Interview

霞ヶ浦高等学校 綾部 翔投手「先輩たちの思いを背負いレベルアップを追求し続けた3年間」

2015.10.08

 今年の夏、6度目の挑戦の末、同校初の夏の甲子園出場を決めた霞ヶ浦高等学校。そのマウンドにいたのは綾部 翔だった。今回は入学時から劇的な成長を遂げ、プロ注目にまで成長した綾部投手から、3年間の振り返りとプロ入りへの思いを語ってもらった。

綾部を変えた3つの教え

綾部 翔投手(霞ヶ浦高等学校)

「入ってきた時は球速も125キロ前後で、コントロールも全然よくなかったので、その時は短いイニングしか投げていないですけど、四死球を4つ、5つも出していて、どうしようもない投手でした」

 そんな入学時を振り返る綾部を大きく変えたのが高橋 祐二監督であった。高橋監督には以前ドットコムの野球部訪問(【前編】 【後編】)で、投手メソッドについて取材させていただいたことがある。入学当時から180センチ以上もあった綾部だが、まだ体の使い方などについては全く意識していなかった。
「中学の時はただ投げているだけでした。しかし高橋監督から体の使い方を教わって、とても新鮮でした。しかし難しさを実感しました」

 野球部訪問でも紹介したが、高橋監督は投手に対し、理にかなったフォームを身につけさせるために、3つのポイントを指導している。

・立ち 左足をバランス良くマウンドに立つことを意識(左投手ならば右足)
・はがし グラブ側の肩甲骨をきれいにはがすことを指す。左腕のグラブを上向きに伸ばすイメージ(左投手ならば右腕)
・受け 投げ終わりの時に左側の股関節で受ける(左投手ならば右投手)

 この3つが実践できれば、理にかなった投球フォームとなり、力を発揮しやすい。そうして、高橋監督は数々の好投手を輩出してきた。だがこの3つを実践するのはなかなか難しい。修得するためのメニューが霞ヶ浦には用意されているが、綾部はなかなかできなかった。

 しかし少しずつフォームの動きを覚え、さらに週2回のウエイトトレーニング、また練習前にはなるべく空腹の状態のまま練習しないように食事量を増やし、体を大きくした結果、2年春には最速138キロにまで伸びていた。

 そんな折、綾部はケガをしてしまい、2年夏には復帰し2試合登板したものの、「全く戦力になっていませんでした」。決勝戦後、1学年の上のエース・上野 拓真(現・青学大)から「監督を甲子園に連れていく俺たちの夢はお前らに託すからな」と言われ、気持ちに火が付いた。上野と同じ取手シニア出身で後を追うように霞ヶ浦に入学した綾部にとって、上野は大きな憧れだった。

「上野さんは僕から見て、完璧な投手でした。変化球の切れ、制球力、メンタルの強さ。どれも素晴らしく、僕の目標であり、超えなければならないと思って取り組んできました」
そんな先輩たちの熱い思いを忘れないために、今度は自分が甲子園へ導けるエースになるために日夜、努力を続けてきた。


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[page_break:フォームのポイントを掴んだ2年秋 エースとして全うした最後の夏]

フォームのポイントを掴んだ2年秋 エースとして全うした最後の夏

受けを意識する綾部 翔投手(霞ヶ浦高等学校)

 2年秋にはエースとなったが、茨城県大会準々決勝石岡一に6対7で敗れ、選抜出場は果たせなかった。甲子園に行けるチャンスは残り1回。秋が終わり、綾部はようやく高橋監督からの教えである「立ち」「はがし」「受け」の3つのポイントを掴んできた。
「秋が終わってからですね。だんだんフォームの感覚を掴んでストレートの勢いも変わってきて、140キロを超えるようになりました。変化球も思い通りに投げられるようになってきたんです」

 変化球はストレートを投げる時よりも腕を速く振ることを意識しているという。
「そうすると、スライダー、チェンジアップも面白いように空振りが奪えるようになってきましたし、投球も楽しくなってきました。今まで高低や横の変化、緩急を気にすることはなかったのですが、思い通りの投球ができるようになってから変わってきました」

 自身の成長とともに投球のコツをつかんでいった。そして一冬越えて迎えた3年春、公式戦後の練習試合で最速145キロを計測。綾部に備わっていたポテンシャルの高さが思う存分、発揮されるようになってきた。
「秋、春と勝ちきれないピッチングが続いていたので、夏は調子をピークに保って、勝てる投手になろうと思っていました」

 しかしなかなか調子が上がらないまま夏に入った。茨城大会3回戦の、4回戦の水海道一で1イニングずつ。そして準決勝では明秀学園日立と対戦。綾部は10安打を打たれながらも4失点完投勝利を挙げ、決勝進出を決める。

「確かに調子はピークではなかったけれど、夏は勝つことにこだわっていたので、この試合は粘り強く抑えることができたと思っています」
と振り返った綾部。そして6度目の挑戦となった決勝戦。試合前には先輩たちが駆けつけており、「高橋監督を漢にしてくれと先輩たちに言われましたし、自分もそのつもりでした」と気合を入れて臨んだ決勝の日立一戦では7回からリリーフで登板し、3回無失点の好投で甲子園出場を決めた。

 エースとして勝つ。その投球を実践した茨城大会だった。


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[page_break:人間的にも、選手としても大きく変化した3年間]

 迎えた甲子園広島新庄戦(試合レポート)に先発した綾部だったが、5回3分の2を投げて被安打9、4失点と本来の投球はできずに終わった。だが甲子園のマウンドを踏んだことに綾部は満足気だった。
「何度も決勝にいきながら甲子園にいけなかった先輩たちの思いもあり、甲子園のマウンドに立てたのは本当に良い経験でした。1回は勝ちたいと思っていたんですけど、そこは残念でしたね。ですが、甲子園で投げられたので悔いはないです」

 最後の夏は霞ヶ浦のエースとして全うし、高校野球生活を終えた。

人間的にも、選手としても大きく変化した3年間

綾部 翔投手の高校3年間を表す一言は「変化」(霞ヶ浦高等学校)

 そして9月15日、綾部はプロ志望届けを提出した。小学校の時から憧れ続けてきたプロ野球選手への道。高校入学時は全く想像できなかったものだったが、今では選手としても自信が出てきた。志望届けは高橋監督と相談し、提出したという。
「指名されるか分かりませんが、プロでやっていく覚悟はできています」

 決意を新たにした綾部は新チームの手伝いをしながら、自分の時間ができた時には体を動かし、準備をしている。次のステージでは「勝てる投手になりたい」と意気込む綾部。そのために「調子の波を少なくする」ことを追求しているという。

 高校3年間を一言で表すと?という質問に対しては、「変化」です、と答えた綾部。その理由とは、
「僕の中学時代を振り返ると、全くダメだったと思います。でも、霞ヶ浦での高橋監督や先輩たちの指導のおかげで、人間的にも、選手としても大きく変化した3年間だったと思います」

 ドラフト指名を受ければ、同校ではかつてヤクルト・スワローズに在籍していた上野 忠(現・東北楽天ゴールデンイーグルス ブルペン捕手)以来のプロ入り。高橋監督の教え子では初のプロ野球選手だ。

 自分を大きく成長させた高橋監督への恩返し。それはプロで活躍すること。覚悟を持ってプロ志望を決めた綾部 翔は10月22日、吉報を待つ。

(取材・写真/河嶋 宗一


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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