Interview

中央大学 河合 泰聖選手(龍谷大平安出身)【後編】「人は、自分よりも他人のためになると力を発揮する」

2015.03.20

 後編では選抜の各試合について、河合 泰聖選手に事細かく振り返っていただきました。そして甲子園を目指すために何が必要なのかもアドバイスをいただきました。

第86回センバツの振り返り

河合 泰聖選手(龍谷大平安-中央大学)

 2年連続出場を果たした龍谷大平安。沖縄遠征を行い、本番へ向けて準備をしてきた。

センバツ
「沖縄に遠征したのですが、ほとんどの試合を大差で勝ちはしたんです。ただ、バントが全然決まらなくて打線もつながらなかった。だから京都に戻ってきてからバントとケンカボール(塁間を全力で投げる)でのキャッチボールを徹底してやり直しました。

 打撃のチームって、ミズモノとか思われるかもしれないですけど、やることはやりました。ノーアウト一塁なら、バントを確実に1球で決める、というのもそのひとつ。気持ちを強くして臨まないと失敗しますから。あと、ピーキングもしました。

 チームにいるトレーナーさんのトレーニングをやると、なぜかわからないんですけど、身体のキレがすごく出るんです。内容自体はサーキット系でめちゃめちゃきつかったんですけどね。そこで、本番でピークを迎えるために、甲子園入りから逆算してトレーニング日程を組みました」

 そして甲子園に入っていく。

1回戦 鹿児島大島戦(16対2)
「甲子園の初戦ということで、みんな緊張していました。甲子園経験者は自分と石川だけでしたから。チームは5回までカチカチに固まってましたね。でも3回に元氏 玲仁がホームラン、そして5回に常 仁志がホームランを打ってほぐれていった。2人のおかげでした。自分がなんとかしたかったんですけど、それはできませんでした…」

2回戦 八戸学院光星戦(8対2)
「初戦の課題としては初回から攻勢をかけられなかったこと。だからこの試合は初回から思い切っていこうと話をしていて、結果1回に打者一巡で5得点。打線のつながりがあった試合でした」

準々決勝 桐生第一戦(5対4)
「自分のせいで負けかけました。僕のエラー2つが失点に絡み、2回に4失点。平安は2、3回に1点ずつ返して、2点ビハインドのまま試合は終盤へ。7回に1アウト二、三塁から僕に打席が回ってきて。追い込まれてからストレートを待っていたらカーブが来てサードゴロを打ってしまった。そしてサードランナーの徳本 健太朗(現青山学院大)がホームにつっこんできて。“おい、くんなよ!”って思ったんですけど、足がめちゃめちゃ速くて余裕でセーフ。

 で、続く中口 大地がきっちりライトへ犠牲フライを打ってくれた。それで延長10回は自分からで。なんとしても塁に出ると、ピッチャー強襲ヒットを打って、そこからワイルドピッチ、バント、四球、四球で最後はワイルドピッチでサヨナラ。
 この試合はこれまでの野球人生を振り返っても転機となった試合でした。自分のせいで負けているのに、絶対逆転すると思ってくれた仲間に感謝してもしきれない。自分がなんとかしなければいけないのにできなくて、でも仲間に助けられた。仲間のありがたさを痛感した試合でした」

準決勝 佐野日大戦(8対1)
「この試合に関しては、自分的には嫌な感覚があって。大会ナンバー1左腕と言われていた田嶋 大樹(現JR東日本)がいて、下馬評では佐野日大が勝つと言われていました。だから絶対勝つぞ!と意気込んでいったのですが、結果に対しても、相手エースの投げすぎ、疲労がもたらしたものだという感じになってしまった。自分たちからすると、勝ったことに変わりはないんですが…」

決勝 履正社戦(6対2)
履正社とは前年秋の近畿大会準決勝でも対戦していて勝っていた(11対7)ので、やりやすかったというのが正直なところです。あの試合は中田 竜次(現龍谷大)のおかげです。4対2で迎えた8回裏、1アウト満塁2ボール0ストライクから登板して。初球がボールで3ボールになった。これはまずい、と思っていたのですが、そこからストレート、ストレート、スライダーで三振。次のバッターはカットボールでピッチャーゴロ。あの熱投にはしびれました。甲子園の観客が一番燃えた瞬間だったと思います」

第87回選抜高校野球 特設ページ
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[page_break:素振りをしないことで身に付けた勝負強さ]

素振りをしないことで身に付けた勝負強さ

河合 泰聖選手(2014年03月11日交流試合 対石川(沖縄)より)

 正直、素直に話してくれるので、聞いている側としては楽しくなってしまう。さらにもうひとつ印象を付け加えると、記憶力が抜群なのだ。今回、センバツを振り返ってもらう際に、手元に資料がなくとも、河合選手はすべて記憶でカウントやシーンを語ってくれた。

