Interview

仙台育英学園高等学校 佐藤 世那投手「頭脳的フォークボーラーの進化の過程」

2015.02.24

 昨年の秋季大会で、仙台育英は16試合を戦った。その全てに先発したのがエース・佐藤世那である。全16試合中、13試合で完投、そのうち7試合で完封している。優勝した明治神宮大会も全3試合を一人で投げぬいた。それも、関西王者天理九州チャンピオン九州学院、2年ぶりに関東大会を制した浦和学院を相手に25回でわずか2失点に抑え、明治神宮大会優勝投手になり、全国にその名を知らしめた。

 佐藤といえば、テイクバックが大きい独特なフォームから投げ込む140キロを超える速球と落差が大きいフォークをコンビネーションとした投球である。今回はそのフォームのルーツ、フォークを決め球にするまでにマスターしたプロセス、最後に選抜に向けての意気込みを伺った。

投げ方は投手を始めた時から変わらない

 最速144キロのストレートを投げ込む佐藤。小学生の頃から、ストレートが速い少年として有名だった。仙台育英佐々木柊野主将は小学生の時、選抜チームで佐藤とバッテリーを組んだことがある。今は外野手だが、当時は捕手。自チームでは、仙台育英でもチームメイトの百目木優貴の球を受け、「百目木でも速いと思っていた」と言うが、「世那はもっと速くて衝撃でした。捕るのがやっとだった」と振り返る。

 佐藤と言えば、右腕を一塁側に大きく引いたテイクバックをとる独特の投球フォームに視線が注がれる。肩甲骨の柔らかさが成すことだが、佐藤が小学生の時に所属していた南光台東小野球愛好会の門田 洋監督は、当時から「柔らかかった」と証言する。ヒジの柔軟性も高く、「教わってはできない、しなるような投げ方をしていた」という。

 佐藤本人も「こう投げるんだよと言われたことはありません。元からこの投げ方です。小学校の時、上から投げたことがあるんですが、すぐに肩が疲れました」と笑う。これまでフォームをいじられたことはなく、自分の身体にあったやり方で野球を続けてこられたことは、佐藤にとって幸運だっただろう。

2年秋に見せ球と決め球のフォークを投げ分けるコツを掴む

佐藤 世那投手(仙台育英)

 佐藤の代名詞とも言えるのがフォークだ。
中学1年の終わり頃、変化球の取得に挑戦したのだが…。「横系を投げられなかったんです。遊び感覚でいろんな球を試していたら、フォークが自分でもビックリするくらいよかったんです。(秀光中監督の)須江先生にも『フォークが一番、いいんじゃないか』って言われて、練習し始めました」

 自宅の風呂で、人差し指と中指の間に瓶を挟んで水を入れたり抜いたりし、指の間の柔軟性や指力を鍛えた。試合で使えるようになると、中学時代は三振を取るための決め球として有効活用した。

 ところが、高校ではフォークを見逃されることが多くなり、「中学とは違う」と実感する。どうすればフォークが通用するかを考えてきたが、なかなか答えは見つからなかった。そして昨夏の4回戦・東北学院戦で佐藤は3番手で8回からマウンドに立っていた。3対3と同点の13回表、東北学院浅野太祐にカウント3−2から粘られた。フォークが決まらずに四球になることを恐れたバッテリーは内角直球を選択したが、これが決勝点となる勝ち越し本塁打になり、チームは敗れた。

 「夏までのフォークは速い時とゆっくりの時がありました。自然に分かれていて、思った通りにいかず、バラバラ。何で速い時とゆっくりの時があるんだろうと考えて練習していましたが、分かりませんでした」
握りを変えているわけではないが、勝手に速くなったり、遅くなったりするフォークは信頼できず、選択できなかった。

 新チームになり、練習していたある時、フォークのコントロールをつける感覚をつかんだ。
「2つの違いは、腕の振りと指の力の入れ方だと気付きました」
感覚を掴んでからは、決め球と見せ球、2つのフォークをしっかり投げ分けられるように練習した。様々なカウントでフォークが使えるようになると、ピッチングの幅が広がった。

