Interview

中央大学 河合 泰聖選手(龍谷大平安出身)【前編】 「センバツ優勝キャプテンの本音」

2015.03.20

 1年前のセンバツを制したのは伝統校・龍谷大平安だった。過去37回挑んでも手が届かなかった日本一。宿願といえる優勝を果たしたチームのキャプテン・河合 泰聖選手は、その時、あの場所で何を思ったのか。そして、優勝に導いた4番打者の意外すぎる勝負強さの秘訣とは。キャプテン視点と4番打者視点、2つの視点から全国優勝の真実を探る。

「いい年に生まれた」

 京都が全国に誇る伝統名門校・龍谷大平安(以下、平安)が、38回目の出場にして念願の日本一に輝いた第86回センバツ大会から、ちょうど1年が経つ。平安といえば、伝統的に守備を鍛え、堅実に勝ち進んでいくイメージ。しかし、優勝を果たした代は打撃のチームだった。そして、その中心を担ったのが、キャプテンで4番を務めた河合 泰聖選手だ。

 優勝までの5試合、毎試合安打を記録。打率は15打数7安打で.467。「こんな身体では考えられないですけど、中学の時は1番バッターだったんです」というが、リードオフマンを任されていた理由「出塁率の高さ」はセンバツでも健在で、.652という数字。決勝履正社戦では9回の最終打席にホームランを放ち、優勝を決定づけた。

 それから1年。この春、中央大学へ進学した河合選手は、高校時代をどう振り返るのか。八王子市にある合宿所を訪ねた。

「優勝した瞬間は、それはめっちゃ嬉しかったです。ただ、あの瞬間のことを想像はできるのですが、具体的な記憶は飛んでいて…嬉しすぎたんですね。記憶があるのは、試合後に校歌を歌っている時ぐらいからです。アルプススタンドの前に整列して、みんなで並んで礼をする時は、『見たか、優勝したったぞ!』って誇らしい気分になりました。小学校から野球をやってきて、やはり甲子園は絶対憧れるものじゃないですか。それが出場できて、まさか自分が全国制覇するとは思ってもみませんでした。いい年に生まれたな、と感じます」

野球から離れようとした中学3年

河合泰聖選手(龍谷大平安-中央大学)

 常に全国が身近にある環境で育った。大阪府貝塚市出身。最初に[stadium]甲子園[/stadium]へ足を運んだのは2007年夏。2回戦の仙台育英対智弁学園だったと記憶している。
「小学校3年生ぐらいですかね。両親と一緒に見に行って。仙台育英のエースは佐藤 由規投手で、当時最速となる155キロをマークした試合です。強烈な印象でした。で、[stadium]甲子園[/stadium]、行きたいな、と」

 中学時代は奈良県の葛城JFKボーイズに所属。2011年ボーイズ日本選手権大会で日本一を達成する。
「2個上の代も全国制覇しました。大阪桐蔭で甲子園優勝した白水 健太さんや、社会人のトヨタ自動車で投げている青山 大紀さんがいらっしゃって。僕らの代が全国制覇できたのは、大和広陵から日本ハムに行った立田 将太(インタビュー【前編】【後編】)、6割彼のおかげです」

 先を行く先輩たちが全国で勝ち、強豪校へ進学し、甲子園に出場する。その姿は具体的な目標となる。「自分たちも頑張らなあかん」。自然とそう思える環境があった。憧れの選手は森 友哉(現西武)インタビュー。同じ左バッターとして彼のようになりたいと思った。バッティングフォームもマネをしたという。

 しかし、高校進学の際、ひとつの挫折ともいえるべき経験をする。
「行きたいと思っていた高校に行けなくて。希望通りにいかなかったので、高校で野球する気、あまりなかったんです。だから進学先が決まるのは遅かったですね。中学3年の9月ぐらいに決まりました」

 半ば気が抜けた状態で進学した平安。しかしそこには錚々たるメンバーがいた。高橋 大樹(現広島)、久保田 昌也(現國學院大)、田村 嘉英(現青山学院大)…。純粋にすごいと思い、高校野球に対する興味が再燃したという。そんな全国レベルの選手がそろう平安で、2年にはレギュラーとしてセンバツに出場するのだから、やはり只者ではない。

「最初は試合に出られなかったんです。でもいきなり起用された試合で3安打して。次に出た試合ではホームランを打っちゃったんですよ。それでレギュラーに定着したという。本当にきっかけひとつというか、ちょっと人生上手くいきすぎてますよね(笑)」

第87回選抜高校野球 特設ページ
2015年度 春季高校野球大会 特設ページ

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強くなるきっかけとなった甲子園での野次

河合泰聖選手(平成26年度春季近畿地区高等学校野球大会 準決勝 報徳学園戦より)

 河合選手の甲子園初登場は2年時のセンバツだ。2013年3月25日。初戦となる2回戦早稲田実業に2対4で敗退した。じつはこの時に、1年後のセンバツ優勝へとつながる布石が打たれた。

