
さらに言えば「逆方向ロングティー」にも理由がある。「いいバットの出方を出すには逆方向がいいので、形を作るためにやっています。なので、シーズンに入っても調子が普通よりいいときは打球方向を意識することはありませんが、調子が悪いときには逆方向を意識するようにしています。基本の形なので」。これも初めて聴く話だった。
「ミートする形は身体の前とか後ろとかは意識せず、強くたたく。自分のタイミングで打てれば勝手に自分のいいポイントに入るので」。ウエイトトレーニングで作り上げた肉体と共に、そんな豪快さがクローズアップされる柳田選手。
だがその一方では、「広島商の時は身体ができていなかったのでウエイトをいっぱいやりましたけど、身体ができてからは技術的な練習が主体になっている」と明かしてくれたように、細部のところではきっちりとこだわりを持っている。
フルスイングを志す「高校球児」のために
では、そんな柳田選手がフルスイングを志す高校球児たちにアドバイスをするとしたら?
「軸がブレるとダメなので、飛ばそう飛ばそうと思わず、まずは脚をしっかり使ってボールを捉える。上体に頼るのではなく下半身の力で下を使ってボールを飛ばすことが大事だと思います。自分もそうなった時に下半身を使っていったら、いい形になるので」
今季はチームの3年連続日本一と共に「今季の目標は40本塁打40盗塁。そのために甘い球を見逃さない。練習から精度を上げればもっと打てる」と、さらなる高みを掲げて2016シーズンを走り出した柳田 悠岐。最後に今をプレーする高校生たちに熱いメッセージを寄せてくれた。
「甲子園に挑戦できるのは何回かしかない。僕も高校時代は甲子園に行けなかったので、甲子園を目指して必死にやってほしい。上のレベルで野球をする人もいっぱいいるでしょうけど、高校野球は貴重な時間なので、がんばってほしいです」
そんな球児たちに夢を与える存在にもなるために。福岡ソフトバンクホークスの背番号「9」は今日も技術に裏打ちされたフルスイングで[stadium]ヤフオクドーム[/stadium]の観衆を沸かせる。
(文=寺下 友徳)
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