 ところで、フォークを多投するとヒジへの負担が心配されるが、「フォークを投げるとヒジにくるとか、握力がなくなるから、あまり投げすぎない方がいいよとか言われますが、自分は腕の振りで投げて、あまり握力は使わないので、フォークを多めにしてもヒジへの影響はありません」と話す。

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良いイメージを持って投げることが秋の飛躍につながった

佐藤 世那投手(仙台育英)

 マウンドでの考え方が変わったことも秋の飛躍につながっている。
「以前は、マウンドで悪い方に想像して、いい方向に考えられませんでした。抑える感覚をつかみ始めてからは、いいイメージを持って投げられるようになったんです。やっぱり、気持ちなんだなと思いました。それでも、最初の方は失点すると、平常心を保っていられませんでした。試合を重ねていくうちに慣れて動揺しなくなり、打たれても、次の球で勝負しようと考えられるようになりました」

 黒星を喫した地区予選聖和学園戦では味方のエラーに焦り、まだ動揺があった。気持ちの変化があったのは、県大会1回戦の仙台西戦。8回裏に平沢 大河のタイムリーで1点を奪うまで、0対0と均衡した試合だった。

「1点も取られちゃいけないというのは、夏の東北学院戦の感覚でした。1点でも取られたら負ける、あの緊張感を思い出しました。ピンチもあったんですが、決め球として多めに使っていたフォークに相手が合っていなかったので、悪いイメージを持たず、自信を持って投げられました」

 フォークの使い分けで抑える感覚を覚えたことで、マイナスに考えることがなくなった。試合を重ねるたびに成長を遂げた、実りある秋だった。

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秋のベストピッチングを振り返る


エース佐藤 世那は歓喜で涙ぐむ(試合記事:2014年秋季東北地区高等学校野球大会 仙台育英vs八戸学院光星より)

 そんな秋のベストピッチングを尋ねると、ちょっと考えた佐藤は「東北大会八戸学院光星戦(試合レポート)と明治神宮大会天理戦(試合レポート)ですかね」と言った。

 八戸学院光星戦を振り返っていこう。
「今までの公式戦を振り返ると0に抑えても思い通りに抑えれないことがありましたが、この試合は失点はしましたが、思った通りに抑えられました。送りバントの場面で自分の正面にバントをさせたり、ほしいところで三振が取れたり。(秋季大会の)後半になってくると、経験も多くなるので、バッターへの攻め方が分かってきました。後半の方が考えるピッチングをできたなと思います」

 強打者揃いに対して、天理にはどんな投球を心掛けたのだろうか。

「この試合ではそれまで出来ていなかった、相手の逆を突く配球が出来たのも良かったです。あまり三振を取った記憶はないんですが、終わってみれば12個の三振を取っていました。初回、1番バッターに一球で仕留められた時は『やっぱり、違うな』と思い、3番バッターにも初球を捉えられて、『通用しないのかな』と思ったのですが、それにより、配球に気を使うようになりました。身体の疲労より、考え疲れました(笑)。接戦の時は“頭勝負”になると思うので、いい経験になりました」

 天理戦の話の流れで、決勝で対戦した浦和学院戦にも話は及んだ。

浦和学院戦も頭が疲れました。一回、一回、狙い球を変えてくるので、どれをどう投げればいいのかとずっと考えていました。マウンドに上がる前にキャッチャーと『こうしような』と話すのが普通ですが、それも出来ません。投げながら考えて、郡司 裕也のサインにかなり首を振った試合でした」

 佐藤は、全国大会のハイレベルな戦いの中で、相手を抑えたことよりも、投球術を身に付けられたことが収穫だったとも振り返った。

 センバツ大会では、秋の日本一投手ということで他校からマークされるだろう。その中でどんな投球を見せたいと思っているのだろうか。

「三振も取りたいですが、バッターが驚いてくれるといいなと思っています。空振り三振より、見逃し三振を奪えたり、見逃しのストライクを取れたり。バッターがどの球を狙っていいのか分からなかったり、どうやって打とうと考えたり、バッターが悩むピッチングをしたいですね」

 どのチームも成長して聖地にやってくるだろう。だから、相手の想像を越える投手になっていなければならない、と思っている。

(インタビュー・高橋 昌江

第87回選抜高校野球 特設ページ

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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