Interview

流通経済大学 生田目 翼選手【後編】「『しなければならない』という気持ちが自分を変える」

2016.01.28

 今年のドラフト上位候補と期待される流通経済大生田目 翼投手。前編では大学2年までを振り返っていただいたが、後編では玉田 淳コーチの出会いで変わったこと、また昨年の大学選手権や今年にかける意気込みを語っていただいた。

手を抜く姿を見せていいのか

生田目 翼選手(流通経済大学)

 昨年の春から赴任した玉田 淳コーチはかつて日本通運でコーチを務め、牧田 和久(埼玉西武・2014年インタビュー【前編】 【後編】
)など多くの好投手をプロに輩出してきたコーチだ。生田目は玉田コーチから様々な球種を教わった。
「フォーク、チェンジアップ、カーブ、カットボールですね。カーブは高橋さんからも教えていただいたのですが、勇気がなくて投げることができませんでした。玉田さんからもう一度教えていただいて、もう一度、勇気をもって投げたら、だいぶ精度が高くなって、変化球でもストライクが取れるようになったことで、投球の幅が広がっていったと思います」

 玉田コーチの教えを吸収し、150キロ以上の速球に加え多彩な変化球を操る剛腕へと進化を遂げた生田目だが、教わったのは投球だけではない。走ることがいかに重要かということも教えてもらった。生田目の指導をはじめ、投手の指導全般を玉田コーチに任せた中道 守監督は当時の状況をこう振り返る。

「生田目はあまり自分を追い込んで練習する選手ではなかったんです。玉田さんがきてからは、玉田さんに預けることにしました。そこで玉田さんが走る重要性を教えたんですよね。走らなければ技術向上につながらないと」

 生田目は走ることが嫌いだった。だが玉田コーチからその重要性について教えられたことで、チームの一員として手を抜く姿を見せていいのかと、客観視できるようになった。
「チームのことを考えると自分だけが手を抜くことはできない。とにかくやらなければならないという気持ちで走っていきました」

 大学2年の1シーズン、先発として投げ抜いたことで主力投手としての自覚が芽生えた生田目は、走る量も増えていく。こうして生田目 翼の飛躍にむけた準備が固まっていったのだった。

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[page_break:大学選手権でさらに上を目指す気持ちに]

大学選手権でさらに上を目指す気持ちに

生田目 翼選手(流通経済大学)

 迎えた昨春のリーグ戦。生田目はリーグ戦から連勝街道を歩んだ。ライバルとなる創価大から2勝を挙げ見事に勝ち点を奪うと、リーグ優勝を飾り、大学選手権出場を果たす。だがこのリーグ戦を振り返ると反省が残る内容だったようだ。
「もう四死球ばかりでしたので、野手の皆さんのおかげで勝たせてもらった試合ばかり。僕として満足いく投球はできなかったです」

 中道監督も、春のリーグ戦の内容には驚いていた。
「四球をたくさん出して勝っている試合が多かったですね。創価大の試合ですが、1戦目(4月25日)が7四死球、3戦目(4月27日)では8四死球を出しているのに、完投勝利ですよ。よく勝てた試合だなと思ったのですが、勝てたのはバックの守備陣が安定していたというのがあります。ここぞというときに併殺、またピンチのときには好守備で助かっていたものの、もしミスが出ていたら負けていたという試合です。今回は守備力で全国に行けたと思っています」
普通ならば大量失点を喫していてもおかしくなかったが、そこを粘り強く投げたところは成長点だったといえる。

 そして迎えた全日本大学野球選手権。初戦の城西国際大戦で先発マウンドに登った生田目は8回まで10奪三振の好投を見せる。しかし9回裏、何と三者連続四死球を出し、無死満塁のピンチを作って降板となりほろ苦い全国デビューとなった。しかし準決勝の神奈川大戦ではリベンジに燃えていた。この試合、生田目自身、調子は良かったという。
「身体も重くもなく、軽くもなく、良い疲労感で臨めた試合でした。初戦であんな投球をしてしまったので、この日は良い投球をしようと」