「頭がキレるとはよく言われます。逆に『要領よくやりすぎや』とコーチに怒られてました。どういうことかといいますと、抜くところは抜いていたんです。たとえばランニングで、全力で走るんですけど何本目かに抜く。それでまた次から全力で走る。それをバレないようにやっていたつもりがバレとって(笑)」

 キャプテンになってからは矯正していったというが、練習中に上手く息抜きするのも頭を使わなければできない。これは愛嬌話として、本題は、この頭のキレが「勝負強さ」につながっているのではないか、ということだ。

驚くべきことに、河合選手は素振りをほとんどしたことがないという。

「自分でこんなこと言ったらダメなんですけど…」と前置きしつつ、「自分の考えでは、バッティング練習で真剣に打てばいい、と。ゲージに入る前にティーバッティングをしますけど、そこで形を意識してしっかり打って、ゲージに入っても同じ形で打てれば問題はないはずで。自分の場合、ボールがないとバッティングの形が崩れるのでやらないんです。素振りひとつでおかしくなったりするんですよ。そのかわり、バッティング練習は真剣です」

 ふと、今や日本球界のエースとなった前田 健太投手(広島)(インタビュー【前編】【後編】)の、自分の考えに基づき投げ込みをしない、というポリシーを思い出した。自分でしっかり、かつ的確に思考できる。気休めで素振りはしない。

「でも相当バッティングの調子が悪い日もあるわけです。そんな日も素振りはしないですが、イメージをします」

 いったい、いつからそのような考え方を?

「小、中、高、ずっとです」

 最初、誰から教えてもらったのですか?

「いや、最初から自分で考えて」

 …小学生の時点で…。結果、「スイングの速さと広角に打てるバットコントロールには自信がある」バッティングの形ができあがった。相当な鍛錬を積んでいなければ、あの力み過ぎでもリラックスし過ぎでもない力感、前掛かりでも後ろ掛かりでもないバランスは生まれない。あの強打者に共通する「バッターボックスでのオーラ」は醸し出されない。その条件を、河合選手はより実践に近いボールを使ったバッティング練習でクリアしてきた。

 そして、素振りをせずバッティング練習により集中してきたからこそ勝負強さが生まれた、という効果もあった。
平安でレギュラーになったときも、限られたチャンスを立て続けにものにした。センバツでは7安打で7打点を叩きだした。そして、決勝の最終打席で放ったホームランは、じつはいろんな意味で勝負強さを物語っている。

準決勝で徳本がホームランを打ったことで、公式戦でホームランを打ってないのは僕だけになっていたんです。だから悔いの残らないように打とうと思った結果がホームランになった。もう嬉しすぎてベースを一周している間の記憶がないくらいです。平安に入ってから一冬、延々とインローのボールを打ち続けました。監督から『このコースが一番飛ぶからマスターしろ』と言われて。結果、最短でバットを出せるようになり、どのコースも打てることにつながったのですが。あのホームランは、インローのストレートをすくい上げる形でライトスタンドへ運んだもので、まさに練習の成果が出ました」

 ちなみに、決勝の相手、履正社は中学時代に進学を希望した高校のひとつだった、ということも付け加えておく。

 勝負強さの証拠となるエピソードには事欠かない。その裏には、数・量ではなくただただ質を求め続けてきたバッティング練習があったのだ。

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人は、自分よりも他人のためになると力を発揮する

河合 泰聖選手(龍谷大平安-中央大学)

「大学では自分たちで全てやる、というところが高校と大きく違う点だと思います。高校生は自分たちでやれと言われてもできません。大人と同様には考えられない。だから、監督やコーチといった大人の指導の下、選手たちが動いて練習する。そのぶん、高校は少しやらされている部分があるんですよね」

 河合選手の場合は、大学野球の「自分たちで全てやる」システムには順応しやすいのでは――ここまでの話を聞いての私見である。なぜなら「自分で考える」という思考の素地ができあがっているからだ。

 そんな、この先も楽しみな河合選手であるが、最後にひとつ、甲子園を目指す高校球児へアドバイスをお願いしてみた。

「感謝の気持ちを常に忘れずにいることだと思います。応援して下さる方、支えて下さる方、わざわざ球場へ足を運んでくださる方に対する感謝。そして仲間を思いやる気持ち。自分がええかっこしたいから、自分だけ目立ったらええねん、ではなく。チームのために一人ひとりがどう動くか。そういう思いやりや心のつながりがないとチームはまとまりませんから」

 自分自身、かつてはやんちゃなタイプだったという。それがレギュラーになり、キャプテンになり、センバツの準々決勝桐生第一戦を経てこの言葉につながっている。

 単純にきれいごとに聞こえるかもしれない。だが、人は時として、自分より他人のために動いた方が力を発揮する。そのことを実体験したからこそのアドバイスには、聞き入れる価値がある。

(インタビュー・文/伊藤 亮

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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