「早実に負けた時、スタンドから『原田、お前じゃ無理じゃ、やめてまえ』っていう野次が聞こえてきたんです。ベンチにいた僕ら全員、その声を聞いていた。“そんなこと、普通言うか!?”と。すっごい悔しくて。自分らの代では絶対に見返してやると心に決めたんです。それが僕らの代が強くなった一番の原因です」

 原田 英彦監督への信頼は厚かった。
「この人についていけば間違いないなと思っていました。なにより、立っている姿がかっこいいんです。選手にそう思わせる魅力のある監督さんで。僕らの代はみんな監督のことが大好きでした。それは、強い口調で言われることもありましたけど、言うことを聞いていれば上手くなれる、強くなれると思っていたのでがんばれましたね」

 その監督への容赦のない野次。意外なところからの発奮材料を得て、河合選手は新チームで1度も経験したことがなかったキャプテンを任されるようになる。

「僕らの代のキャプテンは監督さんでしたけどね(笑)。実際、キャプテンはなかなか決まりませんでした。ひとつ上の代が夏の京都予選ベスト8で敗退して、オフを1日挟んだ次の日から新チームがスタートする。いつもならその日にキャプテンが決まるのですが決まらない。自分と中口(大地・現國學院大)、高橋 佑八(現・関西大)、そして石川(拓弥・現亜細亜大)の4人で回してました。あ、途中で中口が抜けたので3人になりましたね」

 新チームになった瞬間から日本一を目指してきた。周囲の関係者から期待を寄せられ、原田監督にも「俺はなにもいわないから、自分たちでやりたいプレーをやってくれ」と言われていた。だが一方で、キャプテンは定まらないまま秋季大会へ突入する。

「1回戦の京都学園戦に勝利(8対1)した後、話し合ってキャプテンを決めろという話になり。全員で投票したんです。そうしたら自分が一番多かったので、それでいいんちゃうか、となりました」

 とはいえ、伝統の名門校で、小中時代にも経験していなかったキャプテンを務める――。その重圧は想像に難くない。ウリのバッティングにも影響しなかったのだろうか。

「言うだけのキャプテンじゃなくて、プレーで引っ張ろうと。野球ができないのにガミガミ言われたら、言われる方は嫌じゃないですか。キャプテンとして4番を打っている以上は打って引っ張ろうと。逆に苦手な守備面では、自分なりに努力はしましたけど、みんなにあまり言えなかったです。ただ、最近のキャプテンの中では、自分が一番うるさかったんじゃないかなと思います、おそらく」

 キャプテンの重圧を責任感に換え、4番打者の務めを果たす。そう考えてキャプテンとしても主砲としても結果を出してきた。実際、チームメイトからの信頼も厚く、監督からも認められた。
「最後にいいキャプテンやった、って言われて終わりたかった。そして実際、監督にそういっていただけたので、嬉しかったです」

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男らしい正直さ

 自分では「プレーで引っ張る」キャプテンシーだと分析している。ただ、もうひとつ、裏表のない正直な人となりが求心力になっていたのではないか。話を聞かせていただいていて、その潔い話しっぷりに正直さを感じたのだ。つまり「男らしい」。

河合泰聖選手(第44回明治神宮野球大会 準々決勝 日本文理戦より)

 たとえば、高校2年秋に近畿大会を制し、明治神宮大会へ出場した時の話。
「今になって言えることですけど、明治神宮大会で全国の雰囲気を味わうことができるじゃないですか。それで初戦を勝った後、準々決勝日本文理に負けたんですけど(5対6)、宿舎に戻ってから『なんか、(日本一)いけるんちゃう?』っていう話をしてました。試合には敗れたんですけど、僕らとしては手ごたえをつかんだんです」

 続いて、センバツ優勝後の話。
センバツで日本一になったら天狗になっちゃって。いや、それはなるんですけど(笑)、その期間が長すぎたと言いますか。自分たちが自信を持つのはいいんですが、相手を見下していた観があったのはいただけなかったなと。

 センバツ後、春の近畿大会準決勝報徳学園戦であるシーンがありまして。ピッチャーゴロをとった元氏(玲仁・現3年)に『低く投げろ』と言ったのに上へ悪送球した。僕はカットに入るべきなのに、それを忘れて『どこ投げてんや!』と言ってしまった。そんな失態をしてしまい、結局試合も敗れ(3対6)…。でも、あの敗戦を経て夏に向けてやっと一区切りつけられたんです」

 言葉を選びつつも、心の中にあることをはっきり話してくれる。以下、センバツで優勝するまでの振り返りを河合選手の言葉でまとめてみたが、よりその正直さがお分かりになるのではないだろうか。

 ここまで選抜前までの過程を振り返ってきました。聞いているだけでも楽しくなってしまう河合君のインタビューでした。後編では、選抜の各試合を振り返っていきます。

(インタビュー・文/伊藤 亮

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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