 生田目は150キロを超える速球とキレ味鋭いスライダーをコンビネーションに、神奈川大打線を2安打完封勝利で決勝進出を決めた。創立50周年と記念すべき年に決勝戦に駒を進めた流通経済大。決勝の相手は早稲田大だった。しかし生田目はこの試合の登板直後に股関節を痛めてしまう。
「自分は軸足である右足を強く蹴って投げるタイプなのですが、強く蹴ることができず、ボールが全くいきませんでした」

 だが粘り強く投げ6回を終わって3対1でリードと、勝利が近づいたように見えた。しかしこの時、股関節の痛みは限界に達していた。生田目は7回表に一挙5点を失い逆転を許し、8回途中で降板。チームも7回裏に2点を返したもののその後は得点することができず、優勝をあと一歩で逃した。

 しかし生田目は全国レベルでも十分に自分の実力をアピールした。
「この大会までは上を目指そうとか、そういう気持ちはあまりありませんでした。しかし大会が終わって、さらに上のステージを目指して本気で頑張ろうと思いました」
こう大会を振り返った生田目。この経験が高いステージを目指すきっかけとなったのだ。

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[page_break:やっぱりお前がエースだといわれる活躍を]

やっぱりお前がエースだといわれる活躍を

生田目 翼選手(流通経済大学)

 意欲の高さは秋のリーグ戦につながり、秋では四死球で崩れることは少なくなった。成長を感じ取ったのは6勝を挙げた春のリーグ戦ではなく、秋だったと中道監督は語る。
「秋ではコントロールの乱れが少なくなり、四死球を出すことも少なくなりましたね。3ボールになってもそこから粘るようになりましたし、常日頃から走ってきた成果が、秋で実を結んできたと」

 秋初登板となった杏林大との第1戦では3失点完投し、無四球。そして第3戦では8回1失点、さらに無四球と大崩れしない生田目の姿があった。さらに東京国際大戦、共栄大戦でも完封勝利を挙げ、37イニングを投げ4失点、防御率0.97。四死球は合計7つで、与四死球率は1.70となり、成績面を見れば格段に成長を見せている。だが最終週の創価大戦は肘のケガで登板することができず、悔いを残す結果となった。

 このオフでは肘の痛みがとれたという生田目は、二度とケガをしないためのフォーム固めを玉田コーチと相談しながら行ってきた。そんな生田目に、今年にかける意気込みを伺った。
「まだ自分は監督さんから完全なエースとして認めてもらっているとは思わないので、やっぱりお前がエースだと言われるような活躍を見せていきたいです」

 チームを引っ張る立場としての自覚は十分。そのためにも昨年の成績を上回っていきたいと思っている。
「去年は四死球を出し過ぎですし、三振も少ない。四死球は本当に少なくしていきたいですね。制球力が僕の課題だと思います」
と、コントロールにさらに磨きをかけていくつもりだ。

 そして今年は創価大のエース・田中 正義との投げ合いが注目されるが、
「田中投手は自分より上の投手だと思います。でも僕は田中投手に一度投げ勝っているので、投げ合いとなれば絶対に適わない相手ではないと思っています」
と自信を見せている。2年前の春季リーグ戦(4月26日)、生田目は完封勝利を挙げている。去年は投げ合うことはなかったが、再び実現すれば、負けるつもりはない。

 もともとは投手と野手、半々の気持ちで大学に入り、プロ入りも考えていなかった。走ることも嫌い、納得いかないことがあれば、表情に出す。そんな選手だった生田目が、先頭に立ってチームを引っ張らなければならないという使命感により人間的に成長し、それが飛躍につながった。

こうした飛躍の過程を知り、ラストイヤーに燃える生田目のエピソードを聞くと、ドラフトの目玉的な存在である田中 正義との投げ合いがたまらなく楽しみになってきた。

(取材・写真:河嶋 宗一


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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